てきすとぽい
X
(Twitter)
で
ログイン
X
で
シェア
第4回 てきすとぽい杯
〔
1
〕
…
〔
10
〕
〔
11
〕
«
〔 作品12 〕
»
〔
13
〕
〔
14
〕
…
〔
21
〕
地下の迷路
(
゚.+° ゚+.゚ *+:。.。 。.
)
投稿時刻 : 2013.04.13 23:30
最終更新 : 2013.04.13 23:40
字数 : 1618
1
2
3
4
5
投票しない
感想:5
ログインして投票
更新履歴
-
2013/04/13 23:40:08
-
2013/04/13 23:30:44
太陽の巣
゚.+° ゚+.゚ *+:。.。 。.
窓際の、前から3番目の机で、いつも突
っ
伏してる。一度も染めたことのない黒い髪は長い。別にそういうフ
ァ
ッ
シ
ョ
ンなんじ
ゃ
なくて、床屋に行かないだけ。その証拠に、後頭部の毛がぴ
ょ
んぴ
ょ
んみ
っ
ともなく跳ねている。見てくれに気を使わない、表情もいつもぬぼー
っ
としていて、喋り方もしまりがない。羽村聡史はそんなやつ。いつもつるんでる男子はいないし、女子は、クラスの殆どが気持ち悪が
っ
てる。羽村聡史はそんなやつ。
チ
ャ
イムが鳴
っ
て、一日の全ての授業が終わ
っ
た。同級生達のおし
ゃ
べりが始ま
っ
て、クラス中が騒々しくなる。も
っ
さりした動きで、窓際の前から3番目の男子生徒は立ちあが
っ
た。誰も話しかけたりしない、だけど何人かがちらりと視線を送
っ
ている。黒板の前を通り過ぎたとき、誰か男子生徒の一人が、わざと彼の行く先に足を突き出した。躓く。床に倒れこむ。ばさあ、という音がした。多分、鞄の中身が広が
っ
たのだ。鞄をち
ゃ
んと閉じていなか
っ
たに違いない。羽村聡史はそんなやつだから。クラス中が一瞬静まり返る中、くすくす、と、一部の女子がそれを笑う声がした。羽村聡史はそれに構わず、緩慢な動きで床に散らば
っ
た教科書やプリントや筆記具を拾い集めている。横顔には、怒りも、悲しさも、特に目立
っ
た感情が表れていない。無表情。それがよけいにムカつく、気持ち悪い、などと影で言われたりしている。羽村聡史はそんなやつ。
いつからそうな
っ
たのかはは
っ
きりとしていない。高校に入
っ
たばかりの頃は既に無口だ
っ
たが、去年はまだ話し相手ぐらいはいた。中学時代も大人しい生徒、というポジシ
ョ
ンではあ
っ
たが、友達は何人かいた。理科が得意だ
っ
た。公立高校の理数科に行くつもりだ
っ
たが、結局落ちた。英語がとても不得意だ
っ
た。リー
デ
ィ
ングの授業で当てられると、とてもしどろもどろにカタカナ英語を読み上げる。でも下手糞な英語を披露しながら、恥ずかしがるような表情を見せることはない。ふてぶてしい、と英語の教師に罵られたことがある。羽村聡史はそんなやつだ
っ
た。
小学校の頃は、もう少し明るか
っ
た。友達も何人かいた。快活というほどでもなか
っ
た。や
っ
ぱり理科が好きだ
っ
た。夏休みの自由研究ではよく虫の観察レポー
トを提出していた。3年生の時だ。画用紙にこんな絵を書いてきていた。
色んなスケ
ッ
チやデー
タは集められるが、まとめるのが下手なのが羽村聡史だ
っ
た。この絵一枚が彼のその年の自由研究のレポー
トだ
っ
た。それを見て思わず、これはどういうことなのかと尋ねた。
「蟻の巣のスケ
ッ
チだよ」
と彼は答えた。2枚のガラスの板の間に土を入れ、そこに蟻を何匹か放り込んで、巣を作らせ、それをスケ
ッ
チしたのだと。
「この星とか太陽とかは?」
と更に尋ねると、
「蟻は、それぞれの穴に運び込んだお宝をしま
っ
ているんだよ」
と返
っ
てきた。よく意味がわからなか
っ
た。とりあえず、
「これ、上下逆じ
ゃ
ない?」
と指摘すると、
「うん、そうだね」
と言
っ
て、羽村聡史は、先生が何も考えずに廊下に張り出した自分のスケ
ッ
チから画鋲をはずし、正しい向きに直して戻した。
小学3年生の羽村聡史はそんなやつだ
っ
た。
クラスに喧騒が戻
っ
た。鞄に拾い集めたものをしま
っ
た羽村聡史がゆ
っ
くり歩き出す。私は友人らと放課後の予定を話すフリをしながら、もう一度、教室のドアを開けている羽村聡史の横顔に視線をやる。相変わらず何も感情の見えない無表情。きもい、ふてぶてしい、と言われる顔。それが羽村聡史だ。あの顔の下には、よくわからない蟻の巣があ
っ
て、表からは見えない色んなものがしま
っ
てあるのかもしれない。遠い星とか、満ち欠けする月とか、希望の太陽とか、傷ついた心とか、涙とか。それが羽村聡史で。
そんな事を思いながら、幼馴染がいじめられそうにな
っ
ているのに何もしようとしないのが、私だ。
←
前の作品へ
次の作品へ
→
1
2
3
4
5
投票しない
感想:5
ログインして投票