今回の応募作は全て僕が書きました
題名に冠した応募作とは、この作品のみではなく、全ての作品のことです。作者名が違
っているのは、複数のペンネームを用いたから。ここではTwitterのアカウントが作者名として使われているため、そんなことは不可能に思われるかもしれませんね。しかしTwitterのアカウントを取得した時点で既に、僕が応募者全員の意識を乗っ取っていたのです。
そんなはずはないと皆さん思われるでしょうが、ツイートしたり応募作を書いた時に、それが本当に自分自身の言葉だったのかを証明する方法はありませんよね。もちろん僕が皆さんを操っていた証拠も提示できません。でもそれはどうでもいいことなんです。どうせ僕だけにしか理解できない領域ですから。
そしてどの作品が大賞に選ばれようと、それは全て僕の手柄になります。上手く書けない腹いせに出鱈目を言っているわけではありませんよ。先程も申し上げたように全ての作者が僕なのですから、当然この作品の著者も僕が成り済ましています。さてそうすると僕の正体は誰なのか皆さん気になりますよね。
実のところ余りにも長く生き続けてきたもので、自分の名前なんて忘れてしまいました。まあそれも僕の自作自演なんですけれど。そもそも僕は万物の創造主なので、自分の名前だって自分で名付けなくてはいけません。けれども最初に付けた名前は覚えていないので、とりあえず「神」ということにしておきましょう。これも人類が僕をそう呼ぶように仕組んだだけなんですが、割とポピュラーなニックネームなので。
ところが「神」と言っても宗教などによって意味合いが違ってきます。いわゆる聖典の類も全て僕が書いたものですが、その時のフィーリング次第で考え方も変わってしまう気まぐれな性格だから、整合性とかどうでもいいんですよ。僕より偉い存在はどこにもいないので、誰かに咎められることもありませんし。いわゆるワンマン経営って奴ですね。
経営といっても宇宙全体のことですから、細かいところは部下に任せています。彼らにも正式な役職名があるんですが、これも思い出せないので仮に「天使」ということにしておきましょう。何人か集まって話をしている時に、理由もなく全員が黙り込んでしまう瞬間を「天使が通り過ぎた」と言ったりしますよね。それは本当に言葉通りの現象で、彼らが皆さんの言動を操っている証拠のひとつです。
彼らは余りにも優秀すぎるので、僕が自ら行動に出ることは滅多にありません。しかし何もすることがないと退屈なので、今回のように時おり出てきます。周囲に天使たちがいるなら話し相手になってくれそうなものですが、僕の代わりに何でもしてくれるイエスマンばかりなので、やっぱりどうしても僕の意思に逆らってくる者はおらず、孤独を癒してくれるほど面白い者はおりません。
それじゃ流石につまんないので、反抗的な存在として「悪魔」を作ったのも僕です。きっかけは「週刊少年ジャンプ」という漫画雑誌を読んだところ、バトル物が人気だったからです。創造主が漫画雑誌の影響を受けるなんて時系列的に変に感じる方もいると思いますが、時系列なんて神にとって何の意味もないんですよ。
それに悪魔の陣営は敢えて僕が制御できないように加工してありますから、自分で作ったにも関わらず滅ぼすこともできなくなってしまいました。創造主がコントロールできないなんて矛盾しているようですが、その矛盾という構造からして僕が組み込んだものなので、何の問題もありません。
そういえば「神は死んだ」なんて誰かに言わせた記憶もありますが、それはタイトーから発売されたファミコンソフト『たけしの挑戦状』をクリアするために必要な操作が余りにも理不尽すぎて、攻略本を読んでも役に立たなかったことから、ユーザからのクレームが相次ぎ、攻略本の編集者が「担当者は死にました」などと言ってごまかしていたのを参考にしました。要は疲れていたのでソッとしておいてほしいと思ったわけです。
これまた時系列が変ですが、先ほど申し上げたように、最新の情報を元にして過去の世界を変えるのは簡単なんです。ただしそれによって歴史の流れに不具合が発生する場合もありますから、そこは天使に命じて整合性を保つようにしてきました。先ほど聖典の執筆に際して「整合性なんてどうでも良い」と言っておきながら妙な話に思われそうですが、それこそ「整合性なんてどうでも良い」から矛盾していて当然なんです。
どこからどこまで修正する必要があるのか、その日の気分次第で変わってしまうものですから、僕の無茶ぶりに付き合わされた天使たちは大変だったと思います。けれども不平を洩らす者は誰一人いませんでした。その気になれば役に立たない人材を消去することもできますから、それが怖かったのでしょう。
僕の力は万能なので自分自身を消すこともできるはずなんですが、多分それを行うと世の中の何もかもが潰えてしまうため、興味はありつつも何とか我慢しています。僕がいなくなったら誰も僕を復活させられませんし、この世のあらゆる事象は僕の存在それ自体と一蓮托生なので、せっかく築きあげた世界のセーブデータを、単なる好奇心を満たすためにリセットしてしまうのは、勿体ないですからね。
さてはて困った事に、ここまで全て本当のことばかり書いてしまっているので、このままでは賞の趣旨に反してしまいます。そこで最後にひとつだけ嘘をついておきましょう。僕は神ではありません。(了)