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【BNSK】2016年9月品評会 
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タマフミ
 投稿時刻 : 2016.09.25 23:58
 字数 : 10331
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タマフミ
都宮 京奈


 ▽占い師女子高生ELI

 どこかで誰かが私を見ている。
 ――と、思てしまうのが、中学二年生の性(さが)だと思ている(友達から教えてもらたことだけど……)。揚羽(あげは)は特別、人に尊敬される力はないから、そういた〝万能感″を抱くことに無縁だと思て生きてきた。そしてこれからも……
「でも、やぱり見られている気がするんだよな……
 おずおずと教室の中を見渡す。昼食時だたから、どの机の上も色とりどりのランチンマトを広げて、弁当をお披露目している。弁当箱を開いた時の特有の匂いがごちまぜになて、私の鼻孔をくすぐる。肉や魚の強烈なよだれを誘う匂いだ。
 揚羽がキロキロとしているせいだろう、彼女の目線を感じ取た友人が私の机に近づいてきた。
「なになに弁当忘れてきた?」
「今日はパンの日なんですー
 揚羽がカバンからアゲパンを出すと友人はうなずいた。
「なるほど」
 友人の名前は八弥<やや>。揚羽の小学校来の親友だ。心理部という不思議な(不気味な)部活を立ち上げ、部員一名で同好会扱い。だとしても、部活動に積極的なアグレシブな部長であた。トレードマークは常時撮影中のビデオカメラ。著作権や肖像権はなんのその、好き勝手にビデオを回しまくり、教師に怒られるのがいつものことであた。
「ヤヤは?」
 揚羽はアゲパンの袋を開いて聞く。聞かれた八弥は「あー」と声を出した。
「私、忘れちたんだよね」
「え!?」
 揚羽は眉を顰(ひそ)める。かなり不機嫌な様子だ。
「それじあ午後もたないでし。ばかー
 八弥は空笑いでごまかして、一呼吸置く。そこから、大きな声で、周囲も顧みないオーバーアクシンのドゲザをした。床にゴツンとなるぐらい。
「半分……恵んでもらていーでしか!!」
 揚羽は大きくため息を吐いて、アゲパンを袋から取り出して半分にした。
「どうぞー。ばかー
「ありがて……ありがて……
 揚羽から、アゲパン半分をいただいて、八弥は口にぽいと投げ入れる。
 そんなやり取りを見ていたのか、もう一人の女性が近づいてきた。
「あ、アゲハさん……た、た、足りなかたらどうぞ」
 驚くべきはその言葉を発するまでの過程だ。ここまで到達するのに、ガンガンと机を蹴飛ばしすぎる。あまつさえ、脛を痛めたのか、苦痛に歪んだ表情をしている。
「あ、ありがとう‼ 纒(まとい)ちんから貰えるなんて思てもみなかたよーえへへー
 そうして、揚羽の手元に渡されたものは、三段重ねの弁当箱だた。いわゆる重箱というヤツである。運動会でよく見るヤツである。
「え……
 纒は、照れながらも、脛をさすりながらこういた。
「私は、い、いいの、た、た、食べたから」
 ニタと笑う彼女を前にして、揚羽はぽつりと漏らした。
……な、何を??」

 お昼休みが終わて、五時限目が始まるチイムが鳴た。国語の教員が教室に入てくるなり、揚羽の名前を呼んで、廊下に呼び出した。
 周囲は、特異な状況にそれぞれ憶測を交わした。少なからず、ここに書き出すにも反吐がでるものもデリカシーのない男子から飛び出したが、八弥と纒は目を合わせて、揚羽にエールを送た。
 人差し指と中指に親指を突込むしぐさを揚羽に見せると、揚羽はまた不機嫌そうに眉を顰めていた。違たか。
廊下から、教師と揚羽、それに聞いたこともないような男の低い声色が聞こえる。揚羽の父は絶賛蒸発中で、姿が見えない。それで元気がなくなていた時期もあた。ひとしたら「揚羽の父」関係の人物かもしれない。
その話も数分で終わり、何事もなかたかのように、揚羽と国語教師は教室の所定位置についてしまた。

