てきすとぽいトップページへ
第20回 てきすとぽい杯〈夏の24時間耐久〉
 1  24  25 «〔 作品26 〕» 27  47 
MK-69「最期に聞く声」
muomuo
 投稿時刻 : 2014.08.17 12:21
 字数 : 1000
5
投票しない
MK-69「最期に聞く声」
muomuo


 その墓前には、彼のことを記録したカードが捧げられている。二度と揃えられてはいけない、二葉のカード。一つは、只の人としての。もう一つは……

  ◆

 盲目の知的障害児ピエールは、誰からも愛される笑顔の持ち主だた。爛熟しきた文明社会、穢れきた現世にあて、一身に神の恩寵を受けられるとすれば彼をおいて他にはないと、誰もが確信していた。脳の解明が進んだ現代、知的障害は過去のものとなていたが、同時に頽廃の波に飲み込まれぬ者もまたいなくなていたからである。視覚、聴覚、四肢をも含む複雑な多重障害ゆえに、ピエールの神経にだけはメスを入れることができなかた。
 彼の器は大きかた。というより、ある日彼は、大きな大きな器になた。
 神なき時代の天界で、神の遺産たる「恩寵の宝玉」が魔族に狙われた時のことだた。三種の神器を守護する天使の一位、ガステエルが下界に逃げ延びて、宝玉をピエールの体内に隠したのである。僅かでも邪悪な心を持つ人間では恩寵の力が失われてしまい、天使自身の体には取り込んでも隠せない。下界において悪魔の襲撃から宝玉を守り通せる場所は他になく、ガステエルはやむなくピエールに神器を取り込ませたのだた。一度でも神の力を発動させると、その力に耐えきれず器のピエールごと崩壊して果てることを知りながら……
 けれども、抜き差しならぬ事態はすぐにやてきた。宝玉を携えた天使が地上に降り立たという情報を内通する堕天使から得た魔界のプリンスが、せかく下界に蔓延している悪意を浄化されては堪らぬと、四種の魔神器から一つを持たせた悪魔を地上にけしかけたというのである。発動されれば世の終わり。悪意の連鎖が連鎖を呼ぶ、阿鼻叫喚の同士討ち地獄と化すであろう。天使ガステエルは、神が戻るその時まで人間を絶やしてはならぬと、ピエールの魂を神に捧げる決意をしたのだた。その力によて人々が浄化されれば、代わりの器となり得る者も現れるに違いない。問題は何一つない。ただ、愛らしいピエールの笑顔を犠牲にすること以外には……
 時は満ちた。最期の一瞬、神の恩寵を得て彼の意識がはきりする。初めて光が宿たその瞳は、亡き父と同じ碧眼であた。
「君の顔が見えるよ、ガステエル。……母さんの顔も見える。妹の顔も見える。……ありがとう」
 家族は、世界は、初めて彼の声を聴いた。そして美少年は詠唱を始める。涙は見せなかた。
← 前の作品へ
次の作品へ →
5 投票しない