第24回 てきすとぽい杯〈紅白小説合戦・白〉
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契約と犬
茶屋
投稿時刻 : 2014.12.13 22:55
字数 : 1090
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契約と犬
茶屋


 カフラテに入れた薬が切れた頃合いだ。
 彼女はきと目を覚ますだろう。
 僕は、蝋燭の明かりを頼りに彼女へと近づいていく。
「目覚めたかい……運命の人」
 彼女の顔は恐怖に歪んでいる。
 それは僕のサデステクな感情を刺激し、ゾクリとする。
 だが、そんな興奮を覚えている場合ではない。
 この時を待ていたんだ。慎重に行こう。
 僕はゆくりと近づいていく。
「君は永遠になるんだ」
 彼女は怯えている。仕方がない。
 何も知らないのだから。
 いや、予感はしていただろう。そうでなければ、運命の人足り得ない。
「君は永遠になるんだ」
 蝋燭は魔法陣の結節点に並べられ、火を揺らめかしている。
 彼女はその中央へ据えられている。
 魅惑<チム>の呪術がいまだ効果を発揮しているのか、それとも薬がまだきいているのか、彼女の目はどこか恍惚としている。
 儀式は間もなく完成する。
 完成しなければならない。
 僕は彼女の側へ立つと、彼女の顔を覗き込む。
「永遠に僕とともに」
 僕は手に持たナイフをゆくりと持ち上げる。
 そして、僕は。
 彼女の指に傷をつけた。
 血がじんわりとにじみ出る。
 玉になり、滴るそれを僕は舌で受け止め、ゴクリと飲み込んだ。
 血の味。錆の味。好きにはなれないが、嫌いにもなれない。
 だがこれは必要な儀式だ。再び彼女と僕の枷を蘇らせるための
 そして僕は跪き、彼女の手に指輪を嵌める。
 彼女は不思議そうに、それを見つめている。
 彼女を縛めていた鎖が、ボロボロと崩れ去る。
「お久しぶりです。マイ・ロード」
 彼女はきとんとした様子で僕を見つめている。
 あれ? おかしいな?
 術式が成功していれば、彼女は記憶をよみがえらせる筈だ。
 そう。すべてはかつて紅蓮の魔女として恐れられた、ゲオルギーネ ベーケを蘇らせるための儀式だたのだ。
 彼女を封印しようとした追てたちから逃れるため、自らを人間の中に封印してきたのだ。
 そして僕は使い魔。彼女と盟約を結んだと言えば聞こえがいいが、騙されて契約書にサインさせられたしがない使い魔なのだ。
「ゲオルギーネ様?」
「誰それ」
「それがあなたの真の名です。あなたは私の主です」
「ふん」
 彼女は不敵な笑みを浮かべている。
 何やら嫌な予感がする。
「全部は思い出せないけど、なんとなくあんたが下僕てのは思い出してきた」
「そこ以外を思い出していただきたいのですが」
「伏せ! お座り!」
 その言葉に抗うことはできなかた。僕は言われるがまま伏せとお座りをする。
「なんだか面白そうなことになてきたね」
 彼女はそう言て笑たが、僕は恐怖のあまりぞと身を震わせた。
 だけど、僕はどこかで喜んでいた。
 あの頃のような大冒険が待ているような気がして。
 
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