「それで、何があたの?」
 八弥は教室掃除をしている揚羽を中庭倉庫まで連れ出して詰問した。多少強めに迫る。でないと、彼女はいろんなことを隠してうやむやにしてしまうからだ。揚羽は、「なんでもないよー」と力なさげに言たあと、ぽつりともらした。
「なんか、TV局の人が、私に誰かを占いをしてほしいて」
「はあ?」
 揚羽はほほを掻く。
「おかしいよね。『占いを揚羽さんがする動画を流すことで、占いで有名だたお父さんへのPRになるかもしれない』てさ。私が占たことあるのなんて、ヤヤちんぐらいしかいないのに……
 そう言い切て揚羽は俯く。無理難題を振りかけられたことに戸惑ているのだろう。
「それで……
 確かに八弥は揚羽に占てもらたことがあたかもしれない。でもそれは小学校のときにあたかもしれないぐらいの記憶しかなく、「占い」と言えば、八弥の記憶に残ているのは本がたくさんある書斎でたくさんの小石をジラジラとふるていた揚羽の父の姿であた。
「占いすることはわかたけどさ……占いしただけで終わりなんだよね?」
 八弥は揚羽の肩を掴んで揺さぶる。揚羽は迷ている。死ぬほど魅力的な「蒸発した父へのアプローチの機会」が手に入りそうなのだ。そり誰だ……。揚羽は首を横にふる。
「占いは最悪の結果を出してほしいて。それでハリボテでそれぽいもの作て、それを私が退治するところまでするてさ」
 八弥の目の前が真暗になた。
……もちろん、私を占うていたんだよね?」
 八弥は、それならばまだいろいろと揚羽をサポートできるかもしれないと考えた。
 揚羽は泣き出してしがみこんだ。
「う、占う人はランダムで見せるてさ。そこから撮て、ドキメンタリー風に……
 彼女のすすり泣く姿に、どんな言葉をかけていいかわからなかた。

「それなら、わ、私が……う、う……てもらてもいいでひ……うか」
 教室の廊下側に座る冴えない文学少女が手を挙げた。彼女の名前はマト(まと仮名)。彼女はこれから一年に一回の大占いをする、占い女子中学生ERI(エリ)の占いに名乗りを上げた。
 ERIは周囲をゆくりと見渡して、ため息を吐いた。
「わかりました。私は、この占いをできれば親しい友人にお願いしたかたのですが……
 ERIは、目の前の薄いベール越しから、名乗りを上げた少女を一瞥した。
「さ、この小石を机の上に落としてください」
「は、はひ!」
 マトのクラスメートは固唾をのんで見守る。なぜなら、この一投で、小石の有様で彼女の未来が決まるのだから。
 彼女が小石を投げた。それらは机のあちこちに散らばた。教室は静まり返る。本当に占いはあるのか、本当にこの一投で彼女の人生が決まてしまうのか、不穏な空気が流れ続ける……
 占い師中学生ERIはゆくりと言葉を吐き出した。
……マトさん。お疲れ様でした。占いのことは忘れてください」
「え……
 監督の永井(ながい)は堪らず言葉をかける。
「結果は……どうだたんですか?」
 ERIは青ざめていた。占いの結果がそれほど恐ろしいものだたのだろう。
「だから、結果は? 言てくれないと! なあ‼」
 マトもおろおろと周囲に目配せをしている。それは悲痛な叫びのようだ。誰か助けて――といた種類の。
「彼女は地獄に落ちるでしう」
 教室が悲鳴にあふれた。

▽呪い

「ほんとーにごめん! なんでもおごる! おごるから
 揚羽は手を合わせて、纒に懇願した。纒は苦笑いを浮かべている。
「いや、いやいや、アゲハさんの迫真の演技……堪らなかたですよ! 地獄に落ちる! ……
「それ、本気で言てる?」
 八弥はすかさず茶化す。だてそうしないと、あの非現実的な営みから帰てこれそうもないから。
「だからー……んもーどうすれば纒ちんに罪を償えるんだろう……
 今日の昼に監督の永井さんと、カメラマンのミチルさんが校舎に現れて、ドキメンタリーの一部を撮ていた。当初は八弥が名乗りを上げるはずが、急にくじ引きを初めて、そのくじに当たたのが纒だたのだ。
 纒は最初は嬉しがていたが、揚羽の出した結果を聞いて、多少……よりももと精神的ダメージを受けたらしかた。
「なら、私の秘密、いつかは聞いてください」
「へ?」
 纒はそう言て、走て距離を置いた。
「また明日、ばいばいです
 駆けて夕日に消えていく纒を見て、揚羽は、首を傾げる。
 そんな揚羽を見て、八弥はため息を吐いた。
「なんか悔しいけどさ、纒さんの秘密て、私がいたら言い出しにくいことだたんじないの?」
「ああ!」
 じあ私も、と言て、八弥は手を振た。


