てきすとぽい
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【BNSK】月末品評会 inてきすとぽい season 2
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愛と装いを混ぜ込んで
(
ほげおちゃん
)
投稿時刻 : 2014.04.30 12:08
字数 : 19812
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愛と装いを混ぜ込んで
ほげおちゃん
本屋で参考書を買
っ
た帰り道、アイツに遭遇した。最悪だ。
女の人を連れていた。私より背が低い。そのくせ意外と胸があり、まるでCMの人みたいな綺麗な髪をしている。
誰だろうこの人。
アイツが口を動かした。「よう」
っ
て言
っ
てる。
なんだよ、「よう」
っ
て。そんなこと家で一度も言
っ
たことないじ
ゃ
ない。
私が無視して歩いていると、アイツと女の人も後をついてきた。
どうしてついてくるの?
そり
ゃ
アイツと私は同じ家に住んでいるんだから仕方ないかもしれないけれど
……
どうして女の人までついてくるの? もしかして家に連れ込むつもり? 勘弁してよ!
「ねえ奏(かなで)くん、知り合い?」
意外と、見た目よりは図々しい女の人の声が聞こえてきた。
「ええ、妹?!」
エミリー
の歌声に、悲鳴のような甲高い声が差し込んでくる。
「奏くん妹がいるなんて聞いてないよ!」
「どうして言わないの?」
「私はリー
ダー
なのよ。メンバー
のことはち
ゃ
んと把握しておかなき
ゃ
!」
うるさい。うるさいうるさい。
どうしてこのヘ
ッ
ドホンはあの人の声をキ
ャ
ンセリングしてくれないの? アイツの声はシ
ャ
ッ
トアウトするくせに
――
私は駆け出した。逃げているみたいで嫌だ
っ
たけど、それ以上あの場所にいたくなか
っ
た。
結局アイツはあの人を家に連れ込むことはなか
っ
た。どうやらそういう関係ではないみたい。毎日でもないみたいだし。
次にふたりを見かけたとき
――
警戒していたから鉢合わせする前に道を避けたのだが、女の人が肩にギター
ケー
スを担いでいることに気がついた。あの人がバンドのリー
ダー
なんだ。アイツ、高校に入
っ
てからしばらくして軽音楽部に入
っ
た
っ
て聞いていたから。この目で見るまで本当に活動しているのかどうか信じられなか
っ
たけど
……
女の人と一緒に、バンド組んでいるんだ。ふー
ん、別にどうでもいい。けど、不潔
っ
て気がする。ふつう男子と組むんじ
ゃ
ないの? 本当にアイツは何を考えているのかよく分からない。
「ねえ楓」
「なに?」
「うわ、機嫌悪い」
翠が両手を顔の前でぎ
ゅ
っ
として、怖がるふりをする。
「別に機嫌悪くない」
「ウソ、氷の女王様みたいな目をしているよ」
「氷の女王様なんて見たことないくせに」
私がそう吐き捨てると、翠はやれやれというポー
ズをする。
「また弟くんのこと考えていたの?」
「考えてない!」
「ウソ。だ
っ
て楓が機嫌悪くなるの
っ
て、いつも弟くんのことばかりじ
ゃ
ない」
「別に機嫌は悪くないし、アイツのことだ
っ
て考えてない」
私は翠の顔から目を逸らしそう言うと、わざと音を鳴らして席から立ち上が
っ
た。
「どこに行くの?」
「移動教室。だから呼びに来たんでし
ょ
?」
午後は二時間連続でパソコンの授業だ
っ
たのだ。
教室を出て、翠と並んで廊下を歩く。
道行く道を人が避けてい
っ
た。そんなに私は怖い顔をしているだろうか。
階段を降りて、中庭に沿
っ
たところで四人目の男子が道を譲
っ
てきて、
「もう、楓。いい加減にしとかないと誰も相手してくれなくなるよ?」
「え?」
ドキリとして顔を横に向けると、翠が眉をへの字にしていた。
「せ
っ
かく可愛い顔しているのにさあ
……
男子たち誰も怖が
っ
て楓に近づかないじ
ゃ
ない」
「なんだ、そんなことか」
本当にそんなことだ
っ
た。
だけど翠はその反応に不満なようで、
「『なんだ、そんなことか』じ
ゃ
ないでし
ょ
! 私たちもう高校二年生なんだよ?」
しかも秋! と翠は付け加える。
「今どき中学生どころか小学生で付き合
っ
ているのも当たり前なんだから! どんどん周りに乗り遅れち
ゃ
うよ?」
「別に乗り遅れても
……
」
「何言
っ
ているのさ! そのうちに花の高校生時代は過ぎていき、大学生、社会人
……
終いには三十路に四十路にな
っ
て一生独身で過ごすことになるんだよ? いいの? それで!」
「いや、それはさすがに嫌だけど
……
」
