てきすとぽい
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第21回 てきすとぽい杯
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告白の返事
(
百里芳
)
投稿時刻 : 2014.09.21 00:29
字数 : 3165
〔集計対象外〕
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告白の返事
百里芳
誰かの携帯電話が鳴
っ
た。
安
っ
ぽいMIDI音源の『カノン』。今時こんな音を着メロにしているのは、俺たちのなかでは俊介しかいないだろう。俊介は理系
っ
ぽい顔立ちのメガネで一人称がワタシのくせに、『ボタンが無い機械なんて信用ならない』と頑なにスマー
トフ
ォ
ンを使いたがらない。
俊介が机の上に置いていた携帯電話を手に取る。
同じ炬燵に入
っ
ている俺と翔太の目が、俊介の携帯電話に集まる。
心臓がばくばくする。炬燵の中に突
っ
込んでいるはずの足が、なぜか冷たい。
かちり、と音を立てて俊介の折りたたみ式携帯が開く。俊介は、少し携帯を操作したあと、かすれる声で呟いた。
「
……
カラオケの広告だ
っ
た」
俺と翔太は大きく、溜息をつく。
「メー
ル来ないように、しておけ、よ!」
翔太が苛立ちを隠さずに吐き捨てた。
「無理だよ、ワタシにはそんな難しい設定出来ない」
「メガネのくせに、機械に弱いとか、おかしいだろ」
「メガネと機械音痴との間に相関関係はない」
「そうや
っ
てリクツ
っ
ぽい癖に、ガラケー
さえ十分に使いこなせないのがおかしい
っ
て言
っ
てるんだよ!」
俺はず
っ
と黙
っ
ている。口を開けば、行き場のないこのイライラを友人たちにぶつけてしまいそうだ
っ
た。
そもそも俺たち悪友三人が深夜23:30に黙
っ
て炬燵に入り、着信に神経をとがらせているのには理由がある。
大学の同期の怜奈ち
ゃ
んに、俺たち三人は同時に告白した。
彼女の答えは『明日の夜十一時半過ぎに電話で応える
……
てのはダメかな? ち
ょ
っ
と時間をおいて考えたいの』だ
っ
た。
こんな下らない
――
しかし俺たちにと
っ
ては大事件
――
ことのために、俺たちはほぼ無言でかれこれ30分は炬燵を囲んでいる。
怜奈ち
ゃ
んは同期のアイドルで、俺たちの代の男の8割は彼女の事が好きだけれど、俊介も翔太も想いを寄せているとは思わなか
っ
た。ましてや、ま
っ
たく同じ時間に同じ場所に呼び出して告白しようとは。
もしこのうち誰かが怜奈ち
ゃ
んと付き合うようにな
っ
たら、俺たちはこれまでと同じように友達でいられるのかな
――
なんて考えた瞬間、俺のポケ
ッ
トの中のスマホが震えた。同時に俺の身体もびくりと揺れたが、2人とも下を向いていたので気付かれなか
っ
たらしい。俺は、そ
っ
とポケ
ッ
トから携帯を出して、視線を下に送
っ
て番号を確認した。
「(怜奈ち
ゃ
んだ!)」
俺は何気ない顔で立ち上がると「お袋から電話きた。ち
ょ
っ
と話してくるわ」と言
っ
て外に向かう。その背後で、翔太が「便所、借りるわ」と言
っ
て携帯を持
っ
て炬燵からでた。
外は真
っ
暗だ
っ
た。俺の吐く息だけが白く光
っ
ている。
震える指で通話ボタンを押す。
『もしもし、雄也くん?』
「う、うん、俺だけど」
『私、あの後考えたんだけど
……
』
「
……
うん」
『
……
』
「
……
。
っ
……
。」
『雄也くんと、』
「 」
『雄也くんと、付き合おうと思うの』
「あー
……
。うん、そ
っ
か。ありが、とう?」
『えへへ、なんで疑問形なのー
?』
「え
っ
と、なんか
……
照れち
ゃ
っ
て」
『そ
っ
か、これからよろしくね』
「うん、こちらこそよろしく」
『あ、ごめん、お風呂入らなき
ゃ
だから、着るね。また、電話して、いい?』
「うん、もちろん」
『ありがと! じ
ゃ
、またね!』
通話が切れる。指の先が、まだ冷たい。
一度大きく息を吸
っ
て、吐き出す。肺の底に溜ま
っ
た澱が、出て行
っ
た様な気がした。
よし。よし、よ
っ
し
ゃ
ぁ
……
! 小さくガ
ッ
ツポー
ズ。