 ERIは家に帰宅するなり、母の姿を探した。母は、居間で夜のドラマを見ていたようで、ERIの声を聞くなり、立ち上がり夕食を出す準備を始めた。
 ERIは占い師といても中学生。勉強も、趣味も、恋も、たくさんすることがある。母の「ごはん用意できるからー」という問いかけも、思春期特有のけだるさを演出した生返事で返した。
 それから30分後、ERIはドラマを見続ける母の横でサバの味噌煮に苦戦しながらも、母にさもどうでもいいことのように振舞て質問した。
「ね、お父さんてさ……
 そういて、いたん言葉を区切る。母の様子をうかがているようだ。なぜなら、占い師中学生のERIの父親は蒸発していたからだた。
 母は、ちぶ台の菓子受けからせんべいの袋と摘み上げ返事をした。
「なに?」
「い、いくつも占てきたわけじん。占いが本当に悪い結果だたら、それをそのまま伝えてたのかなて」
 母は、せんべいの袋を思いきり手のひらで叩いた。コナゴナにしてから食べるためだろう。その音に、ERIは微かに肩を震わせた。
「なに、あんた誰か占たの? あ、あー
 ERIはサバの煮つけと格闘することを終え、しらたき入りのサラダの器を手に取た。
「悪かたの? マジで」
「う、うん……マジで」
 せんべいを袋からひとかけらつまみ上げて、興味なさそうに母はテレビに視線を戻す。
「占いて、投げぱなしが基本だてお父さん言てたよ」
「投げぱなして?」
「俺は占う。その結果をどうとらえようが関係ない。好きにしろてこと。いいようによ無責任だわね」
……
 母は、もうひとかけらせんべいを摘み上げそれをERIに見せた。
「こんなにコナゴナになてもさ、せんべいはおいしい。別に気に病むことないわよ」
 ERIは首を傾げる。サラダの器を食べ終え、もう一度母に尋ねる。
「それでも責任を感じてたら……お父さんはどうしてたんだろ」
「私はお父さんじないからわからないし、わかてたまるかだけど、そういえばあの人言てたわね。『その人が自分にとてどれだけの存在かを考えなさい。守りたかたらそばにいるしかないんじない』て」
 ERIは自分の食器をまとめながら、母に感謝の言葉を告げた。
それが、今後の命運を決める言葉だたとは、彼女も知らなかた。
「ま、あんたが大変なことになたら、私が守るから、安心しなさいな」

 占いについて、著名な人物である分木美智(わけぎ みち)医学大学教授に聞いてみた。
「占いというのは迷信と決まているんですな。ノロイとかといたもんと同じで、気の迷いが感覚を奪てしまう。くさいに違いないと思ている男と会えばいつもくさく感じる……みたいなもので。だけど、占いは迷信だけど効果がないとは限らないから、いまだにハマる人が後を絶たないんですな。それがとんでもなくタチが悪い。問題は占いで悪い結果が出たときですわ。ふつうは壺を買わせる。それか、それに準ずるもの。部族の儀式なんか、占わなければ悪い結果が起こるという前提で動いておる。大事なのは占いの有用性ではなく、占いに依存するニンゲンを本当の意味で解放することですな。最近耳に入てくる怪物とやらも……なんでしたけ、『タマフミ』でしたかな。あれも、同様にそれがどのような作用を社会に及ぼしたことよりも、その信じる依存心を解放することが大事だと思いますよ、私は」

