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第4回 てきすとぽい杯
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麦樹で乾杯
 投稿時刻 : 2013.04.13 23:37
 字数 : 851
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麦樹で乾杯
太友 豪


 お前の暮らす家にはたばこの匂いが染みついている。
 そのたばこの匂いが変わていたのは、お前が中学に通い始めてすぐのことだた。
 お前が十四歳になた夜。お前は熱を持つほほを押さえて、庭で息を押し殺していた。
 窓ガラスの向こうで聞こえていた、いろいろなものを壊す音がやんだことを確かめてから、お前は裸足のまま家を抜け出す。
 家に染みついたたばこの匂いが自分自身にもまとわりついているように感じられて、余計にほほが熱くなた。
 お前の家の向かい、倉庫ビルの一階に設置された自動販売機がぼんやりとあたりを照らしている。
 今夜は曇ているのか、空には月も星も見えない。雲の一部分が、地上の光を受けてぼんやりと照らされている。
 アスフルトの冷たさが容赦なく足を刺す。靴も履かずに外をうろついている自分が急に恥ずかしくなてお前は少しだけ涙ぐむ。
 泣くな、楽しくなれ、笑えといわれ殴られ続けた日々は、お前から泣くということを殺した。
 お前のうちから歩いてすぐの所に、電車が走行するための線路を背負たトンネルがある。そのトンネルの横には、物々しい南京錠で入り口を施錠した金属製の階段がある。
 その階段はおそらく、鉄道会社の係員が線路や設備を点検するためのものなのだろう。
 お前はいやな匂いのするツタの絡また緑色に塗装された金属の門扉を乗り越える。
 まだ終電には早い。
 お前はさびだらけの金属のステプを上がていく。錆が足の裏に突き刺さてくるようで不快だ。
 お前は踊り場で二本の電車をやり過ごしてから、ようやく線路の上に立つ。
 遙か遠くの電車の前照灯には星を
 近づきつつある電車の前照灯には月を
 轟音が身体を叩くかのように近づいた電車の前照灯には太陽を
 涙と鼻水があふれて、お前は階段を転がり落ちた。
 鼻水と一緒にあふれる鼻血をぬぐてお前は自分が超えた門扉を再び超えて逃げ出した。

※ここに挿絵



 のろまな時のひと打ちに、瓶ビールをつぎ合いながらタンドリーチキンの骨で塔を作りながらこの話を聞く/いうのは何度目だろう。
 のろまな時のひと打ちのほら話。 
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