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お題リレー小説
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ラグランジュ・ポイント
茶屋
 投稿時刻 : 2016.04.10 11:05
 字数 : 1523
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ラグランジュ・ポイント
茶屋


「愛してるぜ、相棒」
 ヘルメト内に響くノイズに混じてかすかに聞こえた気がした。
 絶体絶命の戦況に動揺していた俺は、その言葉にますます混乱する。
 こんな時に何を言てるんだ?
 仲間を落ち着かせるための冗談か?
 だが、その言葉を聞いた瞬間には戦友の意図するところは分かていた。
 ただ、それを認めたくなかた。認めないことでその理解が間違ていることを祈た。
 祈りなんて、結局は裏切られる。
 結局、ロウキの摂理を司る神なんて存在しないんだ。
 そして、俺達が目指すべき安楽の楽園なんてものは存在しない。
 楽園はなくても、地獄はある。
 全方位に星が瞬く宇宙のなかで、ひときわ眩い光が俺の目に焼き付いた。
 止める間もなかた。
 QZⅡ機関を臨海を解除した相棒の機体は、奴らを道連れにして―
 消滅した。

 いつから戦いが始まて、いつになたら戦いが終わるのか、本当のところ誰にもわからない。
 いつしか勝利に対する希望すら俺たちは失ていた。
 あるのは絶望だけで、絶望すら超えた諦観の中で俺たちは生きている。
 ラグランジ・ポイントにある前線基地の日常はそんな空気に満ちている。
 再び絶望に帰るか、享楽にふけるか、諦観を超えて無感覚になるか。諦観の中でどう振る舞うかは人それぞれだ。ただ、希望だけがない。
 次々と消えて、次々と供給される兵隊たち。
 ここは、ベルトコンベア式肉挽き機の終着点。俺たちはミンチにされるのを待ているだけのただの肉塊だ。
「死んだ目だな」
 あいつの声を初めて聞いた時のことは今でも覚えている。俺たちは同じロトナンバーで、前線基地へ向かうコンテナの中であいつは隣りに座ていた。
 だが、本当に? 覚えていたのではなくて、急に思い出しただけではないか? そもそも、思い出に浸ることなんて、今までなかたんだ。あいつが消滅して、あいつの存在が消えてしまたことが急に恐ろしくなて、必死にあいつの痕跡をかき集めようとしている。かき集めた破片で作られた記憶はどこかおぼろげだ。それでも俺はあいつの残した何かをかき集められずにはいられなかた。

 決戦兵器悠久仇禍から放たれた目が潰れるほどの光が、奴らを蒸発させる。名前と使用回数だけは一丁前で仰々しいが、大して戦況を変えるだけの力は持ていない。それでも威力はそれなりなので仲間もいくらかは巻き込まれたのかもしれない。ここでの命の価値は限りなく低い。それは己の命に関してすら同様で、死を恐れるものなど数えるほどしかいないだろう。
 死ねと言われれば死ぬ。そういう奴らばかりがここには集まている。
 それは、俺達の敵が放つ精神干渉攻撃の影響だというものもいる。軍の供給する安定薬を疑うものもいるらしい。ただ、そういう勘ぐりをしている連中はここにはあまりいない。自分の命にすら頓着しない連中がそんなことを気にするか?
 俺も、命は惜しくなかた。
 ただ、相棒の記憶が薄れていくのは怖かた。相棒の最後の言葉、「愛してる」の意味を知るまでは決着がつかないような気がしていた。
 あの言葉には、どういう意味が込められていたのか。
 愛してるぜ。
 愛してるぜ。
 愛してるぜ。
 なあ、相棒、お前は俺をどんな風に愛していたんだ?
 教えてくれよ。
 気づけば俺の機体は事象の地平面に吸い込まれようとしていた。すぐそばで奴らの姿を見るのはこれが初めてかもしれない。
 奴ら。
 俺達の敵。
 我々に宿命付けられた災厄であり、終わりのない絶望の根源。
 原初の禁無火、月曜日。
 俺は相棒の最後の言葉を確かめるためK超仇禍ドライブを発動させ、事象の地平を超える。
 長くは持たないだろう。だが、それまでには答えを見つけてみせる。
 俺も愛してるぜ、相棒。
 
 END

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