「おはよー
 揚羽の浮かない顔がこちらに向かてくる。茶化すか茶化さないべきか考えたが、八弥はやはり、揚羽の悩みをなんでもないことのように吹き飛ばすことが正解のような気がした。
「なーに辛気臭い顔してんのさ」
 珍しく私が茶々を入れても、返てくるのは空返事。
「あははー。はー
「あ、あの!」
 そこで、突然の乱入者現る。
「き、気にしないで、気にしないでください!」
「纒ち……
 カバンを後ろの棚に入れて、揚羽はなんだか恥ずかしそうに頭を掻く。
「纒ちんがこう言てるんだからさ、気にするなー
「はい、はい!」
 揚羽はよぽど纒のその言葉に元気つけられたのか、だんだん調子を取り戻していた。
「纒ちんがそういてくれるなら……そう、だよね。ごめんね
揚羽は決心したように一呼吸置いて、纒の言葉に食い気味で言葉を投げかけた。
「はい! で、ですね……
「纒ちん!」
「は、はい?」
「占いなんて、やぱりあるわけないよ気にしないで! うん、忘れよう!」
「は?」
「だからー
 揚羽は纒の手をとて、ぎとにぎた。
「ない! ない! 占いなんてあてたまるかー!」
「お、揚羽、吹切れたね
 揚羽は照れくさそうに頭を掻いた。そうして離れた手をぼーと纒は眺め続ける。
「お、纒さん、どうかした?」
「い、いえ……別に」
 始業のチイムが鳴て席につかなければならなくなた。
 揚羽も元気よく一時限目の準備を始めている。
 それからほどなくして、纒は早退した。

 それからしばらく纒は風邪で学校を休み続けた。季節外れの夏風邪だろうか、もうそろそろ秋に差し掛かるというのに、長引いているみたいで、なかなか姿を見ることができない日々が続いた。
 そのことは揚羽の不安にもつながているようで、揚羽自信、帰り道に首のない猫の死骸を見つけたり、自分の持ち物が姿を消していたり散々だたようだ。
 揚羽が不安を募らせるたび、執拗に連絡をよこしているのは、監督の永井であた。もう少し取り高が欲しいという理由で、しばらくの間、夜9時までの間は実家にビデオカメラを投入し、「占い師中学生ERI」の姿を撮ていくようだ。そのこともストレスに間違いなくなているはずだ。
 ある日の深夜1時、泣き声で電話をよこしてきた。
「どうした?」
「もう……だめ……いや!」
「何があた? すぐに行くから、家だよな?」
「う……うん」
 こんな調子で、家に行くと、パジマ姿で玄関から飛び出して抱き着いてきた。揚羽の手は血で汚れていた。——何の?
「ヤヤち……ヤヤちん!!」
 扉の奥、彼女の実家の玄関にそろえられている靴に、明らかに球体のものが転がていた。それは猫の首だた。
「わかた、わかた。つらかたな、辛かたな……
 なぜか八弥までもが泣きそうになた。

▽タマフミ

 女子中学生ERIは、土曜日に友人を誘て図書館で勉強会を開いた。土曜日に図書委員の仕事があり、そのついでに友人を誘て勉強することにしたのだ。
 その友人の一人はヤヤ(仮名)という親友、もう一人は、あの占いで最悪の結果が出たマト(仮名)だた。
 ERIの隣でヤヤは宿題のプリントにシプペンシルを走らせている。向かいに座るマトは、何か手をつけようかと手を宙にさまよわせて、ERIを見る。そしてまた手を膝元に戻す。そんな繰り返しをしていた。
 突然、バサと音がした。
 その音にびくと体を震わせるERI。
「大丈夫、大丈夫、ただのカラスだて」
 ヤヤはERIの手の甲に手のひらを重ねて囁く。随分とERIは弱ているようで、力なくうなずくだけだた。
 ERIはそうして体を震わせて、またどこか宙の一点をぼんやりと見た。ERIの手元には、教科書も、参考書も、ノートもプリントも広がてはいなかた。ただ、夕暮れの日差しが図書室の茶色い机をより赤く染めているだけだ。
 その姿は、ただ一人でいるのを怖がて、友人と空間を共にしようとするか弱い少女の姿にしか見えなかた。
 そんなERIの姿を見かねたのか、勉強会が始まて二時間ほどたたとき、マトはERIに言葉を投げかける。
「○○さん、どうしてこんなに怯えているんでしうか……
 その言葉に返答したのはヤヤだた。
「あ……と、精神的にまいているんだ。こうしてカメラ向けられるのも、きついみたいで。ほら、○○さんが学校に復帰してから、私もカメラ、回してないだろう?」
「あ……。わ、わたしの……
 ERIは首を横にふる。
「違う……と違うと思う。だて、○○ちん、何もしてないもの。ただ、ヘンなことになて、驚いているだけ……
 ERIの言葉尻は力なくか細く、消えていく。図書室の中は静寂に満たされる。三人は一様に顔を俯いている。
 これが呪いというものなのか。占いの悪い結果が招いたことなのか。わからないが、あの占た日から少しずつ運命の歯車が狂い始めたことだけは確かだ。
「ぎ……あがああああああああああああ
 野太い男性の声が、図書室扉向こうの廊下の方から聞こえてきた。
ああああ……
 三人は肩をびくと震わせて一斉に扉を見た。
 図書室の扉はただの引き戸で、覗きガラスの類はついていないものだた。
「あ……
 今にもその引き戸が引かれるのではないかと凝視する彼女ら。いたいこの図書室の外で何が起こているのだろう。いたい、誰が何を欲して何をどうしているのだろう。
 野太い男の声も廊下のリノリウムの床に潜み、あたりは、図書室の大きな採光窓から夕暮れが差し込むばかりだた。勉強道具も消えてはいない。依然変わらぬ図書室だ。
 ERIは、ぽつりともらす。
「これも……私のせい?」
「違う。違う。関係ない。何も起こてなんかない! たかが占いがなんだてんだ! どうせヤラセだろ!」
 ヤヤは半ば叫ぶようにERIに言い聞かせる。
「開けます」
 そういたのは、マトだた。彼女は、固まる彼女二人を後目に、図書室の引き戸を引いた。そうして何かを見つけて固また。
「どうした、○○さん!」
 ヤヤとERIも廊下の奥を見る。
 男の頭部が食われていた。食たモノはこちを見ている。
「ああああああああああああああああああああああ」
 ERIとヤヤとマトは走り出し、図書室すぐ横の階段を駆け下りた。
 男……(どうやら監督の永井だろう、頭部のない横たわた体の身に着けているもので判断するしかないが)を食たモノは、ヒトガタの何かだた。そのヒトガタの何かは白く、奇妙な動きをしていた。左右に体を揺さぶり、近づいてくる。頭部と思える部分は赤く染まており、それが赤目と同じように強調され、顔面に赤絵具で三点垂らしたような造形だた。
 その何かはこちらの真正面に立つと、一言つぶやいた
「マ、マ」
暗転。

