てきすとぽい
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第29回 てきすとぽい杯
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フォーリング Down
(
茶屋
)
投稿時刻 : 2015.10.17 23:07
字数 : 1618
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フォーリング Down
茶屋
London
Bridge
is
broken
down,
Broken
down,
broken
down.
London
Bridge
is
broken
down,
My
fair
lady.
これは、マザー
グー
スに伝わる童謡の一つ「ロンドン橋落ちた」の一節。
アメリカでは"broken
down"の箇所を"falling
down"と歌うことが多いらしい。
このfalling
downという箇所を題にした映画「フ
ォ
ー
リングダウン」は平凡なサラリー
マンがストレスを
積み重ね道路工事で発生した大渋滞に怒りは爆発、暴走を始めるというものである。
平凡だ
っ
た主人公が崩壊する話である。
falling
down。
ロンドン橋は何度も落ちたように、ある日忽然と、人は壊れてしまう。
この映画のように突然ぷつりと壊れる人もいれば、徐々に、だが確実に歯車がかみ合わなくな
っ
て、壊れ
ていく人もいる。
例えば、僕の場合は後者だ。
気づいたら現実感が希薄にな
っ
ていて。
気づいたら自分が自分でないような気がしていて。
気づいたら自分の行動を完全に外側から見ている自分がいて。
気づいたら。
僕はゆ
っ
くりとバー
ルを持ち上げると、手ごたえを確かめるようにもう一方の掌を軽くたたく。
何度か叩いて、それを掴んで握る。
悪くない重量感だ。
これなら、一発でいけそうな気がする。
「ね
ぇ
? どうする気なの?」
その声で初めて、背後に人がいたことを思い出す。
高校の制服を着た女だが、本当に高校生かどうかは定かではない。
短いスカー
トから覗く生白い生足が艶めかしいが、それはあくまで客観的な意見で、僕の主観は特段興味
を抱いていない。
「まだいたのか。金はもう払
っ
ただろ」
「だ
っ
て、こんなの、聞いてないし」
「話す必要があ
っ
たか?」
「犯罪とかに関わるのは勘弁なんですけど」
「売春に詐欺、もう立派な犯罪だろ」
この女を使
っ
て男を釣り、そいつを睡眠薬で眠らせて車でここまで運んできたのだ。
その男は目の前の椅子に縛り付けている。まだ起きてはいない。今から起こすつもりだ。
女は神経質そうに爪を噛んでいる。
僕はなんだか興ざめしてしま
っ
て、胸ポケ
ッ
トから煙草を取り出すと、それを口にくわえた。
「頂戴」
女がそう言
っ
てきたのは意外だ
っ
た。
「吸うのか?」
「たまにね」
女は煙草を吸いそうな雰囲気ではなか
っ
た。黒い髪で童顔、確かにスカー
トの短さは挑発的だが、どちら
かと言えば顔立ちは清楚系と言えなくもない。
僕がタバコを差し出すと女は一本取り、口にくわえる。
火を差し出すと、慣れた様子で煙を肺に入れた。
「なにこれ、まず」
「ガラム。インドネシアのタバコ。クロー
ブが入
っ
てる」
「線香臭い。クロー
ブ
っ
て何」
「香辛料とか漢方の一種かな」
「まず」
彼女は悪態と唾を吐きながら、それでもガラムを吸い続けている。
「ね
ぇ
?」
「何だ? 吸い終わ
っ
たら帰ると良い」
「それ、私がや
っ
てもいい」
「?」
僕がき
ょ
とんとしていると、彼女は僕からバー
ルを取り上げた。
「いい?」
そう言
っ
て彼女はに
っ
と笑
っ
た。
僕は拳に顎を乗せて少し考えたのち、頷いた。
「水、ある?」
僕は飲みかけのミネラルウオー
ター
のペ
ッ
トボトルを放
っ
てやる。
彼女は水を口に含むと、男のほうに近づいてい
っ
た。
そして、男に口づけをする。
「死に水、
っ
てこんなんだよね」
「正確には死んだ後に、だけど」
そう言
っ
ている間にも、彼女はバー
ルを思い
っ
きり振りかぶ
っ
て、男の頭が鈍い音とともに凹んだ。
その後も鈍い音は立て続けに鳴り、やがて水の音が混じる。
僕は工房に戻ると、さ
っ
そく仕入れた材料で作品の制作に取り掛かる。
素材の処理と輸送を手伝
っ
てくれた彼女はいかにも興味深げに工房のあちこちを見て回
っ
ている。
「London
Bridge
is
falling
down♪
Falling
down,
Falling
down♪
London
Bridge
is
falling
down♪」
僕はお気に入りのこの歌を歌いながら、作業を始める。
「ね
ぇ
、何作
っ
てんの」
「My
fair
lady♪」
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