穴
〔 1 〕…〔 2 〕〔 3 〕«〔 作品4 〕»〔 5 〕
A Hole New World
投稿時刻 : 2018.12.11 17:29
字数 : 410
1 2 3 4 5
投票しない
A Hole New World
ゆきな|根木珠


 おれがむかしドーナツの穴だった頃、兄貴はマンホールの穴だった。
 弟は針の穴で、親父は吉見百穴だった。
 そう、いわゆる穴家系だったのだ。
 おれは兄貴みたいに立派になりたくて、もがいていた。若かったからよく無茶もした。
 自分の穴を大きくしようと広がってみたり、自分で自分を食ってみたり、穴という穴にとりあえず入ってみたりもした。どうやったら大きな穴になれるか、あの頃のおれには重要な問題だったんだ。
 ところがある日、人間の幼い女の子がおれの姿を見てこういったんだ。
「ドーナツは持ちやすいね」
 それを聞いておれは気づいた。
 そうか。
 この穴は、あの幼い女の子にはちょうどいい大きさなのだ。
 ならばおれはこのままでいなければならないだろう。
 彼女のためにも、おれはおれのまま生きていこう……。
 そう決意した瞬間、世界が揺れた。
 幼い女の子はおれを持ち上げると、おれの半分ほどをかじった。
 おれが最後に見たのは、幼い女の子の、とても幸せそうな笑顔だった。
 



 了
 
← 前の作品へ
次の作品へ →
1 2 3 4 5 投票しない