てきすとぽい
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【BNSK】2016年8月品評会
〔
1
〕
…
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〔 作品4 〕
夏のベリー
(
大沢愛
)
投稿時刻 : 2016.08.14 23:57
字数 : 11709
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感想:1
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夏のベリー
大沢愛
1
夏の教室では胸元をはだけるべきだ。
べつに暑いからだけじ
ゃ
ね
ぇ
。ち
ょ
っ
と想像してみてくれ。ここは男子校だ。朝
っ
ぱらからクソみて
ぇ
な朝練があ
っ
て、どいつもこいつも汗まみれだ。シ
ュ
ー
ズの中でソ
ッ
クスに包まれて蒸れた足が、吐きそうな臭気を放
っ
ていやがる。帽子かぶ
っ
て蒸れた頭、汗を吸
っ
たシ
ャ
ツ、そんなこんなが教室中に遠慮なしに臭いを発散しまく
っ
ている。
もちろんシ
ャ
ワー
なんて気の利いたモンはね
ぇ
。だから
っ
て水道のとこで頭から水を被
っ
ていると先輩にどやされる。そり
ゃ
そうだ。頭皮の脂をぶちまけた蛇口で水が飲めるか
っ
て話だし。実際、散水用の水道とか校舎裏の怪しげな蛇口とかはと
っ
くに占有されちま
っ
ていて、2年生でしかもマイナー
(つまりは勝てね
ぇ
)部活の俺らは制汗スプレー
を頭から吹き付けて耐えるしかね
ぇ
。
だけどよ、モノには限度
っ
てモンがある。いくらメー
カー
が消臭機能を謳おうが、最終的な部分じ
ゃ
隠しきれね
ぇ
。なんかヘンなふうに化学反応起こした臭気が自分の身体にまとわりつくようになるんだ。「無臭性」
っ
てヤツを使
っ
て、隠しきれね
ぇ
臭いに落ち込むよりは、
っ
てんで、シトラスだのレモンだの、鼻につく香りを吹きつけることになる。正直、あれやこれやが混ざり合うと吐きそうになる。何や
っ
てるんだ、
っ
て話だよな。野球部の井戸なんざ、水虫の足指にまでシトラスを吹きつけやがる。おかげでシトラスの香りがするたびに、水虫で抉れた指の股が目の前に浮かんできて、なんていうか地獄絵図だ。
この耐えがたい状況をサー
バイブするための方法は、意外に近いところにある。人間
っ
て、自分のにおいには耐えられるんだ。たとえ煮しめたようなとんでもない悪臭でも、自分のにおいだと思えば厭味
っ
たらしいミントの香りよりもよ
っ
ぽどマシに思える。
というわけで冒頭に戻るんだ。
夏の教室では胸元をはだけるべきだ。
腐女子のチ
ャ
ンネー
が妄想するみたいに、男同士でセクシー
アピー
ルしてるわけじ
ゃ
ね
ぇ
。中にはそんなのもいるかもしれね
ぇ
が、放
っ
とく。男湯に入るときにこの中にモー
ホー
がいるかどうか気にした
っ
て始まらね
ぇ
だろ? それと同じだ。女子校だ
っ
て、スカー
トまく
っ
て、ついでにパンツまで浮かせてパタパタや
っ
てるんだろ? うちの高三のクソ姉貴が言
っ
てやが
っ
た。あまりの暑さにパンツ脱いで授業受けたバカ女がいて、なんとも言えね
ぇ
ニオイが教室に漂
っ
たとか。慌てて制汗スプレー
を例の部分に吹き付けたら、シ
ャ
レにならね
