第28回 てきすとぽい杯〈夏の24時間耐久〉
〔 1 〕…〔 22 〕〔 23 〕«〔 作品24 〕»〔 25 〕
とある博士の研究成果
投稿時刻 : 2015.08.16 14:53
字数 : 1000
1 2 3 4 5
投票しない
とある博士の研究成果
三和すい


「お久しぶりです、博士」
「おお、お主か。久しぶりじゃのう。こっちの分室まで来るとはめずらしい。今日はいったいどうしだんじゃ?」
「所長から博士の研究結果を確認してほしいと頼まれたんですよ。報告書だけではわからない部分が多かったそうで」
「なんじゃ。わかりやすく書いたはずなんだがのう」
「それで、博士は今どんな研究をしているのですか?」
「ある現代病の治療薬の研究じゃ」
「現代病?」
「そうじゃ。最近、周りから注目されたいと思っている若者が増えておる。それ自体は普通のことじゃが、行き過ぎて問題行動を起こす例が年々増えておる」
「そう言えば、バイト先の冷蔵庫に入った写真をネットに上げるとかありましたね」
「そうじゃ。他人から認められたい、注目されたいという欲求があるのは当然のことじゃ。だが、現実ではその欲求を思いどおりに満たすことは難しく、理想と現実の間で苦しんでいる者も多い。その問題を解決するためにワシが開発したのが「注目されている気分になる薬」なんじゃ」
「注目されている気分になる?」
「そうじゃ。実際には大して注目を浴びていないどころか周囲から無視されていたとしても、この薬を飲めば、自分は他人から認められている、必要とされていると錯覚させることができる」
「それは、画期的な薬ですね。完成するまでにずいぶんと苦労されたんじゃないですか?」
「長い道のりじゃった……。しかし一度できてしまえば後は簡単じゃ。適切な環境で培養すれば、勝手にどんどん増えていく」
「………………培養?」
「そうじゃ。割とどんな環境でも増えていくぞ」
「薬ですよね? 生成するんじゃないんですか?」
「この薬は私が品種改良した細菌じゃ。これが人間の体内に入ると、ある成分を分泌し、それが人の脳に「注目されている」という錯覚を起こさせるのじゃ」
「安全なんですか、それ?」
「もちろんじゃ。もう何人もの被験者で勝手に試しておるからの」
「そうですか……って、勝手に試したらダメじゃないですか!」
「安心しろ。バレてはおらぬ」
「いや、そういう意味ではなくて……」
「しかも接触感染するからの。注射や薬のカプセルが苦手な者でも簡単に利用することができる」
「あの、それは逆にまずいのでは……」
「お、内線じゃ。ちょっとすまぬ。もしもしワシじゃが……何? 被験者の一人が逃げただと?」

 その後、博士たちがどんなに捜しても、逃げ出した被験者を見つけることはできなかった。
← 前の作品へ
次の作品へ →
1 2 3 4 5 投票しない