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第23回 てきすとぽい杯
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みみずののたくったような
 投稿時刻 : 2014.11.15 23:25
 字数 : 1283
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みみずののたくったような
たこ(酢漬け)


「私が死んだら遺灰は海に撒いてください」
 その小説はそんな書き出しで始まていた。それから次のように続いていた「どうしてそんなことを聞くの?」と。
そのセリフには次のように返されていた。「もうすぐ死ぬからよ」と。
その本を読んだのは何年前のことだろうか。そういうことは曖昧にしか覚えていないくせに、その書き出しだけは鮮明に覚えている。
 内容は、よく覚えていない。人が死ぬ話だた。悲しい話である。
 その本を読んだ時には大して何も感じなかた。それから月日が流れて、私は一人の女性と出会た。
 それだけ聞けばよくある類の話だと思う。そうして私はその女性と付き合て、結婚することになた。お互いにあまり知らない状況で付き合たのだけれど、意外と気が合た。
 私は毎日の生活に幸せを感じるようになたし、そんな風にしてこれからも人生が続いていくのだろうと思ていた。
 そんなある日、妻が思いがけない言葉を口にした。
「私が死んだら遺灰は海に撒いてください」
 私はその言葉を聞いてぎとした。どこかで聞いた言葉のような、デジブに襲われた。
 だけど、そんなことはよくあることだろう。これだて何かの偶然だ。私はそう思て、「あ、そうだな」と答えた。
 そこでやめておけばよかたのだと思う。きと未来の私がいればこう言うだろう。
「おい。やめるんだ。それ以上聞いちだめだ。一生後悔することになる」
 だけどその場所に未来の私などがいるはずもなく、やはり私は聞いてしまうのであた。
「でもなんでそんなことを言うの?」と。
私は聞いてしまた。タブーにでも触れたかのように周りの空気が冷たくなていく。
妻は答えた。
「もうすぐ死ぬからよ」と。
 その日はそれ以上妻とは会話をせずに眠りについた。次の日に目を覚ますと、ベドはもぬけの空になていた。妻の眠ていたところが、まるで体で型を取たかのような形をしていて、それでいて、妻の不在を容赦なく私に宣告していた。
 それを見て、私はその日仕事に行く気などまたく失せてしまた。車を走らせて、妻がいるところへ向かた。
 何故か私にはそれがわかた。息を切らせて階段を上た。立ち入り禁止の札が壊されていた。
 妻がいたのは五階建てのビルの屋上だた。私は妻に声をかける。
「おい。やめるんだ。考え直すんだよ」
 屋上の端こで風に吹かれながら佇んでいた妻が振り返り、こちらを見る。
「だめなの。もう決またことなの」
 妻は泣きそうな顔でそう答える。
「そんなことはない。戻てくるんだ」
 私が必死に説得するも、妻は泣きながら首を振るばかりだた。
 次の瞬間はもう思い出したくもない。
「私が死んだら遺灰は海に撒いてください」
 妻は泣きながらそう言た。
「どうしてそんなことを聞くの?」
 私は泣きながらそう聞いた。
「もうすぐ、死ぬからです」
 その瞬間、泣き顔の妻の姿がふと消えた。走て手すりのところまで行き、下を見下ろすと、下の方に、妻の姿が見えた。それから慌てふためく通行人の姿も。
 涙があふれてきて、それ以上は見ていられなかた。
 そこまで読んで、私は本を閉じた。泣きながら本を読んでいた。
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