第4回 てきすとぽい杯
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投稿時刻 : 2013.04.13 23:30 最終更新 : 2013.04.13 23:40
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- 2013/04/13 23:40:08
- 2013/04/13 23:30:44
太陽の巣
゚.+° ゚+.゚ *+:。.。 。.


 窓際の、前から3番目の机で、いつも突伏してる。一度も染めたことのない黒い髪は長い。別にそういうフンなんじなくて、床屋に行かないだけ。その証拠に、後頭部の毛がぴんぴんみともなく跳ねている。見てくれに気を使わない、表情もいつもぬぼーとしていて、喋り方もしまりがない。羽村聡史はそんなやつ。いつもつるんでる男子はいないし、女子は、クラスの殆どが気持ち悪がてる。羽村聡史はそんなやつ。
 チイムが鳴て、一日の全ての授業が終わた。同級生達のおしべりが始まて、クラス中が騒々しくなる。もさりした動きで、窓際の前から3番目の男子生徒は立ちあがた。誰も話しかけたりしない、だけど何人かがちらりと視線を送ている。黒板の前を通り過ぎたとき、誰か男子生徒の一人が、わざと彼の行く先に足を突き出した。躓く。床に倒れこむ。ばさあ、という音がした。多分、鞄の中身が広がたのだ。鞄をちんと閉じていなかたに違いない。羽村聡史はそんなやつだから。クラス中が一瞬静まり返る中、くすくす、と、一部の女子がそれを笑う声がした。羽村聡史はそれに構わず、緩慢な動きで床に散らばた教科書やプリントや筆記具を拾い集めている。横顔には、怒りも、悲しさも、特に目立た感情が表れていない。無表情。それがよけいにムカつく、気持ち悪い、などと影で言われたりしている。羽村聡史はそんなやつ。
 いつからそうなたのかははきりとしていない。高校に入たばかりの頃は既に無口だたが、去年はまだ話し相手ぐらいはいた。中学時代も大人しい生徒、というポジシンではあたが、友達は何人かいた。理科が得意だた。公立高校の理数科に行くつもりだたが、結局落ちた。英語がとても不得意だた。リーングの授業で当てられると、とてもしどろもどろにカタカナ英語を読み上げる。でも下手糞な英語を披露しながら、恥ずかしがるような表情を見せることはない。ふてぶてしい、と英語の教師に罵られたことがある。羽村聡史はそんなやつだた。
 小学校の頃は、もう少し明るかた。友達も何人かいた。快活というほどでもなかた。やぱり理科が好きだた。夏休みの自由研究ではよく虫の観察レポートを提出していた。3年生の時だ。画用紙にこんな絵を書いてきていた。

 色んなスケチやデータは集められるが、まとめるのが下手なのが羽村聡史だた。この絵一枚が彼のその年の自由研究のレポートだた。それを見て思わず、これはどういうことなのかと尋ねた。
「蟻の巣のスケチだよ」
 と彼は答えた。2枚のガラスの板の間に土を入れ、そこに蟻を何匹か放り込んで、巣を作らせ、それをスケチしたのだと。
「この星とか太陽とかは?」
 と更に尋ねると、
「蟻は、それぞれの穴に運び込んだお宝をしまているんだよ」
 と返てきた。よく意味がわからなかた。とりあえず、
「これ、上下逆じない?」
 と指摘すると、
「うん、そうだね」
 と言て、羽村聡史は、先生が何も考えずに廊下に張り出した自分のスケチから画鋲をはずし、正しい向きに直して戻した。
 小学3年生の羽村聡史はそんなやつだた。

 クラスに喧騒が戻た。鞄に拾い集めたものをしまた羽村聡史がゆくり歩き出す。私は友人らと放課後の予定を話すフリをしながら、もう一度、教室のドアを開けている羽村聡史の横顔に視線をやる。相変わらず何も感情の見えない無表情。きもい、ふてぶてしい、と言われる顔。それが羽村聡史だ。あの顔の下には、よくわからない蟻の巣があて、表からは見えない色んなものがしまてあるのかもしれない。遠い星とか、満ち欠けする月とか、希望の太陽とか、傷ついた心とか、涙とか。それが羽村聡史で。
 そんな事を思いながら、幼馴染がいじめられそうになているのに何もしようとしないのが、私だ。
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