暗闇の中に梅の花が咲いているのが見える。今まで気が付かなか
っ
たけれども、梅の花
っ
てあんなに綺麗だ
っ
たのか。
あー
寒か
っ
た、と小声で言いながら部屋に戻る。
翔太は腹が痛いのか、背中を丸め炬燵の天板をじ
っ
と見つめている。
一方、俊介は腕を組み、眉間にしわを寄せてむ
っ
つりと黙
っ
ている。
――
そうか、こいつらはまだ電話を待
っ
ているのか。
二人は間接的に振られてしま
っ
た事をまだ知らないのだ。俊介は女性に対して初心だし、翔太はチ
ャ
ラチ
ャ
ラしている様でも誠実な奴だ。二人とも本気で彼女の事が好きだ
っ
たのだろう。そう思うと、ひとりで浮かれて「俺、怜奈ち
ゃ
んと付き合うことにな
っ
ち
ゃ
っ
た
~
」という訳にもいかない。
とりあえず二人に打ち明けるタイミングをはかろう。俺はにやけた顔が二人にばれないように頑張
っ
て顔をしかめ、うつむきながら炬燵に入
っ
た。
俺たちの間を静寂が支配する。
未だ翔太はじ
っ
と背中を丸めているし、俊介は眉間のしわを一層深くしている。
日付が変わる頃、俊介がぽつりとつぶやいた。
「もう解散しよう。き
っ
とワタシたちは彼女にからかわれたんだ」
「いや、それは違うと思う」俺は反射的に応えた。「
……
彼女にも都合がある。き
っ
と、何らかのあれで、電話とかが、出来無くな
っ
たりしたんじ
ゃ
、ないだろうか」
絶好のタイミングだ
っ
たと言うのに、俺は二人に打ち明けることが出来なか
っ
た。
不意に、翔太が顔を上げた。飴玉を間違
っ
て飲み込んでしま
っ
た時のような、中途半端な表情だ
っ
た。
「実はオレ、怜奈と付き合うことにな
っ
たんだ」
翔太の顔が、いつものように凛々しい物に戻
っ
た。
「さ
っ
き、便所とかい
っ
たけどさ、実はあれ怜奈と電話してたんだ」
「お前たちのコト考えるとさ、すぐに言えなか
っ
た。ゴメン」
「でも、オレも本気で怜奈のこと、好きなんだ」
翔太はたどたどしく、しかし俺たちに言葉を挟ませることなく言い切
っ
た。
「ち
ょ
っ
と待て」
俺が脳みそを動かせないでいると、俊介が少し大きめの声をだした。何時も冷静な奴には珍しい事だなあ、と真
っ
白にな
っ
た頭で考えた。
「ワタシの携帯にも、さ
っ
き電話があ
っ
た」
「怜奈さんからだ」
「『俊介くんと付き合おうと思うの』彼女は間違いなくそう言
っ
た」
「
……
怜奈さんが二股をかけるとは思えない。冗談なら早めにそうと言
っ
てくれ、翔太」
「は
ぁ
!? 冗談なんかじ
ゃ
ねえよ! 俺だ
っ
てさ
っ
き電話で『翔太君と付き合おうと思うの』
っ
て
……
!」
「じ
ゃ
あ、なんだ? 怜奈さんが二股をかけているとでも? こんな狭いコミ
ュ
ニテ
ィ
ー
で?」
二人とも近所迷惑なんてま
っ
たく考えずに怒鳴り合
っ
ている。今にもつかみかからんとする勢いだ。そんな二人を見て、俺はなんだか妙に冷静にな
っ
てしま
っ
た。
ともかく、二人を落ち着かせよう。近隣住民に迷惑をかけて後で文句を言われるのは、家主である俺なのだ。
「ま、まあ、二人とも落ちつけよ
……
」
「なんだよ、雄也! こいつ自分が振られたから
っ
て、オレの事うそつき呼ばわりしているんだぜ!? 落ちつけ
っ
て方が無理だ」
証拠だ
っ
て有るんだぜ、と言いながら翔太はスマー
トフ
ォ
ンのデ
ィ
スプレイを俺たちに突き出してきた。
[11:45 着信 カワセ レイナ 080-xxxx-xxxx]
翔太の着信履歴に表示されていたのは、間違いなく怜奈ち
ゃ
んの電話番号だ
っ
た。
「え
……
、じ
ゃ
あこれは」
そう言いながら、俊介が折り畳み式の携帯電話を開く。そこには
――
[11:45 着信 カワセ レイナ 080-xxxx-xxxx]
俊介の着信履歴に表示されていたのは、間違いなく怜奈ち
ゃ
んの電話番号だ
っ
た。
翔太も俊介も、目を見開いてお互いの携帯電話を見比べている。
俺は自分の携帯電話をちらりと確認すると、なんと言
っ
て良いかわからなか
っ
たので、無言で二人にスマー
トフ
ォ
ンを突き出した。
[11:45 着信 カワセ レイナ 080-xxxx-xxxx]
俺の着信履歴に表示されていたのは、間違いなく怜奈ち
ゃ
んの電話番号だ
っ
た。