第25回 てきすとぽい杯〈てきすとぽい始動3周年記念〉
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運命の出会い
投稿時刻 : 2015.02.22 01:22
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運命の出会い
三和すい


 ある日の夕方、仕事を終えた酔いどれペンギン戦士は宿に戻てきた。ペタペタと歩くその姿はどこか楽しげである。
 実際、酔いどれペンギン戦士は浮かれていた。護衛の仕事を無事に終えた解放感もあるが、馴染みの酒屋で美味い酒を手に入れたのが一番の理由だ。
 報酬をもらたその足で酒屋に立ち寄ると、店の中に何とも芳しい匂いが漂ていた。もちろん酒の匂いだ。
「新しい酒を仕入れたのか?」
 覚えのない香りに聞いてみると、
「お、わかりますか。さすがですね。ちうど今こいつの栓を開けたところなんですよ」
 酒屋の主人は酒瓶を酔いどれペンギン剣士に見せた。瓶に貼られた大きなラベルには、ウサギの絵と何やら見慣れない文字がびしりと並んでいる。異国と言うよりも古代魔法語のような複雑な文字に、酔いどれペンギン戦士は首をかしげる。
「どこの酒なのだ?」 
「それがわからないんですよ。知り合いが、亡くなた祖父さんの部屋で見つけたそうなんですが。ラベルも見たことがないものですし、書いてある文字も読めなくて」
「それにしても美味そうな匂いだな」
「ペンギンさんも味見してみますか?」
 差し出されたコプを、酔いどれペンギン剣士は喜んで受け取た。タダで飲める酒を断る理由はない。
 一口飲んだ時、酔いどれペンギン剣士はゾクリと背筋が震えた。
「これは……美味い!」
 続けてもう一口飲み、酔いどれペンギン剣士は「おや?」と首をひねる。さらに一口飲んで酔いどれペンギン剣士は驚いた。飲む度に酒の味が変わているのだ。しかも、どんな味に変わても美味く、そして飲みやすい。
「頼む! この酒を譲てはくれぬか?」
 仕事で懐に入たばかりのお金をすべて差し出し、酔いどれペンギン剣士は不思議な酒を手に入れたのだた。


「ああ、美味い……
 宿の部屋でひとりゆたりと酒を飲みながら、酔いどれペンギン剣士は呟いた。
 こんなに美味い酒を飲むのは本当に久しぶりだ。
 だが、さみしいことに瓶の中の酒は徐々に少なくなていく。
 酔いどれペンギン剣士は、酒瓶を、その中の酒をじと見つめた。
「お前に会えて、我が輩はとても幸せだ。できればこのままずとお前と一緒にいたいが、そうもいかぬ。だが、お前のことはけして忘れぬぞ。どこから来たのかは知らぬが、我が輩は必ずお前を捜し出し、ふたたび手に入れてみせる! そして、ずと一緒に暮らそう!」
 酔いどれペンギン剣士が心にそう誓た時、酒瓶がボワンと白い煙に包まれた。
 煙が消えた時、そこにあたのは空になた酒瓶と、一人の美しい少女。
「だ、誰だ? いたいどこから……?」
 突然現れた見知らぬ少女に、酔いどれペンギン剣士は戸惑た。透けるような白い肌に赤い目の少女だ。見た目は人と変わらないが、ウサギのような長い耳をしているところをみると、どうやら兎耳族の少女らしい。
 戸惑ているのは少女も同じらしく、辺りをキロキロと見まわしている。
 そして、少女の赤い目が、酔いどれペンギン剣士の目と合た。
……あなたが、私を助けてくれたのね」
 少女の言葉に、酔いどれペンギン剣士は首をひねる。
「助けた? 我が輩が?」
「私、魔法でお酒にされていたの。もう元の姿に戻れないと思ていたけど……
 酔いどれペンギン剣士に向けられた少女の視線が熱を帯びる。
(ああ、魔法で姿を変えられた私を助けてくれる人がいるなんて、まるで物語に出てくるお姫様と王子様のようだわ。けれど、何故その王子様がペンギンなの? 私を助けてくれた王子様が異種族だなんて……。でも、きとこれは運命なんだわ。よく見れば、つぶらな瞳に頼もしいお腹。きと私に相応しい素敵な王子様なのよ。それに、さきは私に会えて幸せだとか、ずと一緒にいたいて言てくれたわ。あんな情熱的なことを言われたのは初めて。異種族だとみんなから反対されても構わない。私は必ずこのペンギンさんを手に入れてみせるわ!)
 と決断を下すまで数秒。
 頬を赤く染めた兎耳の少女は、恥じらうように両手を後ろにまわした。
「ペンギンさん、あの、私……
 そう言いながら、兎耳の少女はふたたび胸の前で手を握りしめる。
 その手に持ていたのは、ひとふりの斧
 斧を構え、兎耳の少女は可愛らしく微笑んだ。
「あなたを狩て、あ・げ・る!」
「クケエ!」 
 酔いどれペンギン剣士は叫び声を上げると慌てて部屋から飛び出した。
 酔いどれペンギンは剣士だ。今まで様々な相手と戦てきた。中には手強い敵もいたが、怯むことなく戦てきた。しかし、
(あれは……ヤバい!)
 研ぎ澄まされた戦士の感が、ペンギンとしての本能が、アレと戦てはならないと告げている。
「あら、お待ちにな
 兎耳の少女は酔いどれペンギン剣士を追いかける。
 手に持た斧を振り上げながら。


 その頃、とある酒屋では。
「今さらそんな事を言われてもな」
 酒屋の主が渋い顔をしていた。知り合いが、渡した酒を返してくれと言うのだ。何でもあの酒瓶は魔法で何かを封じ込めたものだという記録が見つかたのだ。
「しかし、あの酒は馴染みの客にもう売てしまたぞ」
「そうか……。まあ、封印が解けなければ普通の酒として飲めるらしいんだが」
「それなら、きともう全部あの人の胃袋の中に入ているだろうな」
「なら安心だ。酒に解呪の魔法をかける人なんていないだろうしな」
 けれど、二人は知らなかた。
 この世には、どんな呪いでも解くことができる「真実の愛」という魔法があることを。
 そして、心から愛を告げるほどお酒が好きな剣士がいることを。
 この二つが引き起こした運命の出会いを、彼らはまだ知らなかた。
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