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お題リレー小説
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スカーフェイス
 投稿時刻 : 2016.03.17 19:53 最終更新 : 2016.03.26 14:05
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スカーフェイス
ドーナツ


……嫌だ」
 隣り合て歩いていた敏夫の母親が歩みを止める。敏夫は母親の視線を追た。商店街の人波を割るようにして進む男の姿が見える。『ゴローさん』だた。
『ゴローさん』は、トタン屋根の家に父親と二人で住んでいる。家の周囲で畑仕事をしている年老いた父親を敏夫はよく目にしていた。
 母親は敏夫をともない、雑貨屋の店先に避難する。酔漢特有のすえた臭いが店内にまで漂てきた。ガラス戸越しに敏夫は通りをうかがう。『ゴローさん』は丸坊主に頭を刈り、たぷり贅肉のついた大きな体へ薄汚れたコートを引かけていた。顔を流れる汗の間に、こめかみから顎にかけて醜い傷痕が走ている。
「あれで大変な地主なんだ。駅のほうにも土地を持てる」
 雑貨屋の店主の話に母親は相槌を打ていた。
 これが小学生、山形敏夫(やまがた としお)の夏季休暇に起こた災難の発端である。

 河川敷の付近に複数の警察車両が駐車し、振興住宅地の風景を脅かしている。制服警官が立ち働く中、覆いをした担架が運ばれていた。シートのふくらみは大人だとすれば、かなり小柄である。では、子供だろうか。規制線の周囲に集また住民たちは水難事故の顛末を噂する。

 二週間としないうちに河川敷は平静を取り戻していた。しかし、敏夫と彼の級友は、この騒動に興味津々である。殺人事件と決めつけ、実況見分と称して川の周辺を歩きまわた。
「死んだの二年下の女子だて」
 多賀谷浩(たがや ひろし)は、わけ知り顔である。
「敏夫の家。この近くだろ? なんか知らねえ」
 知らないと答えるのも業腹だた。敏夫は考えを巡らせる。
……実は俺。犯人を見たんだ」
 夏休みに入てから敏夫は、ある悪夢に悩まされていた。誰かに打ち明けたかたが、臆病だと思われるのは癪である。
「マジで?」
 そこで事件の話に混ぜて憂さを晴らそうと決めた。
「うん。前の日の夜、便所に起きたんだけど、そしたら子供をおぶた男が庭の垣根のところを歩いてたんだ」
「子供て女?」
「ワンピースだたから女だと思う」
 川波を下に道路橋を渡る。閑散として車の気配はなかた。二人のほかは欄干にもたれている中年の男がいるだけである。
「顔は? どんなヤツだた?」
「はじめは、暗くてよく見えなかたけど、街灯の下へ来たとき」
「見たのか!」
 大声に驚き、敏夫と浩は振りむいた。さきほどの男が、緊張した面持ちで近づいてくる。
「見たのか? 顔を!」
 男に肩を掴まれ、敏夫は小さく悲鳴をあげた。浩は逃げようかと迷ている顔である。
……夢だから。ちんとは見てないけど。……顔に大きな傷が。……傷が光てて」
 答えを聞いた男は長いため息を吐いた。敏夫の肩から手を離す。
「乱暴して済まなかた。しかし、夢? きみは何を言てるんだ? ……人が死んだんだよ。少しは考えてくれ」
 男に謝罪を投げつけ、敏夫と浩はかけ出した。

 次の週の登校日、敏夫はひさしぶりに早起きを強いられた。暑気で食欲はない。朝食の膳をつつきながら、居間のテレビを見るともなしに眺めていた。
……過失致死と死体遺棄の疑いで』
 見覚えのある風景をバクに連行される被疑者が大写しになる。
「おじさん?」
 敏夫に食てかかてきた中年の男だ。男は泣いている。不定形な曲線が男の目から顎を汚していた。日差しを受けた涙の筋は、頬を縦断しながら光ている。
『長女の首を絞め殺害、……川へ死体を投下』
 まるで男の傷痕のようだた。(了)

【次のお題】『禍を転じて福となす』
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