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お題リレー小説
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魔法少女は終わらない!
 投稿時刻 : 2016.03.27 19:15 最終更新 : 2016.03.27 19:24
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- 2016.03.27 19:24:09
- 2016.03.27 19:16:40
- 2016.03.27 19:15:44
魔法少女は終わらない!
永坂暖日


 平積みされた文庫本から、棚に詰め込まれた背表紙に視線を移したとき、足に軽い衝撃を感じた。
 ぎとして目をやると、見知らぬ女の子がわたしを見上げて、目をぱちくり。三歳くらいだろうか。髪の毛を二つに分けたその子がぶつかたらしい。誰かを探すようにきろきろ、まだ覚束ない足取りでよたよた歩き出す。
 書架の間にこの子の両親らしき人はいない。女の子の顔は不安げで、今にも泣き出しそうだた。
「お嬢ちん。パパか、ママは?」
 女の子の前に回り込み、しがんで目線の高さを合わせると、できるだけ優しい声で尋ねた。
……いないの」
 ひどく心細い声が返てきた。迷子になたらしい。
 本屋のどこかにこの子の両親がいたらいいのだが、ここは大型シピングモール内の書店だ。女の子がふらりとここへ迷い込んだのかも知れないし、親は女の子がいないのに気付かないまま、本屋を出て行たのかも知れない。
「そか。じあ、おねえちんと一緒に、パパかママがお迎えに来てくれるところに行こう?」
……しらないひとについてだめて」
 女の子はふるふると首を横に振た。その幼さにしては、なかなかしかりしている。
 インフメーンセンターは書店からちと離れていたと記憶している。そこへ連れて行くのが一番手取り早いが、無理に連れて行くと、大泣きするかも知れない。それではなんだか自分が誘拐犯になた気分になりそうだ。
 今度はわたしが当たりをきろきろと見回した。書架の間に、他に人はいない。
「よし、じあ、パパかママが見つかるおまじない、しよか?」
 おまじない、という言葉の意味がまだわからないのか、女の子が首をかしげる。
「おねえちんが秘密の言葉を言うから、その間、パパとママに会いたいて思うの。できる?」
 こくこくと小さな頭が縦に動く。
「じあ、今から秘密の言葉を言うから、パパとママに会いたいて思うんだよ」
 女の子が真剣なまなざしになる。よしよし、ちんと言われた通りにしているようだ。
「カフクハカフクハアザナエルナワノゴトシー
 痛いの痛いの飛んでいけ、と同じ調子で、この言葉を三度繰り返す。
「はい、いいよ。もうすぐ、ここに迎えに来るから」
「うん」
 子供は素直でいいなあ、と思ている間に、通路からベビーカーを押す男女が現れた。
「あ!」
 女の子は嬉しげな声を上げ、彼らに駆け寄ていく。
「離れちだめて言たでしう」
 ちと怒りつつも、安堵した声で母親が言て女の子を抱き上げる。
 ごめんなさい、と謝た女の子は、こちらを振り返て小さな指でわたしを示す。
「あのね、あのおばちんがおまじないしてくたら、パパとママが来たの」
「おねえちんでし!」
 母親が慌てて訂正し、父親と二人で、すみませんごめんなさいと頭を下げる。見たところ、わたしと女の子の両親はそれほど年の差がないので、彼女にとては「おばちん」でもおかしくはないのだが……
「ありがとうございました」
「いいえ、特に何もしてませんから」
「ばいばい」
 女の子に手を振り返し、わたしはその場をあとにした。
 ――さて、大変なのはここからだ。
 本屋を出たわたしは、慎重に左右を見回す。駐車場の方向を示す表示はどこかにないものか。
 そろそろ帰ろうかな、と思ていたときにあの子と出会たのだ。そして、『おまじない』と称して迷子の女の子を助けるために『秘密の言葉』を唱えてしまた。
 わたしは、元・魔法少女。秘密の言葉を唱えれば、みんなの願いを叶えることができるのだ。少女ではなくなた今も、その力は失われていない。なので今は、魔法成人とでも言うべきか。もと歳を取れば、魔法熟女になり、ゆくゆくは魔法老女……なんてことは今はどうでもいい。
 確かこちから来たはずだ、とわたしは本屋を出て右に進む。エスカレータを下りて、近くにあた館内地図を確認する。車を駐めた場所は――思い出せない。シピングモールに入てきたとき、近くにあたのはなんの店だたかも。
 わたしは溜息をついた。
 魔法を使うと、わたしは必ずその代償を支払わなければならない。
 今回は、迷子の女の子を助けたから、わたし自身が迷子となる。ただ、一人で来たので、インフメーンセンターに行ても、迎えに来てくれる人などいないのだが……
 誰かを助けて、わたしがいつも損するばかりではない。もちろん、逆だて可能だ。秘密の言葉で誰かに災いをもたらせば、その分わたしにいいことが起きる。ただ、そんなことをして後味がいいわけがない。たとえ、迷子というささやかな災いでも。
 ささやかな迷子なので、わたしがここで迷子になる時間もさほど長くはない。わたしは駐車場へ向かうべく、館内地図から顔を上げた。そして、自分がどこから歩いてきたか、失念していることに気付いたのである。
 家に帰るにはもう少し時間がかかりそうだた。

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