てきすとぽい
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【BNSK】品評会 in てきすとぽい season 13
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バードメン
(
古川遥人
)
投稿時刻 : 2015.07.19 15:21
最終更新 : 2015.07.19 22:09
字数 : 9978
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2015/07/19 22:09:11
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2015/07/19 20:08:43
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2015/07/19 20:06:25
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2015/07/19 18:25:25
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2015/07/19 18:21:13
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2015/07/19 15:22:54
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2015/07/19 15:21:43
バードメン
古川遥人
僕らの住む都市は周囲を高い壁に囲われている。
壁の高さは都市の発表するところによれば123.
6メー
トルとのことだ
っ
た。
なぜそんな高い壁が都市を囲むようにぐる
っ
と周
っ
ているのかと言えば、他の都市に容易に攻められないようにするため
――
という説明を都市側は行
っ
ていたが、実際には都市に出入りする人間を徹底的に管理し、物資や交易に関しても都市側が厳しく管理し、余計なものを入れたり、都市の大事な情報を外に出さないようにするための壁だ
っ
た。都市側の都合の良いように様々な操作を行うための壁である。いわばこの都市は、偉い人間たちによる虚栄心と猜疑心に囲まれている町なのだ。外に出られる人間なんて、ほとんど数えるくらいしか存在しない。たとえば国の政府から呼び出されたなど、よほどの理由が無ければ壁を越えて外へ出る許可は得られない。今年に入
っ
て半年ほどが経
っ
たが、僕が確認できる限りでは、今年に外に出る事が出来たのは五十人にも満たないほどだ。なんで都市がそこまで厳しく僕らの出入りを制限し、あまつさえこんなにも威圧的に立ちはだかる壁で僕らを囲うのかは僕たちにも理解ができない。ほとんどの住民は、この壁のことを不自由の象徴として見ていたし、一部のレジスタンスたちは数十年前にこの壁を破壊する活動を行おうとしたらしいが、破壊活動を行う前日にそれが露見して、処刑されたのだと言う。見せしめに町の真ん中で首を切られて、そのまま五日間ばかり死体が放置されたらしい。僕が生まれる前の話だ。だから僕らがその壁について話し合うことは、暗黙の了解で禁じ合
っ
ている。もちろんあんな壁が存在しなければいいとは思うけれど、壁について話しているだけでも都市を支配する人間たちは罰してくる可能性がある。だから僕は時折、空を見上げながら、あの壁の向こうには何があるのだろうと考えながら、親友のガシ
ェ
ルといる時しかその事を話せなか
っ
たりする。生まれてから一度もこの町を出たことない僕らにと
っ
て、壁は圧倒的な不条理の象徴であり、それを越えて大きく広が
っ