 揚羽たちは一階の理科室に移動していた。学校を出ることはこちらの階段からできなかた。避難経路としては失策だたのだ。
 理科室の中から声が聞こえる。
「あれ……何だたの……?」
……
 揚羽は今置かれている状況を必死に整理しようとしているみたいだた。纒はその返答にどう答えていいものかわからないようで、なかなか言葉が出てこなかた。
「揚羽さん、やぱり占いて適当だたんですか?」
 纒はそう言た。揚羽は少し間を置いて答えた。
「ううん。実はお父さんから教わていたんだ。少しだけど。それで、ヤヤちん相手に的中もしてる。でも、その的中が悪い方のだたんだ。だから、あんまり占わなくなた。占わなければ、悪いことがあても、知らないでいられるから」
「それじ……
「うん、纒ちんを占たとき、すごく悪い結果だた。でも、私は悪い結果だとわかても、それをどうやても変えることができないんだて気づいた。だから、纒ちんに伝えたくなかた。……ごめん」
 しばらくして、纒の泣き声が聞こえた。揚羽はうろたえている。
「ど、どうしたの……
「ごべんなさい……
「纒ちんがなく理由がわからないよ
「違うんです。やぱり、さすが揚羽さんだて思……
「え?」
「あの化け物、私なんです。私が生まれてからずーと、私の周りをうろついて離れないんです」
「え? え?」
「夜蛾家……私たち呪われているんです……。揚羽さんが私を占てから、ひとしたら、また〝タマフミ″が悪さするんじないかて心配で……それで休んでいたんです。でも、何もなかたから安心してたら……ぱり現れて……ごべんなさいい」
 初めて聞いたその言葉に驚き、理科室の扉を開いて、叫ぶ。
「じあどうやたらアイツをどうにかできるんだ!!」
 いきなり理科室の戸が開いて驚いた顔で八弥を見る二人。その視線が徐々に頭上に上がていく。
「私たちじ無理でづ」
 八弥が持ていたカメラは天井を映し床に落ちた。

 八弥が白いタマフミに頭部を食われた。
 その後、驚いて固まている揚羽の頭部が食われた。
 最後に纒の頭部が食われた。



▽くだらないものに変わる

占いについて、著名な人物である分木美智(わけぎ みち)医学大学教授に聞いてみた。
「呪いをかける人、呪われる人ていうのは表裏一体でね。どちらも誰でもなれるし、誰でもやられる。用は気のもちようだからね。誰だて怖いと思うでしう。それが呪いとなる。当たり前だね。ただ……具体性を持てば持つほどその力は弱くなる。だてそうでしう、具体的なことて100%そうなることなんて稀だもの。だからボカす。見たら狂うとか、見たら死ぬとか、不幸になるとか。……でも、そういた意味では〝タマフミ″ていうやつは異質だね。見たらどうなるかなーんもわかいないのに、話だけ都市伝説で残ている。それて、誰かが意図的に残したてやつだよね。ん? なんのために? 知らないよそんなの」

