てきすとぽい
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第35回 てきすとぽい杯
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〔 作品9 〕
壁ドン♡Kiss
(
有理数
)
投稿時刻 : 2016.10.16 00:43
字数 : 1011
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壁ドン♡Kiss
有理数
普通、恋人
っ
て言うものは、甘酸
っ
ぱい、胸がキ
ュ
ッ
とするような、そんな熟れた檸檬を音を立てずに齧る味わいだと思うじ
ゃ
ないですか。
僕は、今彼女と向かい合
っ
ている。
それ自体は普通のことだろうけど、僕の顔の横には、彼女のほ
っ
そりとした白い腕が伸びていて、肉付きの程よい太ももは、僕の股間より下、両脚を無理やり開かされている状態だ。
いわゆる間違
っ
た方の"壁ドン"である。
普通、キスをするにしても、も
っ
とロマンテ
ィ
ッ
クさが求められるものじ
ゃ
ないですか。例えば、夜景の美しさを肩を寄せ合
っ
て眺めながら、自然と近づく唇。はたまた、明かりの落ちた薄暗い部屋の中。互いに見つめ合
っ
て、なんとも甘美で鈍重な動きで身体を引き寄せ合
っ
て、それでもなかなか近づけることのできない唇。そのじれ
っ
たさやくすぐ
っ
たさを、僕ら童貞組は憧れるわけですよ。
それが。
とある雑居ビルの男子トイレ前。なかなかつれない僕にしびれを切らした彼女は、まるで効果音が聞こえてきそうな勢いで、僕を壁に押し付けて、なんの迷いもなく唇が近づいてくるわけである。その赤く熟れた柔らかな唇肉からはほのかにアルコー
ルの味がした。
それ以来、彼女は味を占めたように、ことあるごとに"壁ドン"で迫
っ
て来るのである。
ともに暮らす狭いワンルー
ムの部屋で。
エレベー
ター
内で不意に二人きりにな
っ
たとき。
飲み会の帰り、誰もいない夜道で。
朝早く、二人きりのオフ
ィ
スで。
僕はそれらを受け入れ、だんだん恋人とはこんなものかと思い始めて、恋人たちのキスとはおよそ、焦れる女の子、逃げる男の子。押さえつける女の子。観念する男の子。
そしてゴー
ルイン。
それがキスの作法なんだ。
僕らの壁ドンキ
ッ
スは飽きることなく繰り返された。
そうして、ある男だらけのドキ
ッ
♡飲み会の日、そういう話にな
っ
て口に出した時だ
っ
た。
「いや、それはおかしいから」
僕は、世界が音を立ててガラガラと崩れ去る景色を目にした気がした。
普通、キスなんて、いつでもするだろ。ど
っ
ちが先とか、どういうシチ
ュ
エー
シ
ョ
ンとか、そんなの関係なく。とりあえず人目は避けるけど。でも、たまには人目を憚らずにやるキスもいいねえ。
君たちのキスには作法というものがないのか。前兆というものがあるだろう。嵐の訪れる静けさと激しさが。何か、アクシ
ョ
ンがあるはずだ。女の子からの、そういうアプロー
チとかいうものが。
「へ
ぇ
、変わ
っ
てるね、お前ら」
というか、何、その。
「謎ルー
ル」
(完)
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