てきすとぽい
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第23回 てきすとぽい杯
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Re:conn-ect
(
犬子蓮木
)
投稿時刻 : 2014.11.15 23:24
字数 : 2430
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Re:conn-ect
犬子蓮木
はあ、疲れたな。
夜十一時、俺は仕事を終えて帰宅した。今週もや
っ
と終わりだ。明日は土曜日なのでゆ
っ
くりいつまでも寝ようと考えていた。
シ
ャ
ワー
を浴び、静かで誰もいない家で簡単な食事をとる。ほんの数日前までは家族がいたのに、今はひとりにな
っ
てしま
っ
た。
つい先日、離婚した。
小学生だ
っ
た子供は元妻が引き取り、俺だけがこの家に住み続けることにな
っ
た。荷物が減り、広くな
っ
た部屋、誰の声も聞こえず、どうしても暗い気持ちになる。
食事のあとかたづけを終えて、テレビを見ていた。スポー
ツニ
ュ
ー
ス。ひいきのチー
ムが勝
っ
てうれしいという気持ちがあ
っ
たが、そんなうれしさも、どこかで違うのではないかという気がしていた。
ほんとうにそんなものが楽しいのか?
そんな風に内側の誰かが問いかけてくるような。子供がいなくな
っ
てからの数日、どんな楽しいことにもそんなむなしさがついてまわ
っ
てきていた。
いつかなれるんだろうか。
なれて忘れて楽になれればいいな、と思う。職場の友人もそうい
っ
てくれた。でも、それは悲しいことなんじ
ゃ
ないかとも思う。
俺が忘れたら、あの子も俺を忘れてしまうんじ
ゃ
ないだろうかと。
いや、それは関係のないことだ。俺がどんなに覚えていても、あの子はいずれ、俺のことをほとんど思い出さなくなるだろう。新しい父親になついて、それが普通にな
っ
て、いずれ俺のことはず
っ
と小さな頃のおぼろげな思い出程度になる。
棚からノー
トパソコンをひ
っ
ぱりだした。
てきとうにネ
ッ
トでも見ようかと思
っ
た。
そうしてつけてみると、見知らぬフ
ォ
ルダがあることに気付いた。中を見てみるとどうも子供が作
っ
たものらしい。このパソコンは家族共用のものだ
っ
たから、まだデー
タが残
っ
ていたのか。
よくわからないフ
ァ
イル名のテキストフ
ァ
イルがあ
っ
たので開いて見た。
『タイトル:あとで考える』
どうもあの子が書いた小説らしい。ち
ゃ
んと完成してはいないらしく、設定のメモなどがフ
ァ
イルの上のほうに散らか
っ
ていた。誰々が死ぬとか、どんなトリ
ッ
クとか。どうもミステリを書こうとしていたらしい。
そういえば、そんな本を買
っ
てあげたなと思い出す。最初は漫画でミステリものがあ
っ
て好きにな
っ
たらしいが、そのまま小説にも手を伸ばすようにな
っ
たらしい。
その本がまだどこかにあるだろうかと考えたけれど、本のほうは持
っ
て行
っ
てしま
っ
たようだ。い
っ
たい、どんなのを書いたのだろうな。俺は、子供が書いた途中までしかないミステリを読み始めた。
舞台はどこかのお金持ちのお屋敷。そこで主のお金持ちが殺され、どうも部屋は密室だ
っ
たらしい。たまたま招かれていた少年探偵が、事件を捜査していた。
読みにくいなー
とか、間違
っ
てるなー
というところが多い。おもしろいか、と言われればし
ょ
せん、小学生の書いたものという感じだ
っ
た。さらに、解決編が書かれておらず、第二の殺人がまた密室で起こ
っ
たところで小説は終わ
っ
ていた。
これは続きを書く気があるのだろうか。
そうであるなら、送
っ
てやろうかと思
っ
たが、フ
ァ
イルの更新日時を見ると日付は一年ほど前だ
っ
た。どうも飽きて忘れてしま
っ
たものなのか。
それなら送らなくていいかと思
っ
た。
そこで、また別の考えもも
っ
た。
続きを書いて送
っ
てやるか。
どんなトリ
ッ
クにしようとしてたのかはわからない。メモもあいまいだ
っ
た。ただ、まあここに書かれているものが成り立つようにすればいいんだろう? そうい
っ
た本なら趣味ではないがいくつかは読んだこともあるし、ち
ょ
っ
と書くぐらいはできなくもないだろう。
俺は、なんだか久しぶりにやる気をだして、パソコンのキー
を叩きはじめた。
よろこんでいるあの子の顔を思い浮かべながら。
三
ヶ
月後、どうにかこうにか書き上げたものを元妻にメー
ルで送
っ
た。あいつもそんなにひどいやつではないし、ものすごいケンカ別れをしたわけでもない。子供に見せてみると返事が来た。
なんだか不思議な気持ちだ
っ
た。
じぶんでなにかを作
っ
て見せるなんて久しぶりだ。ここ数年では、休みの日にち
ょ
っ
とした料理を作
っ
て家族に出した程度しか覚えていない。仕事は、なにかを作るというよりも人と話して関係をつなげるようなものばかりだ
っ
た。
おもしろいと言
っ
てくれるだろうか。
よろこんでくれればいいな。
そんなおかしく新鮮な気分で数日を過ごしていた。そろそろだろうか、と元妻に催促のメー
ルを出してみたが「少しは待て」としかられるような返信だ
っ
た。ただ、ち
ゃ
んと読んではくれているらしい。
さらに数日後の日曜日に電話があ
っ
た。
最初は元妻だ
っ
たが、その後、子供に変わ
っ
てくれた。
「読んだよ」あの子が電話の向こうで言う。
「おう、どうだ
っ
た? なかなかよくできてるだろう」
「つまらなか
っ
たよ」
「ダメか、け
っ
こうがんば
っ
たんだけどな」
「勝手につづけないでよ」
「すまん。どこがダメだ
っ
た?」
「トリ
ッ
クがこうじ
ゃ
ないんだよ」
「それはメモになにも書いてなか
っ
たからなー
。でもこれで成り立たないか?」
「も
っ
とすごいトリ
ッ
クがあ
っ
たの」
子供がトリ
ッ
クの説明をする。それはど
っ
ちかというと荒唐無稽というようなものだ
っ
た。
「それはなかなか難しくないか?」
「難しくないとおもしろくないでし
ょ
。小さくまとま
っ
ち
ゃ
ダメだよ。あとタイトルがダサイ。なんとか殺人事件とかは今はないよ」
「うー
ん、そういうものか。じ
ゃ
あ、また書いてみるよ」
「ええ!」驚きの声。
「お前はもう書かないのか?」
「考え中、勝手に終わりまで書かれち
ゃ
っ
たし」
「それはすまん。また新しいの書けよ、そしたら読むから」
「いいけどさー
」
そんなやりとりをして電話を終えた。つまらなか
っ
たかー
。よくできてると思うんだけどなー
。まあ、この間、思いついた別のトリ
ッ
クで新しいのを書いてみるか。こ
っ
ちのほうが派手だしな。
ノー
トパソコンをひ
っ
ぱりだして立ち上げる。新しいテキストフ
ァ
イルを開いて、先頭に二回改行を入れた後で最初の文字列を書いた。
『タイトル:あとで考える』 <了>
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