初! 作者名非公開イベント2016秋
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投稿時刻 : 2016.09.09 01:36 最終更新 : 2016.09.09 01:43
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- 2016/09/09 01:43:23
- 2016/09/09 01:38:11
- 2016/09/09 01:36:49
魔術系芸人は笑わない
サブカルチャーカフェバーM@C(メイさん


ワラにもすがる、とはまさにこのことだろう。
僕はとうとう魔導書なるものを買てきてしまた。

今日のお笑いライブ、観客48人。でも僕目当ての人なんていない。
渡されたギラは千円札1枚。前座だし、なにより手ごたえなんて全くなかたし。これだけもらえるだけでもありがたいものだ。
笑わせられないお笑い芸人てなんなんだよ。

そんな想いからか、ついそのお札を使てつい買てしまたのがこの真黒い本。
表紙とかには何も書いてないが、中身を見て理解した。これはドぎついおまじないの本だと。
と、これは魔導書だ。

「おかえりなさい」
「うん」

家に帰ると妻が声をかけてくる。
適当にあしらてコンビニ弁当をチン。それとお茶を持て自分の部屋へ。
こんな生活がもうずーと続いている。

(さて)

そく買てきた本を開いてページをめくる。
今僕に必要なのはこれ。『周りの人間を笑顔にする魔術』。
この文言に惹かれてこの本を買たのだ。

そこには複雑な魔法陣のイラストと呪文、そして方法が細かく書かれていた。
とりあえず、僕はそれに従うことにした。

モノは試しにとコピー用紙にコンパスや定規で魔法陣を書き、中心に贄を置く。
贄。死体、としか書かれていなかたけど、練習だし弁当の鳥のから揚げを置いてみた。死体には違いない。
そしてどこの国の言葉なのかもわからない呪文を適当な抑揚で唱える。

……恥ずかし)

最後までやりきると、急に謎の羞恥心が襲てきた。
から揚げ弁当をかきこみ、空箱を台所のテーブルに放り投げてからシワーをしてささと寝ることにした。



しかしその翌日。

いつも掴みがイマイチな一発ギグが、大笑いにつながた。
スーパーでの無料ライブイベントだたが、どんどん人が集まる集まる。
多分30人くらいいたと思うが、全員笑てくれた。
こんなことて、本当にあるんだろうか。

(いや、でもやぱ魔術なんかに頼るのはよくないよな)

しかしそんな僕の意志も、初めて渡された野口英世二人の前にはあさりと崩れ去た。

「おかえりなさい」
「ああ、うん」

僕はこそりと買て帰たハムスターを、妻に見つからないようにして部屋へ逃げ込んだ。



それからというもの、僕は瞬く間に有名人となた。あれから半年もしないうちに、レギラー番組も数本持つことになたし、手帳はイベントの出演予定で真黒。
ト上では時々「何が面白いのかわからない」なんて強がりのコメントを見るが、現に多くの人が笑てくれている。僕は魔術の力を活用して頂点への階段を駆け上がりだしたんだ。

(さて、今度のライブも頼みますよ)

カートに刺繍された魔法陣の上に、大型犬の死体がぐでんと横たわる。何回かやて気付いたのだが、この魔術の贄は大きければ大きいほど効果も大きいし、持続時間も長い。
このサイズだとだいたい二週間は大丈夫。でももと大きい規模の笑いが必要となたら、これよりも大きな死体が必要になるわけか。

「ねえ」

僕の部屋の扉が勝手に開けられた。そこにいたのは妻だた。

「あ、これは、その

まずい、死体を見られてしまた。さすがに時々段ボールを運び込んだりしていたら怪しまれても当然か。

「あなたのおかげで、みんな笑顔になてくれてるみたいね」
「え、あ、ああ。うん」

妻が最近全く見せなかた笑顔で近づいてくる。
そうか、この魔術の効果対象は『周りの人間』だから、妻にも効果があるわけか。

「私ももと笑顔にさせてよ」



その後、僕の記憶はない。
最後に覚えていたのは、遠のいていく妻の笑顔と、突きたてられた包丁の感覚のみだた。

こんなんじあ、とてもじないけど笑えないなあ。そんなことを考えながら。
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