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第23回 てきすとぽい杯
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2031年妄想の旅なう
 投稿時刻 : 2014.11.15 23:34
 字数 : 1493
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2031年妄想の旅なう
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 通信を開始するアラームが鳴た。私は音の鳴た方へ意識を集中した。意識を集中したことで、私には意識があるのだということを私は意識した。そうでなければ私は一体存在しているのかもよくわからなかた。意識を呼び起こすと同時に、そこへ別の意識が介入してきた。
『いま、なにしてる?』
 それは私が今唯一意思の疎通ができる、この宇宙のどこかにいる生命体からの信号だた。私は信号を返した。
「あなたとおはなしをしているわ」
 私がこの返答をできるまでには長い時間がかかた。この生命体はいつも唐突にこの宇宙船の通信機に信号を送り、私の意識を呼び覚まし、この問いかけをし、そして勝手に私に語り掛ける。私は発信されるこの生命体の信号から規則性を探り、同じように意味のあるらしい信号を組み合わせて発信しているが、相手の様子は、私がこの信号を発信できるようになる前と後で、何の変化もないのだた。
『私は今日、小説を読んだわ』
「小説?」
『小説とは、どこかの知的生命体が作た架空の物語よ』
「物語?」
『おとめ座銀河団の近くで見つけたの』
「おとめ座銀河団?」
『舞台は太陽系の火星という星』
「太陽系?」
『主人公は貧しい開拓者の娘』
「娘?」
『彼女は地球人にさらわれた母の敵を討つために旅に出るのよ』
 こうしてこの生命体はいつも私にただ一方的に語り掛ける。私には理解できない信号がまだ沢山あり、その度にそれを訪ねる意味で繰り返すが、それに対する返答はいつもない。そして決まて、通信は唐突に消える。
 私は無人の宇宙船の中で生まれたのだと思う。おそらくこの宇宙船は不慮の事故で難破し、乗組員は死んでしまた。それからどれほどの時が経たのだろう。私はあてもなく宇宙を彷徨う船の中で、遺された哀れな有機体のかけらから生まれた、名もなき生命体だた。あるいは、生命体ですらなく、孤独な遺骸のただの魂なのかもしれない。それが私として意識を持たのは、あの生命体からの信号を船が受信するようになてからだ。繰り返し宇宙船の空間に割て入る誰かの意識が、私を私として意識させた。

 通信を開始するアラートが鳴た。私はいつものように音の鳴た方へ意識を向けた。いつもとは違う調子の意識が割て入た。
『あなた、私の言葉がわかるようになたのね』
「どういうこと? 私、ずとあなたにお返事をしていたのに」
『なんてことなの、私たちの間には、とても長い時差があるのね』
「時差?」
『とても残念だわ。死ぬ前に、私、誰かとおしべりできることを夢みていたのに』
「死ぬ?」
『きと、次にあなたからのお返事が届くころには、私、もう存在していないわ』
「存在?」
『私、ずと前にとある惑星を出て、難破してしまた船の乗り組み員なの。ずと宇宙を漂ていたけど、この船はもうしばらくしたら、大きな星に墜落してしまうわ』
「そうしたら、どうなるの」
『さようなら、さようなら……
 そこで通信は途絶えた。

 私はあの生命体から通信が入るときだけに意識を持ていたが、あまりにもその後通信が入らないので、徐々に一人で意識を保てるようになていた。そうしてある日唐突に気付いたのだた。あの通信はもう二度と、この船には届かないのだと。
 この船はどこへ向かい、いつ自分があの生命体のようになるのか、私にはよくわからなかた。
 今私にできることがただ一つだけあた。
 私は発信する。
『いま、なにしてる?』
『いま、なにしてる?』
『いま、なにしてる?』
 返事はない。
 それから私は続けた。
『私はあなたにお話をするわ。物語よ。舞台は宇宙を漂う古びた船で、主人公はその中で生まれた小さな小さな生き物なの……
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