ている空は自由の象徴である。あそこまで高く跳べたなら、僕らはどこへだ
っ
て行けるだろう。ガシ
ェ
ルと一緒に空を見上げる時なんかに、僕は本気でそう思う。僕とガシ
ェ
ルは、壁を憎みながら空を睨むのだ。そうしていつかあの壁をぶ
っ
壊そう、思い
っ
きり飛び越そうと話したりする。
秘密の場所。僕らがよく集ま
っ
て遊ぶ場所がある。開発が中止にな
っ
て、工事中のまま森の中に取り残された作業現場だ。人がや
っ
て来ることはまず無い。僕らの担任のリタ先生が言うには、薬を持
っ
た危ない男が出入りしたり、中途半端に組まれた鉄筋が崩れてくる可能性もあるから危ないと言
っ
てこの場所への出入りを禁止しているけれど、少なくともガシ
ェ
ルにと
っ
ては、リタ先生の注意なんてどうでもいいことのようだ
っ
た。僕としては先生の言い分にだ
っ
ても
っ
ともな部分はあると思
っ
たけれど、先生の禁止令くらいではガシ
ェ
ルは止められない。僕にだ
っ
て止められない。彼は人のいないところで遊ぶのを好む奴だ
っ
たし、たとえ暴力的な男や精神的に危ない奴らが僕らの前に現れたとしても、ガシ
ェ
ルは自らの内に溜めた鬱憤と苦しみを暴力性に変え、どんな傷や怪我を負おうとも相手をボコボコにするまでフ
ァ
イテ
ィ
ング・マシー
ンのように動き続ける男なのだ。例えば以前、昼休みに隣のクラスのブランキー
という奴がガシ
ェ
ルに因縁みたいなものを付けてきたことがあ
っ
た。ブランキー
は金持ちの厭味
っ
たらしい男なんだけれど、彼は唐突にガシ
ェ
ルに向か
っ
て、『お前はアルコホリ
ッ
ク(※アルコー
ル中毒者)の息子の癖に、学校なんか来てんじ
ゃ
ねえよ。ここはまともな人間が通う学校なんだぜ、ガシ
ェ
ルくん』と笑いながら唾を吐きかけた。その瞬間ガシ
ェ
ルは、蓄積された鬱憤をぶつけるべき相手が現れてくれたと言わんばかりに薄笑いを浮かべて、速攻で相手の胸ぐらを掴み、目にもとまらぬ速さの右ストレー
トをブランキー
の頬にお見舞いした。それから軽快なリズムで繰り出されるフ
ッ
ク・フ
ッ
ク・フ
ッ
クを右頬に叩き込み、最後には重低音が聞こえてきそうなボデ
ィ
ー
ブロー
が彼の腹に一発決ま
っ
た。ガシ
ェ
ルの鍛えられた筋肉は、それをぶつけるべき相手がいる限り、エネルギー
を噴射し続けるロケ
ッ
トのような勢いで対象を痛め続ける。殴られた相手は泣きながら顔を腫らし、自ら喧嘩を吹
っ
かけてきたくせに慌てて逃げようとするのだけれど、胸ぐらを掴んだガシ
ェ
ルはそれを許さない。ブランキー
を地面へ放り投げてから馬乗りになり、顔面をヒステリ
ッ
クに叩き続ける。女子たちは悲鳴を上げ、優しげな男子たちは半歩下がり、血の気の多い男子たちは野次と声援を飛ばしながらガシ
ェ
ルの一方的なボクシングを楽しげに見ている。僕はガシ
ェ
ルのその暴走を止めようとしながらも、どこかでスカ
ッ
とするような気分を感じている。ガシ
ェ
ルにと
っ
て世界はとてもシンプルだ。気に入らない奴はぶん殴ればいい。それだけだ。かつて彼は言
っ
た。『俺を馬鹿にしてくるやつは、全部ぶん殴ればいい。陰湿な言葉しか吐けない惨めな馬鹿を黙らせるには殴るのが一番だ。殴
っ
て殴
っ
て殴り続けて相手に負けを認めさせればいいんだ。殴り合いは一番分かりやすいコミ
ュ
ニケー
シ
ョ
ンだと俺は思う。なあ、ミレフ
ァ
ント、この世は戦いなんだぜ。俺はお前みたいに顔が綺麗じ
ゃ
ないし、決定的に人と違うところがあるし、俺を馬鹿にしてくる奴も多い。だから俺には圧倒的な力が必要なんだ。俺の力で立ちはだかる壁を壊さなき
ゃ
いけないんだ。邪魔なものを全部殴
っ
て、憎たらしい奴らを全部ぶ
っ
飛ばして、目の前の道を切り開いていくしかねえと思うんだ。お前には迷惑かけるかもしれないけど、お前のことは全力で守る。俺にはお前しか友達いねえし』と、ガシ
