てきすとぽい
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クリスマス前にやってきた小説大賞
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〔 作品5 〕
白いヒゲ
(
甲斐聖子/sin against
)
投稿時刻 : 2015.12.29 13:15
最終更新 : 2015.12.30 16:14
字数 : 2159
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2015/12/30 16:14:43
-
2015/12/29 13:15:36
白いヒゲ
甲斐聖子/sin against
「僕、サンタクロー
スから白いヒゲをもら
っ
たよ!?」
8歳になる息子、つかさが言いながら家じ
ゅ
うを駆け巡
っ
ている。
「ヒゲ?」
俺はともかく、妻の美津子もそんな物贈
っ
た覚えなどない。
「ヒゲ!」
確かに、つかさが手にひらひらと持
っ
ているのは、白いヒゲだ。
「そうか!よか
っ
たな
ぁ
!」
ここはとりあえず合わせておこう。目配せで美津子とそんなやり取りをしながら状況を見守る。
台所の机の角にぶつかり、椅子をなぎ倒し、そんなに嬉しい物なのかと思わせるほどのはし
ゃ
ぎように、こういう時の親というのは、ただにこにこしているしかないのだなと思う。
「白いヒゲね
ぇ
。」
美津子が不思議そうに俺の顔を見る。
「白いヒゲな
ぁ
。」
俺はなにも知らないぞと美智子の顔を見る。
「サンタクロー
ス
っ
ていると思う?」
美智子が俺に小声で耳打ちする。
「俺はおとぎ話だと思
っ
ているよ。」
平然と答えながら、俺と美智子は去年作
っ
た暖炉を見つめている。
「まさかね。」
「まさかな。」
暖炉を作ろうと言いだしたのは、つかさだ
っ
た。
「なんで?」
「そうしたらサンタクロー
スが来るでし
ょ
?」
「今までも来ていたじ
ゃ
ないか。」
「違うよ!本物のだよ?」
「え?」
「だ
っ
て、お父さんの足音大きいんだもん、僕すぐわか
っ
ち
ゃ
うよ。」
笑いながら言い放
っ
た言葉にシ
ョ
ッ
クを受けたのは、察しがついてくれるだろうか。
「でも、作り方なんか知らないよ。」
「僕知
っ
てるよ、まさ君が言
っ
てたんだ。赤い布をはさみながら暖炉を作るんだ
っ
て。」
「布?それじ
ゃ
燃えち
ゃ
うじ
ゃ
ないか。」
「暖炉
っ
て使
っ
たことある?使わなければいいんだよ。作るだけ、サンタクロー
スのために、ね
ぇ
お願い。」
ああ、このおねだりの仕方、こいつは小さい時からそうだ。
おねだりの仕方をどこで覚えてくるのだろう、と思わせるくらいに可愛い。
決して親ばかではなく、親戚中がそう言うのだから間違いなく可愛い。
「よし、作るか。」
「まさかな。」
「まさかね。」
「本当に来たのかな?」
「暖炉見てみない?」
美津子の提案に俺はすぐ身を乗り出して頷く。
頭を下げて暖炉の中を見る。
探している物は、赤い布。赤い布。赤い布。
「え?」
「あれ?」
「あ
っ
た?」
「ない。」
赤い布は、ブロ
ッ
クごとに挟んでいて、内側から見ると暖炉が舌を出しているようで少し気味悪か
っ
た。
その赤い布が一切れもない。
「サンタクロー
スのおひげ、おヒゲ、おヒゲ、しいろいおヒゲ。」
歌
っ
ている。
「あれ
っ
て本物かしら?」
「赤い布はどこに行
っ
たんだ?」
呆けているのは、俺達だけで、つかさは、はし
ゃ
ぎまく
っ
ている。
「ぷ
っ
、あはははははは。」
「なんだろな、あいつは。」
つかさを見ながら、必死にこの状況の正当性を突き詰めたか
っ
た自分達に笑いがこみ上げてくる。
「白いヒゲ、気に入
っ
たか?」
「うん、だ
っ
て本物だもん。暖炉の赤い布もないし。」
「見たのか?」
「起きてすぐ見たよ?」
「言えよ。」
「なんで?」
「探しち
ゃ
っ
たじ
ゃ
ないの。」
「だ
っ
て、白いヒゲだよ?これなにするの?僕わかんなさすぎておかしい。」
笑いながら駆け巡られる、家の中は笑いに包まれる。
「でも確か、私達が子供の頃
っ
て赤い靴下じ
ゃ
なか
っ
た?」
「今でもそうかと思
っ
てたけど、でも結局あれは親が入れてたからな。」
「それもそうね。」
美智子が笑う。
つられて俺も笑う。
笑
っ
ている、俺も美智子もつかさも。
サンタクロー
スの白いヒゲ、それが意味するものはわからないけれど、暖炉の赤い布が一枚もなくな
っ
ている事実はある。不思議な事もあるもんだな。
思
っ
て、クリスマスツリー
を見る。
緑色のツリー
に色とりどりの飾り物。
の、はずなんだが、ツリー
は赤く染ま
っ
ていて、俺は思わず美智子の腕を引
っ
張る。
「え、うそ。」
そこには丸く太
っ
たサンタクロスがこ
っ
ちを見て笑
っ
ていた。
「つかさ!!こ
っ
ち見て!」
母親の声につかさは敏感に反応して、顔を振り向かせる。
「サンタクロー
スだ!」
けれど、その影は薄く、透けている様にも思える。
声は聞こえないが、左手でヒゲを触り、右手を伸ばしている。
「つかさ、そのヒゲ、サンタクロー
スに返さないか?」
「えー
なんでー
。」
「よく見てみろ、サンタクロー
ス消えそうじ
ゃ
ないか?」
つかさの目に、どう映
っ
たのだろう、つかさはなにも言わず、持
っ
ていたヒゲをサンタクロー
スに渡した。
赤く染ま
っ
ていたツリー
は、その瞬間にもとの緑色になり、装飾も戻
っ
た。
暖炉を見てみると、赤い布は元通りに挟まれている。
「なんだ
っ
たんだ。」
「わからないわ。」
「白いヒゲ、なくな
っ
ち
ゃ
っ
た、サンタクロー
スいたけど、いなくな
っ
ち
ゃ
っ
た。」
そうだ、サンタクロー
スいたけど、いなくな
っ
た。
「なあ、サンタクロー
スいたな。」
励ますつもりではなく、今まで見てきた事実を俺は口にする。
「いたわね。」
美津子もつられて、その事実を口にする。
つかさはどうだろう。
「いたね。」
つかさも、いたと口にした。
「三人ともサンタクロー
ス見たな。」
「うん!」
「それだけでもよくないか?」
「僕それだけでもいいかも!赤い布、復活してるし!すごいよね!これ。」
どこかで鈴の音がした気がしたが、黙
っ
ておいた。
サンタクロー
スが落としたのか、顔から抜けたのかわからないが、白いヒゲは、どんなおもち
ゃ
やゲー
ムより、つかさを熱くさせた。
今年のクリスマスは、それでじ
ゅ
うぶん幸せだと思えた。
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