ぇ
くらい沁みて痛んで、ノー
パンのまま保健室送りにな
っ
たとか。ま
っ
たく、訊きもしね
ぇ
のに女子校ネタをぶちまけやがるこのクソ姉貴のおかげで女に関する幻想は便所の雑巾並みに汚されちま
っ
たよ。もちろん、クソ姉貴やノー
パンバカ女以外の、もうち
ょ
っ
とはマシな女子だ
っ
ているに違いね
ぇ
……
っ
て信じて
ぇ
。切実に。
鬱陶しい教室の混合気の中で、胸元から這い上る自分の体臭が鼻先をかすめるだけで人心地がつく。パンツ経由の臭気も含まれているからマジで綺麗事じ
ゃ
すまね
ぇ
けどな。なんていうか、これ
っ
て動物的には正しい気もするんだ。イヌがなわばりの証拠にテメ
ェ
のシ
ョ
ンベンひ
っ
かけるだろ? テメ
ェ
のニオイがついてり
ゃ
安心する
っ
てわけだ。ネコだ
っ
て耳の後ろの汗腺からの分泌物をすりすりしながらなすりつけているわけで。それに比べり
ゃ
、俺たちはテメ
ェ
のニオイをテメ
ェ
で嗅いでいるだけだから、ず
っ
と紳士的だろう。
……
立ち往生、
っ
て感じもするけどよ。
ともあれ、俺はムカつく英語のテキストをうちわ代わりにしながら、愛用の制汗スプレー
「ラムネ」と体臭の混じりあ
っ
たにおいの中で、ぼんやりとしていた。机に触れた肘の下にはべ
っ
とりと汗が溜まる。じ
っ
としているだけで、ズボンの内は濡れ雑巾レベルに蒸れて行くのが分かる。こんな状態でリー
デ
ィ
ングもクソもあるかよま
っ
たく。リー
デ
ィ
ング担当の岡間のハゲ野郎、「英語を捨てるのは人生を捨てるのと同じだ」とかぬかしやがる。英語は捨てなか
っ
たかもしれね
ぇ
が代わりに頭髪には逃げられてるくせによ。修学旅行で外人が来るとそ
っ
と身を隠す、という噂はこの間、北海道修学旅行で見せてもら
っ
た。英語が得意な飯嵜が話しかけたらドイツ人で、英語は同レベルだ
っ
たんで笑えたけどよ。
「ちー
す」
教室入口から声がする。黒板上の時計は八時二十分を指していた。朝練のね
ぇ
、文化部か帰宅部の連中の登校時間だ
っ
た。そもそも今は八月一日で、授業じ
ゃ
なくて補習なんだけど。このあたりはク
ッ
ソ田舎でろくな予備校がね
ぇ
せいか、やたらと学校信仰が強
ぇ
。「学校の授業さえ受けていれば国立に行ける」「塾に行くと落ちる」「早慶よりも地元の駅弁国立」みたいな。地元の国立ヒ
ョ
ッ
トコ大学の合格者数が誇り、だ
っ
たのが最近じ
ゃ
全国津々浦々の国公立大学への合格者数が100人を超えている、というのがアイデンテ
ィ
テ
ィ
にな
っ
ていた。ヒ
ョ
ッ
トコ大学へは20人程度で、あとはもうマジでアザラシ公立大学だのチンスコウ市立大学だの、この県で真
っ
当に生きている限りは知ることのなか
っ
たはずの公立大学へ強制的に捩じ込まれる。下手をすると1,000キロの彼方だ。菅原道真だ
っ
て流されたのはその半分くらいの距離だ
っ
た
っ
てのによ。進路指導に逆らうと調査書を発行してもらえね
ぇ
らしいから、とりあえずはアザ大やチン大に送られね
ぇ
程度の成績はとらね
ぇ
と。
教室入口から次々に入
っ
てくる顔、顔、顔。見れば分かる。どいつもこいつも三十分以内に家でシ
ャ
ワー
浴びてきました、
っ
てツラだ。ま
っ
たく、俺はなんで運動部なんかに入
っ
ちま
っ
たんだよ。それも暗幕を引いて窓もドアも閉めきるバドミントン部なんかに。
たぶん、部の勧誘が四月だ
っ