第4回 てきすとぽい杯
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最後の地平線
投稿時刻 : 2013.04.13 23:36
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最後の地平線
山田佳江


 重い頭を抱えながらベドを出て、キチンに行くとテーブルの上に一枚の紙が置いてあた。グラスに水道水を注ぎ、一気に飲み干してからもう一度その紙を眺める。
「なんだこれ」
 少しづつ目が覚めてくる。折り紙ほどの大きさの正方形の紙に、サインペンでなにかの絵が描かれている。
「木……? いや、地図かな」
 娘はもう、幼稚園に行てしまたのだろう。妻は買物に行たのだろうか。壁掛け時計は午前九時を差していた。

 その紙を冷蔵庫の壁面にマグネトで貼り付ける。おそらく娘が描いたものだろうと思い、特に気に留めなかた。
 やかんに湯を沸かし、インスタントコーヒーを飲む。窓に陽が差し込む。久しぶりのいい天気だと思う。
 ふいに違和感に囚われる。ベランダには洗濯物が干されていない。ここ数日の雨に妻はうんざりしていた。なぜ洗濯をしていかなかたのだろう。
 コーヒーを飲んだコプを洗うために蛇口をひねる。カラカラと乾いた音が鳴る。水は出てこない。
「断水かな」
 シンクにコプを置いたところで、ふと冷蔵庫に貼られた絵に目が止まる。
「あれ?」
 さきとなにかが違ている気がする。だけど思い出せない。地図のような、枝のような線の先端に、五つの記号が記されていなかただろうか。
「星、月、これは……太陽かな。それにハートマーク」
 あと一つ、そこになにが描かれていたのかが思い出せない。
 洗面所の蛇口からも水は出なかた。諦めてまた台所に戻る。

 室内が暗くなる。何事かと思い窓辺に行く。外はまるで深夜のように暗い。部屋の電気を点けて壁掛け時計を見る。時計の針は九時半を知らせている。午前九時半のはずだ。
「なにが起こてるんだ」
 わけが分からない。何気なく冷蔵庫に貼られた絵を見る。枝分かれした線と、三つの記号。
「三つ?」
 その紙に記されているのは、星と月とハートマーク。さき見た時より、確実に一つ減ている。
「そもそも今日は何月何日だ。俺は今日、なぜ家にいるんだ。仕事はどうしたんだ」
 リビングに貼られたカレンダーを見に行く。月の表示が消えている。窓の外に煌めいていた星が、全て消失したような気がした。慌てて冷蔵庫の前に行く。図形はあと一つ。ハートのマーク。

 しばらくして、最後の一つのマークも消えた。なにかが変わたようには思えない。今、なにが起こているのか分からない。だれかに連絡をしなければ。だけどだれに? 携帯電話を手に取り、それを呆然と眺める。助けを求めるべき人を一人も思い浮かべられない。
 だれか。
 だれか。

 枝が一本ずつ消えていく。
 そして、最後の地平線も。
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