第21回 てきすとぽい杯
〔 作品1 〕» 2  15 
携え帯びる
茶屋
投稿時刻 : 2014.09.20 22:42
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携え帯びる
茶屋


 誰かの携帯電話が鳴た。
 その場にいた皆がそわそわし始めたのだけれども、着信音に聞き覚えがないのか、誰も出ようとはしない。
 しばらくなり続けるので、幾人かの人は携帯を取り出し確認している。
 でも、やぱり違たようで、皆携帯をしまう。
 携帯は鳴りつづける。
 奇妙にゆがんだ音色の着信音。
 そしてバイブレーンの振動。
 一向に鳴りやむ気配はなく、誰も電話に出ることはない。
 午後の陽ざしが照り付け、汗が流れ出る。
 誰も話し出そうとはしない。
 沈黙の中に携帯の音は鳴りつづける。
 鳴りつづけ、鳴りやまない。
 もう、どれだけの時間が過ぎたかはわからない。それでも携帯が止むことはない。
 延々と携帯は誰かを呼び出し続ける。
 留守番電話につながることもなければ、諦めることもない。
 電話は鳴りつづける。
 音が次第に頭の中に忍び込んでくる。浸透してくる。耳にこびりついて離れなくなる。
 ああ、これは駄目だ。
 不快感に耐えきれず、立ち上がてその場を逃げるように去る。
 それでも、携帯の音が追いかけてくる。
 耳を離れてくれない。
 頭から離れてくれない。
 追い立てられるような焦燥から、己の携帯を見直すが、やはり自分の携帯からなている呼び出しではない。
 思わず電源を切るが、音は鳴りつづける。
 止めてくれと叫んでも、音は鳴りやまない。
 携帯の音は鳴りつづける。
 いつまでも、どこまでも。
 逃げ場なんてないんだよとでも言うかのように。
 僕らは逃れることなんてできないんだ。
 決して。
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