神のお告げ
その昔、聖光教という宗教が生まれた。
広めたのは第一聖人アグリアパ。彼は山の上で神の啓示を受けたという。
神は太陽の光とともに地上へ降り立ち、アグリアパへ言
った。
『光当たる場所へ水を流せ。夜には月明かりが満ち、命が注がれるだろう。そこは夜にも星明りが灯される場所となる』
アグリアパは荒野に川を作った。すると自然に人は集まり、やがて大きな都市ができた。
都市の名前は第一都市アグリ。第一聖人アグリアパが作り上げた街という意味であり、聖光教が最初に作り上げた都市という意味でもある。
聖光教信者にとっては誇らしさとともに前者の意味で知られているが、聖光教を信じない者たちには皮肉とともに後者のほうが知られている。
[※ここに挿絵]
聖光教のシンボルである図形が描かれた盾を構える集団が整列している。
横二十人、縦十人の長方形。それが何十個も平原に並ぶ光景は壮観と言っていい。しかし彼らの顔色は悪く、ブルブルと全身を震わせている者もいる。
仕方がないことかもしれない。彼らはこれから殺し合いをするのだから。
平原の向こうに影が見える。視力が良い者ならどんな姿をしているのか見える距離だ。
それは騎士たちだった。
銀色に光る鎧で全身を包み、腰には剣を垂らし、手には長い槍を持っている。馬に乗った堂々たるその姿は、まさに歴戦の騎士だ。
それに比べると聖光教の盾を持つ彼らの装備はあまりにも貧相だった。盾だけは重厚な鉄製なのだが、その他はあまりにひどい。
鎧を着ている者は誰もいなかった。革の胸当てをしているのは良いほうで、ほとんどが粗末な布でできた服を着ているだけだ。兜もなく、穴が開いた鍋をかぶっていたりする。武器も剣ではなく、農作業で使う鍬や、ナイフを木の棒にくくりつけた槍だ。
さらには人数も違う。騎士たちは平原の横幅いっぱいに広がっているのに、こちらは平原の四分の一程度だ。集団の奥行きも相手の半分程度。これではどうやっても勝てるはずがなかった。
数百人の人間を殺し尽くした後、騎士たちは彼らが守っていた第五都市スリウラを蹂躙した。
騎士たちの歩みはそれで終わらなかった。第四都市ハル、第三都市ガリオット、第二都市ウオルルアンを次々と滅ぼしていく。
それはまるで聖光教のシンボルを下から消し去っていくようだった。
近づいてくる大軍の足音に怯えるかのように蹲っていた男、第八十七聖人アグリルムは叫ぶ。
おお、神よ! なぜ私たちを救ってくれぬ!
すると室内だというのに光が降り注ぎ、神が現れた。
滂沱の涙を流しながらアグリルムは叫ぶ。
神よ! 我らをお助けください!
神は言った。
『私は謝らねばならない』
アグリルムは、それはどうしてですかと聞いた。
神は本当に申し訳なさそうに答えた。
『言葉を伝える者を間違えたのだ。今からここへ来る者こそが、最初の言葉を伝えるべき者だったのだ』