てきすとぽい
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初! 作者名非公開イベント2016秋
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富豪とストーブ
(
浅黄幻影
)
投稿時刻 : 2016.09.22 19:57
字数 : 1363
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富豪とストーブ
浅黄幻影
「フ
ォ
クス! イ
ッ
ツ シ
ョ
ウタイム!
──笑えるものでなければ人に非ず!
この男、餓えも悲しみも知らずに育ち、苦労も疲れも感じずに過ごした幸福男。田舎の都市ながら、富みに富み、欠けることの知らぬ満月のような富豪の家に生まれた天下の寵児!
しかし生まれがよくても運に恵まれなければ長続きはしない! そして彼もまた運を味方につけた男の一人。彼の仕事上の英断は見事に、ひとつ残らず「当たり」を引いた。ついてついてつきまく
っ
た。一族は笑
っ
た。笑いが止まらなか
っ
た!
しかしある冬、そう、とてもとても寒い冬のこと。娘が悪い感染症を患
っ
てしま
っ
た。その上、可哀想に治療法がなか
っ
た。一週間、熱と悪寒に苦しみ、リンパをひどく腫らしてそこから膿も絞
っ
たのだけれど、最期には逝
っ
てしま
っ
た。
──なぜ娘は死ななければならなか
っ
たのか?
男は考えた。そして笑うことを忘れてしま
っ
た。しばらく考えた末に、彼は「すべては寒さのためだ」と答えを出した。実際、あのひどい寒さがなければ、体力の低下などの問題は解決できていただろうね。
「これからの時代には薪ストー
ブではなく石炭ストー
ブが必要だ。同じ病気に苦しむ人たちにも大事なことだ」
そう踏んだ彼は一大投資にかか
っ
た。厚手の鋳鉄ストー
ブを組み上げる工場の建設からはじめて、それに対応した良質の石炭精製のために鉱山の権利まで押さえた。会社として、そして父として。
フ
ォ
クス! どうな
っ
たと思う? 男の事業者としての読みそのものは悪くなか
っ
たよ。けれど、あー
、まさかしばらく暖冬が続くなんて読めなか
っ
た。誰だ
っ
て無理だ! ここで最初の痛手を喰
っ
てしま
っ
た。
一年後、どうやら今年も暖冬だとわか
っ
たとき、会社の幹部たちはストー
ブ事業を縮小すべきだと言
っ
た。誰でもそう思うだろう。まあ、僕ならストー
ブで使えるフライパンを作るよう、指示しただろうね!
でも彼は方針を曲げない。むしろ強固にストー
ブへ改良を加え続けた。安全性、排気性、後始末のよさ。すばらしいと思うよ。世界はこうあるべきだ。彼のお金でストー
ブが効率よく燃え上がり人々を暖める。そして彼のストー
ブは人気にな
っ
ても
っ
と売り上げが上がる。誰も文句はない、そうだろうみんな? いや、僕はこの会社の回し者じ
ゃ
ないよ!
実際、お金持ちがみんなに餓えや寒さ、悲しさなんかを乗り越えられるための発明をしてや
っ
たら、世界はず
っ
とよくなるだろう。
さあ、そんな人望厚き僕らの味方、大富豪の某氏だけれど、残念だけど死ぬことにな
っ
た。本当に頑固者だ
っ
たんだね! 彼は十年後にもまだストー
ブを設計し続けていた。自ら熱効率の専門家にな
っ
ていたけれど、自分が加熱しすぎていたとは気づいていなか
っ
たようだ。
そして運も尽きるときが来た。どんな運も尽きるものさ。加熱したストー
ブ事業への投資と、経済の冷え込みで会社が傾いた。彼は設計試作室から会社の執務室に戻
っ
て、毎日ず
っ
と経理と話し込んで頭を抱えた。そして結果、健康を損ね、娘と同じ病気にかか
っ
て苦しんだ。
──笑えるものでなければ人に非ず!
この男、笑うことのない苦労のストー
ブ制作に後年を費やし、そのために笑わずに過ごした今や負債の多き債務者! けれど 僕は彼こそ微笑みの人だと思う。最期は自分の作
っ
た暖かいストー
ブの火を見ながら、娘を思
っ
て静かに病に凍えながら死んだそうだよ」
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