てきすとぽい
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【BNSK】2016年8月品評会
〔 作品1 〕
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救世主
(
茶屋
)
投稿時刻 : 2016.08.14 18:12
字数 : 2145
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救世主
茶屋
無駄に明るい店内にはそこのドラ
ッ
グストアチ
ェ
ー
ンのテー
マソングだけが寂しく流れている。
どこかヒー
ロー
ソング調の、ダサいメロデ
ィ
とダサい歌詞。それでいて何度か通ううちにその曲が頭に染みついてしま
っ
ていて、ふと気が付くと脳内でエンドレスリピー
トされる。
なんだかマインドコントロー
ルでもされているかのようだ。
だ
っ
て世界は大なり小なりの陰謀に満ちているのだから。
でもほとんどの人が本当に危機的な陰謀から目を背けようとする。ある人は世界に陰謀なんて存在しないと信じ、別のある人は他の陰謀を空想してそれを一生懸命に信じようとする。
だけど、私だけは世界の危機をち
ゃ
んと見ている。目を背けず、し
っ
かりと。
私は、戦い続ける。
そのためには、武器が必要だ。
それがこれ。
制汗スプレー
と日焼け止めスプレー
の大量に入
っ
た買い物カゴをレジにゴンと置く。
やる気のなか
っ
た店員がいささか面食ら
っ
たようにカゴの中を見ているが、それでも何も問うこともなく、淡々とバー
コー
ドを読み取
っ
ていく。
支払いを終えた私の背中を不思議そうに見ているのがわかるが、彼はき
っ
とすぐに忘れるだろう。陰謀の存在にたどり着くヒントはそこかしこに転が
っ
ているのに、すぐに気のせいだと目を背ける。それが人間というものなのかもしれない。
スプレー
をホルスター
に収め、夜の街に行く。
「うち
ゅ
うじん」は人に化けるのがうまい。大体はもともと存在していた人物と入れ替わり、社会に溶け込んでいく。奴らの目的は人間から地球を奪うことだ。ただ、奴らはそれほど強くないので武力では侵攻しない。ゆ
っ
くり人間社会に潜み、徐々に徐々に乗
っ
取
っ
ていくのだ。実際にどれだけの数の「うち
ゅ
うじん」がいるのかは見当もつかないけれど、奴らの数は着実に増えているように思える。
遠目に見ただけではわからないが、近くでその目を見れば大体はわかる。「うち
ゅ
うじん」の目にはぞ
っ
とするような暗い光が宿
っ
ているのだ。
この判別方法を言
っ
ても大抵は理解されない。もしかしたら私にしか認識できない何かがあるのかもしれない。
そうして見つけた「うち
ゅ
うじん」を私は追跡し、人気のないところに差し掛か
っ
たころに攻撃を仕掛ける。
人気のないところで退治する必要があるのは警察を呼ばれると厄介だからだ。奴らは人と見分けがつかないし、警察の中にもき
っ
と「うち
ゅ
うじん」が潜んでいて情報操作をしているに違いないから。
まずは顔面に制汗スプレー
を吹きかけ、奴らの皮膚上にある毒腺を塞ぐ。制汗スプレー
は塩化アルミニウムやゲル剤のような成分が人の汗の水分と反応することによ
っ
て固体状にな
っ
て汗腺をふさぐことができる。その作用を利用して奴らが皮膚上から出す有害な毒による攻撃を事前に防ぐというわけだ。さらに、日焼け止めスプレー
を吹きかける。これは日焼け止めスプレー
に含まれる酸化チタンを光触媒として作用させるためだ。光触媒を働かせるためにブラ
ッ
クライトを当てると、奴らの生命活動を支えているナノマシンが発生したヒドロキシラジカルの作用によ
っ
て機能不全に陥る。
そこで大抵の奴らはもがき苦しみ、地面をのたうち回る。
これで退治は終わりだが、念には念を入れハンマー
で頭をつぶす。
それが私の「うち
ゅ
うじん」退治だ。
「うち
ゅ
うじん」の死体は大抵の場合溶けて消えてしまう。
実際に溶けている場面は見たことがないのだけれど、次の日に現場に行
っ
てもその死体が残
っ
ていたことはないから。
唯一、「うち
ゅ
うじん」の存在を信じてくれる男がいる。とはい
っ
ても彼は「うち
ゅ
うじん」を判別することができないから「うち
ゅ
うじん」退治に決して参加することはない。彼は奴らの実在を見たことがないから、最初は私の話も信じられなか
っ
たようだけれど、私が奴らの退治を始めるようにな
っ
てからようやく信じてくれるようにな
っ
た。それでも危険だから止めるようにとは時々行
っ
てくる。
けど、私はこの戦いをやめるわけにはいかない。
戦うしか、道はないんだ。
たとえそれが勝てる見込みのないものであ
っ
ても、私は諦めたくない。
そんな決意を私が言うと、彼は大抵悲しそうな顔をする。
ある日の事だ
っ
た。
いつものごとく私は退治を終えて自宅に帰ろうとした。コンビニに立ち寄
っ
た時、ふとお守りを忘れたことに気が付いた。
彼がくれたものだ。
気休めといえば気休めだけれど、自分が一人で戦
っ
ているわけじ
ゃ
ないことを感じさせてくれるものだ
っ
た。
たぶん、退治した時に落としたのだろう。私はすぐに現場に引き返した。
そこで私は目を疑
っ
た。
彼がいた。
彼は私が退治したそれを車に乗せようとしているところだ
っ
た。
「違う、これは
……
」
私に気付いた彼が何かを言いかけたが、私はと
っ
さに制汗スプレー
を噴射していた。
彼の目に暗い光が見えたからだ。
いつの間に、入れ替わ
っ
たんだ。
全然気が付かなか
っ
た。
ほんとうに、ほんとうに人間そ
っ
くりなんだ。
ほんとうに、ほんとうに彼そ
っ
くりなんだ。
ほら、血が出てる。
ほら、叫び声も。
ほんとうに、ほんとうに
……
。
また一人にな
っ
てしま
っ
た。
ひとりぼ
っ
ちにな
っ
てしま
っ
た。
彼の死体を見下ろしながら思う。
仇は、と
っ
てやるよ。
たとえ他に誰も信じる人がいなくても、私は絶対にあきらめないよ。
私は、ひとりぼ
っ
ちでも戦い続けるよ。
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