ェ
ルは空を睨みながら言
っ
た。
そうして宣言通りに、目の前に現れる邪魔者をことごとく殴り飛ばしながら彼は生きている。彼の破壊に満ちた生き方は、とても危険だ。暴力で敵わない相手には屈するしかない。暴力だけで成り立つ世界はいつだ
っ
て、暴力でしか解決できない孤独を抱えている。しかし僕はガシ
ェ
ルのそんな生き方が、ある時にはとても格好いいとさえ思えるのだ。気に入らない奴は月までぶ
っ
飛ばす! ガシ
ェ
ルは笑いながらそう言うのだ。
そんな愛すべき破壊王ガシ
ェ
ルは、休日である今日も僕を秘密の場所に呼びだした。
彼らしくもない落ち着かない態度で、廃材の上に座
っ
て僕を待
っ
ていた。
「どうしたんだよガシ
ェ
ル。人でも殺しそうな顔してるぞ」
僕が軽口を叩くと、彼はストイ
ッ
クな殺し屋みたいな目つきで僕を睨んだ。物心つく前から一緒にいる僕にと
っ
ては、彼がただ真剣な面持ちをしているだけなのだと分かるけれど、彼をよく知らない人から見れば、彼が僕を殺そうとしているのじ
ゃ
ないかと勘違いするかもしれない。ガシ
ェ
ルは眉間にしわを寄せながら答える。
「顔については生まれつきだ。まあ、表情は硬くな
っ
てるかもしれねえ」
彼は笑みを浮かべようとして頬をひくつかせたが、それはただ頬が変に引き攣
っ
ただけだ
っ
た。笑みではなく怒りにしか見えない。僕は彼の表情の不器用さに少しだけ笑いながら、すぐに声のトー
ンを落として訊ねた。
「もしかして、あれについて?」
「そうだ」
彼は頷きながら、着ていたグレー
のシ
ャ
ツを脱いだ。
上半身裸になり、ゆ
っ
くりと僕に頷いて見せる。僕はドキドキしながら彼を見つめていた。彼は立ち上が
っ
て腕を広げて見せた。大きくな
っ
ている。抑えきれないくらいに大きくな
っ
ている。僕は一目でわか
っ
た。
「翼がすごく大きくな
っ
てるね」
「そうなんだ。十六歳の誕生日を迎えてから、理由は分からないが背中の羽がどんどん大きくな
っ
ているのが感触で分かるんだ。鏡で見ても、一年前よりはるかに大きくな
っ
てる」
「一年前までは、確か両手ぐらいの大きさだ
っ
たよね」
「ああ、でも今じ
ゃ
それぞれの翼が腕くらいの長さにな
っ
てる」
彼は僕に背を向け、肩甲骨から生えている美しい翼を見せてくれた。
まるで天使のように真
っ
白で、柔らかな印象を与える翼だ
っ
た。けれど、鍛え抜かれた筋肉を持つガシ
ェ
ルの背中に生えていると、それはなんだか野性味あふれる鳥の翼にも見えた。何と言うのだろう、翼自体の美しさとガシ
ェ
ルの屈強さが奇妙なコントラストを生み出している。だから翼を持
っ
たガシ
ェ
ルは、天使と言うよりも鷲や鷹、あるいは表情だけを見ればハシビロコウなどの鋭い眼光を持
っ
た鳥にしか思えない。
「どんどん隠すのが難しくなりそうだね」
心配にな
っ
て僕がそう言うと、彼は考え込むように顎に手を当てた。
「今まではタオルなんかを巻いて隠してたが、これだけ大きくなるとシ
ャ
ツが膨らんでるんじ
ゃ
ねえかと心配になるんだ。それにこれだけ大きくなると巻き付けた時にすごく窮屈で、圧迫される感じがする。あと、羽が擦れるのか痒くな
っ
てくる」
「でも何とか隠し通さないと、都市を監視する連中に目を付けられたら、最悪殺されるか、羽を引き千切られち
ゃ
うよ」
「そうだな
……
」
彼はそう言
っ
て、少しだけ落ち込んだような表情を浮かべた。
「ガシ
ェ
ルのお母さんは、どうしてたの?」
僕はそう訊ねる。ガシ
ェ
ルが翼を持
っ
ているのも、母親の遺伝子が彼に受け継がれたからだ
っ
た。ガシ
ェ
ルの母親は翼を持
っ
た種族だ。地域によ
っ
ては天使と呼ばれたり、ハー
ピー
と呼ばれたり、サキ
ュ