さすがに私でも一生独り身で過ごすつもりはない。何がさすがなのか分からないけれど。けど将来「これ!」という人に出会えたとしたら、私は躊躇なく添い遂げるつもりだ。そんな人現れるかどうか知らないし、恥ずかしいから絶対に口にしないけど。
「じ
ゃ
あも
っ
とこ
っ
ちからアクシ
ョ
ン起こさないと! 楓は有名人なんだよ? 陸上界のホー
プなんだよ? みんなが話しかけやすいように下に降りてあげないと」
「うるさいなあ。そういう翠だ
っ
て彼氏とかいないんでし
ょ
」
「たしかに今はいないけど! 楓と違
っ
て恋愛経験ゼロじ
ゃ
ないから!」
「え
っ
……
」
私は言葉を失
っ
た。
「み、翠、付き合
っ
たことあるの
……
?」
「おお、意外そうだなあ楓さん!」
翠はトレー
ドマー
クのポニー
テー
ルを揺らして、まるで舞台役者のように大袈裟に言
っ
た。
「お仲間だと思
っ
ていたでし
ょ
? 残念でしたー
!」
「ち
ょ
、ち
ょ
っ
と待
っ
てよ!」
思わず縋り付くように言
っ
てしま
っ
た。
「ウソでし
ょ
? だ
っ
て翠、今までそんなこと一度も言
っ
たことないじ
ゃ
ない」
「聞いてこなか
っ
たからね」
「聞いてこなか
っ
たから
っ
て
……
」
あ
っ
けらかんと言う翠に唖然とする。
「だ
っ
て楓
っ
てそういう話好きじ
ゃ
なか
っ
たでし
ょ
? だから言い出しにくか
っ
たんだよ」
う
っ
、と唸りそうにな
っ
た。たしかに私が翠の立場なら言い出しにくか
っ
たかも
……
けど、けど、
「それなら今だ
っ
て言わなくていいのに
……
」
「楓さんの頑なさに、翠は少し心配にな
っ
てきたわけですよ」
翠が教科書と筆記具を抱え直して、
「楓もそろそろ弟くん離れしなき
ゃ
なあと思
っ
ていたわけです」
「なんでそこでアイツが出てくるのよ
……
」
結局そこに行き着くのか、と私は溜息をついた。
「だ
っ
て楓、男の子といえばいつも弟くんのことば
っ
かり」
「それは、嫌いだからよ」
言
っ
て気分が悪くなる言葉だ
っ
た。
嫌い、嫌い。自分に嫌いな人がいるというだけで小さな人間のような気がしてくる。
「けど嫌よ嫌よも好きのうち
っ
ていうよ?」
翠にかかればどんな感情も良い方向に向いてしまうらしい。
話にならない、という風に私は空いているほうの手を振
っ
た。
「そんなことあるわけないじ
ゃ
ん。それにさ翠、勘違いしているけど、私の言う嫌いは無関心の嫌いだから。別にアイツが何してようがどうでもいいの。気に障ることをしてこなければね」
「気に障ること
っ
て、例えばどんなこと?」
「例えばアイツさ、この前
……
」
ハ
ッ
とする。
「翠!」
「いや、今のは私悪くないと思うんだけど
……
」
「うるさいうるさい。もうアイツの話なんて金輪際口にしないで」
私はそう吐き捨てて足早にパソコン室へ急ぐと、背後から翠の溜息が聞こえた。
もう知らない、翠の横顔だ
っ
て見ない。
「ねえ、楓ち
ゃ
んの弟
っ
て青葉高校に通
っ
ているんだよね?」
しかし私が翠から離れても、アイツの話題は私から離れてくれなか
っ
た。どうしてアイツは今日に限
っ
てこんなにも人気なのか。
「あのね、実はお願いがあ
っ
て
……
」
パソコン室に入
っ
てすぐ、私に話しかけてきたメガネの女の子・仁科さんは何故かモジモジしていた。いつもモジモジしているけど、そのモジモジに不穏さを感じてしまうのは何故だろうか。
ああ、もう。
「ムリムリ。楓、弟くんのこと嫌いらしいよー
?」
「別に嫌いじ
ゃ
ない!」
言
っ
たことに気づいて口を塞いだのだが時すでに遅しで
――
目の前には驚いて体をビクつかせる仁科さんと、「や
っ
ぱり」と今にも言いたげな翠の表情。
顔をモニター
のほうに向けてから、
「別に嫌いじ
ゃ
ないけど、好きでもない
っ
ていうか
……
あえて言うなら無関心
……
」
ポツリと呟いたけど、モニタに映
っ
ている自分の顔が情けなくて。
どことなく気まずい空気にな
っ
たなあと思
っ
ていると、仁科さんが慌てて頭を下げてきた。
「ごめんなさい! 私、そんな複雑だとは思
っ
てなくて
……
」
「いや、別に複雑でも何でもないの。ただ無関心というだけで」
「でも
……
」
「本当に何でもないから、ね? ち
ょ
っ
と最近話してないだけだから。思春期にはよくあるじ
ゃ
ない、ほら」
何だか必死に言い訳してしま
っ
ているけど、私は仁科さんが苦手だ。決して嫌いというわけじ
ゃ
ないんだけど、彼女は何でもかんでも真剣に取り過ぎるところがある。もう少し翠みたく無神経にな
っ
てくれてもいいのに
……
「じ
ゃ
あ弟くんとの仲は悪いわけじ
ゃ
ないんだ」