 頭部が食われた人は、その後どうなているかわからない。
 次の理不尽な被害者はあなたかもしれない。

 というテロプをつけたして、ミチルは仕事を終えた。本当は監督の広井(役名:永井)が終わらせるはずだたが、あの作り物の怪物を出すシーンで熱中して階段で足を滑らせて転落死したのだた。
 死者を出したとあれば撮影は続けられない。しかし、監督の遺族がどうしても遺作として世にだしたかたのだろう、こうしてその仕事を分担して作業は続行した。
 なんとか完成させ、スマートフンを取り出し、恋人に連絡を入れる。あと一時間後はデナーでおいしいごはんと酒が飲める。

「大変だたわね
 そういてテーブルの向かいでほほ笑む女性は夜蛾さんという、バツ1の魅力的なキリアウーマンだた。知り合たのは三か月前。ちうどこの〝タマフミ″(広井監督遺作)のアイデアをもらたことからだた。
 彼女は、まるでそうするべきかのようにワインを回してから口元に運んだ。
「そうなんだよ。呪いていうのは良くあるやつだから目新しさがないて思ていたけどさ、女子中学生ていうスパイスをつけられて良かた。夜蛾さんが娘さんとその友人を使わせてくれてありがたかたよ
「いえいえ。彼女たち、迫真の演技だたでしう」
 ミチルは気を良くして、ワインを一気に飲みほした。
「そうそう。すごいね、最近の女子中学生は。なんかかわいそうなことしたよ。結構長いことカメラ家に入れちてさ。揚羽ちんなんて本気で怯えてたよ。日に日にさ」
「ふふ」
「娘さんの纒ちんなんか、撮影終わた後も、『ごめん、ごめん』て繰り返しつぶやいてさ、揚羽ちんにぎて抱き着いちたりして」
「そり……
 夜蛾さんは財布から一万円札をテーブルに置いて、コートを取た。
「だて、本当に呪われたんだもの」
「え?」
「もう一度会社に帰て、〝タマフミ″のシーン見てごらんなさいな」
「え、帰るの?」

 ミチルは言われたようにもう一度、問題のシーンのテープを再生した。
「これこれ。……
 〝タマフミ″が広井監督(のダミー)を加えているシーンで、例の作り物が二重にぼやけているように見えた。さらに、広井監督の傍に知らない男が立ている。
「誰だ……
 拡大すると、その男は50代ぐらいに見えた。チク色の青い服を着ている。目が少し大きめで、だからこそ、彼が何を目で追ているのかわかた。
 彼がずと目で追ているのは、廊下を駆け下りる揚羽の背中だた。
 そして彼は〝タマフミ″の姿がこちらに向かている間、同様に廊下を駆け下りていた。揚羽の背中を追うように。

 気になて後日揚羽の実家に電話を入れる。電話はつながり、元気な声が聞こえた。しかし、撮影のこととなると言葉がたどたどしくなり、もというと纒に関することはこれちも覚えていなかた。存在すら。
「あれだけ……抱き合ていましたよね? ほ、ほら、撮影後に……!」
「え……そう……たんですか? あれー私、そんなに薄情じなかたつもりだたんだけど……
 夜蛾さんの電話もつながらなくなり、交流が途絶えてしまていた。
 最後の望みを託し、もう一人参加していた女の子について尋ねる。
「あの、カメラをずと回していた女の子……いたでし? 彼女なら何か知ているんじないかな……彼女の連絡先教えてくれないかな」
 そう聞いたとき、明らかに50代ぐらいの男の声でこう言われた。
「あの……だれのことです?」
 気味割るなて即座に電話を切た。

 広井監督の遺作は、世にでたが、セールスも良くなく、市場から姿を消した。だが今でも時々ミチルは動画を見る。
 間違いなくそこには、女の子三人が……三人? いや映ているのは女の子二人に、男一人か。
 いつも釈然としないまま動画を止め、次の仕事の作業に移るのだた。
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