てきすとぽい
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第4回 てきすとぽい杯
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海と夜空と僕のハート
(
犬子蓮木
)
投稿時刻 : 2013.04.13 23:26
字数 : 1969
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海と夜空と僕のハート
犬子蓮木
僕は釣り人。いつもこのおおきく広が
っ
た川で夜釣りをしている。
だけど釣
っ
ているのは魚じ
ゃ
ない。
空にはきらきらと星々が輝いている。流れ星もきらきらとよく降りそそぐ。世界は静かで、座
っ
てのんびりしている僕の歌が川のせせらぎと一緒に響いている。僕はたまに竿をゆす
っ
て、川の波紋をリズムに歌をうたう。
浮きが沈んだので竿をひいた。重くはない小物のようだ。水面からだすときだけ一瞬の抵抗、星屑がしぶきを散らしながら糸のさきにぶらさが
っ
ている。
そう。ここでは星がつれるんだ。
この川の上流にはいろいろな里がある。
星の里、三日月の里、雫の里、太陽の里、心の里。
この川はそんな里々のちいさな川が合流してできた川で、その里から流れてくるいろいろなものが釣れるんだ。
僕は下流にある砂の国の住人で、そんな里にはい
っ
たことがない。だからどんな人たちが住んでるんだろうなー
っ
て想像しながら釣りをしている。
僕の目当ては、心の里から流れてくる。おおきなハー
トだ
っ
た。
ず
っ
と昔に誰かがそれを釣
っ
たという伝説が僕の住む砂の国には残
っ
ている。ピンク色だとか赤いとかでとてもおおきなおおきなハー
トらしい。
それがあれば、いろんな人をなかよしにして、ケンカをとめたり、戦争をとめたりできるんだ
っ
て。僕は大好きな人にハー
トをプレゼントしてなかよしになりたか
っ
た。だからお
っ
きなハー
トを探しているんだ。
それに、星屑とかもいいお小遣いになるしね。
また竿がひいた。
こんどはけ
っ
こう強いひき。水の中なのに輝いている。
太陽だ!
太陽は水の中でも太陽は負けじと輝いている。周りの水を蒸発させるから水の抵抗は少ないはずなのに、たんじ
ゅ
んに太陽は他のものよりも重いらしい。比重
っ
てやつだ。
僕は負けないように立ち上がると竿のなかほどを左手でささえた。別に太陽はそんなにいらないけれど、この重さはき
っ
とハー
トを釣るときの練習になるだろうと思
っ
た。それに太陽は薬になるから特に高く買
っ
て貰える。だけど、
「あ
っ
」
糸が切れてしま
っ
た。け
っ
こう使い続けていたから寿命もあ
っ
たかな。
流れてい
っ
た太陽のことを思う。ここは河口付近で、もうすぐ海になるところだ
っ
た。太陽が流れて、他にも星や月が流されて、そんな海がき
っ
と今、僕の上に広がる星空のようになるのだと思う。
僕はハー
トが手に入
っ
たら、大好きな人と海にいきたか
っ
た。星空にはハー
トは浮かんでいないから、海の空にハー
トを浮かべたらき
っ
と綺麗だろうな
っ
て。
そうして、たくさんの雫を流れ星にして遊ぶんだ。
糸と浮きやそして獲物をく
っ
つけるための取り餅を新しくつけた。
こんどこそハー
トを釣るんだ。
竿をふ
っ
て、取り餅をとばす。シ
ュ
ルルルー
っ
て、流れ星みたいに飛んでい
っ
て、ぽち
ゃ
ん、と水にもぐ
っ
た。浮きが波紋を響かせながら、僕はまた夜の釣りをはじめる。
歌詞のない歌をうたう。きまりき
っ
た歌じ
ゃ
ないけれど、いつも同じリズムなのはき
っ
と川の音がベー
スにな
っ
ているから。
ぼー
とながめていると眠くなる。いつのまにか歌がやんでいるとち
ょ
っ
と寝ていたんだな
っ
てわかる。そろそろ時間だから、帰ろうかなと思
っ
た。つれないのいつものことだし、また明日があるさ
っ
て。
だけど僕は感じたんだ。
心臓の鼓動を。それは僕のドキドキした気持ちだけじ
ゃ
なくて、竿の先、糸の先、浮きのした取り餅に今、ハー
トがく
っ
ついた
っ
て。
感覚よりも遅れて浮きが沈んだ。僕の意識が集中していくのがわかる。
糸が切れないようにゆ
っ
くりと立ち上がる。太陽よりは重くない。だけど、不規則に動いているような不思議な感じ。
オチツケよもう。
僕は自分とハー
トに言い聞かせるように思
っ
た。そんな言葉とは裏腹に僕もハー
トもどんどんドキドキしていく。まるで僕の気持ちが向こうで高鳴
っ
ているみたいに。
竿を操
っ
て、ハー
トが少しずつ河原に近づくようにした。流れに逆らうのはたぶん良くない。どうすればいいかなんとなくわかる。
長期戦になりそうだ。焦
っ
てはまた糸が切れてしまう。
もう少し、あと少し。僕は川のながれに乗るように、同じような速度で河原をあるいてくだ
っ
た。
ドキドキ。
水からあげるのは最後でいい。
ドキドキ。
ハー
ト
っ
てや
っ
ぱり綺麗なんだろうな。
ドキドキ。
あ
っ
。淡いピンク色の光が見えた。
あれがハー
ト。
そのとき、大きな魚が跳ねた。
僕よりもはるかに大きい。び
っ
くりしたけど竿をはなしてはいない。ただ、その魚が僕が釣るはずだ
っ
たハー
トを食べてしま
っ
た。
糸が切れる。僕は脱力してへたりこんでしま
っ
た。はは、
っ
て笑うことしかできない。
「なんだよもう!」
僕は河原に体を投げ出して寝そべ
っ
た。
夜の空には星も月も流れ星もある。太陽だ
っ
て、あの星々をどこかから照らしているんだろう。
だけど、ハー
トも魚もそこにはいなか
っ
た。
僕はそんな海の空にき
っ
とハー
トを浮かべてみせるんだ。 <了>
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