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クリスマス前にやってきた小説大賞
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ぼくのサンタクロース
 投稿時刻 : 2015.12.23 17:47
 字数 : 1921
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ぼくのサンタクロース
永坂暖日


 冬になると雪に閉ざされる北の国々と違い、南方の面影が濃いこの地方では、冬であても氷が張ることさえ稀だ。吐く息が白くけぶるのは朝も早いうちだけのこと。日が、その姿をすべて現せば、たちまち白い息は光の中に溶かされ見えなくなる。師走となり、風が吹けば肌寒く感じるようになた。さりとて、凍てつくにはほど遠く、この地にとどまる限り、それを知ることはないだろう。
「北の方ではもう雪が積もているのでござろうか」
 境内の片隅で、六郎は空を仰いだ。白い雲がぽかりと一つ浮かんでいるだけの澄んだ青空だた、
「いんたとであとでぐぐればよいでござるよ。それより、今日は煤払いでござるぞ。六郎、はよう掃除道具を運ぶでござる。定刻までに準備が整ていなかたら、神主どのがまた激おこぷんぷん丸に変身してしまうでござる」
 兄弟子の五朗丸に急かされる。年の瀬のこの時期に、一年の汚れを落とすのがこの神社の伝統行事だた。社をきれいにして清め、くりすますと新年を迎えるのである。
「兄弟子どの。今年のくりすますも、さんたくろすは来るのでござろうか」
 倉庫から掃除道具を引張り出して台車に乗せながら、五朗丸に尋ねる。
「毎年来ているでござるからな。おぬし、去年も贈り物をもらたでござろう」
「二十五日の朝、枕元に置いてある栗須升と焼き印が押してある升のことでござるか」
「左様でござる」
「あれは、神主どのが置いていているものでござろう。それがしは去年、寝たふりをしていてわかたでござる! あの臭い足は神主どのに相違ないでござる!」
「六郎……おぬしも、大人になたでござるな」
 竹ぼうきをにぎりしめた五朗丸がしみじみと言う。六郎はこの秋で十になた。兄弟子の五朗丸はその三つ上である。
「神主どのに、それを伝えるでござるよ。きと喜ばれるでござる」
「足が臭いことをでござるか?」
「それを言たら激おこぷんぷん丸になるでござる……。さんたくろすの正体を知た、とだけ言えば十分でござる」
 道具を全部台車に乗せ終える。五朗丸が台車を曳き、六郎は道具が滑り落ちないか見張る役だ。
 神主が扮したさんたくろすはなかなか凝ていた。贈り物を贈る相手は眠ているであろうというのに、そりに見立てた台車を赤鼻をつけた宮司に曳かせて宿舎の周りを何周かして、屋根裏から部屋に入てくるのである。神楽で使う翁の面をつけ、巫女が着る赤い袴を履くという、いんたとでぐぐて見たさんたくろすとはだいぶん趣が異なる出で立ちだた。正直、変質者が来たのかもしれないと思たが、さんたくろすが六郎の枕元に栗須升を置いていたとき、かすかに漂てきたくさい臭いに思わず鼻をつまみたくなると同時に、さんたくろすの正体を悟てしまたのである。臭いし、薄々怪しいとは思ていたさんたくろすの正体がはきりとわかてしまたしで、六郎はなんだか泣きたい気分になた。
 六郎が神主に言えば、神主はとうぶんさんたくろすを演じる必要はない。ついでに宮司が、赤鼻の鹿のまねをすることも。この神社で寝起きする子供の中では六郎が最年少なのだ。去年、栗須升をもらたのも六郎だけである。神社の前に置き去りにされるという哀れな子供が現れない限り、さんたくろすはもう境内の中を台車で走り回らない(実際に走ているのは宮司だが)。
 思えば師走の二十五日、栗須升を不思議そうに見る六郎を、神主は楽しげに眺めていたような気がする。
……言わなくてもいいでござるかな、兄弟子どの」
「言わなくても構わぬでござるが、神主どのは六郎はまだまだ子供だな、と悦に入るでござろうよ。おぬし、それでもよいのでござるか」
「それがしはもう大人でござる。神主どののさんたくろすに、それがしが付き合てあげるのでござる。それがし以外、できる者はいないでござるゆえ」
 振り返た五朗丸に、六郎は胸を張てみせる。
「それじあ、今宵も枕元に足袋を置いておかないといけないでござるな。用意しているでござるか?」
 毎年、新品の足袋を枕元に用意してきた。さんたくろすに、栗須升と引き替えに持て帰てもらうために。今年の分も、六郎は一応用意していた。
「兄弟子どの。今年は足袋の中に、匂い袋を入れておいてもいいでござろうか」
「やめておいた方がいいと思うでござる……
「左様でござるか」
 では、鼻に綿を詰めておくのもだめであろう。今年は寝たふりはせず、ぐすり寝ておく方が良さそうだ。
「あ。神主どのがもう来ているでござる。六郎、急ぐでござるぞ」
「はい、兄弟子どの」
 五朗丸が駆け足になる。がたがたと台車の上で掃除道具が大きく揺れ、落ちないかと冷や冷やしながら、六郎も走た。
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