てきすとぽい
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【BNSK】2016年11月品評会
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大都会デビュー
(
゚.+° ゚+.゚ *+:。.。 。.
)
投稿時刻 : 2016.11.17 20:58
最終更新 : 2016.11.19 21:50
字数 : 1731
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2016/11/19 21:50:19
-
2016/11/17 20:58:23
大都会デビュー
゚.+° ゚+.゚ *+:。.。 。.
彼は船底に寝そべり空を見上げていた。
空は晴れ渡
っ
ていた。漆塗りの壁の、丸い縁に切り取られた景色は、薄い青色と真
っ
白な雲が入り混じ
っ
ている。
船の乗り心地は概ね良か
っ
た。蛇行する大きな川を進む船は時折大きく揺れたが、船底にぴ
っ
たりと預けた背中が押し上げられると、高揚する自分の胸の心地と同期しているようで、彼の心はより一層踊るのだ
っ
た。
彼は東京へ向か
っ
ていた。彼が生まれ育
っ
た小さな村の外れを通
っ
ている大きな川は、東京に繋が
っ
ている。船に乗
っ
て、彼は川を下り、東京へ向か
っ
ているのだ
っ
た。
村を出て小一時間は経
っ
ていたが、空は変わらずただただ静かな青色を呈している。空はどこへ行
っ
ても一緒だ。繋が
っ
ているのだ。何も怖くなどない。
彼は村を出るときに、ひどく彼を心配して嘆き悲しんでいた育ての母親のことを思い出した。
「坊、坊や、坊よ、行くのけ、本当に、行くのけ、東京に行くのけ」
川原で、家にあるものを使
っ
て自作した一人乗りの船に乗り込もうとしている彼に、母はすが
っ
た。彼は鬱陶しげにそれを振り払
っ
た。
「あたぼうよ、東京に行くのは、おれの小さい頃からの、夢だ
っ
たかんな」
小さい頃から読みふけ
っ
た大量の東京に関する本から学んだ東京弁を用いて、彼は母にそう宣言した。
「恐ろしいだあ、東京は、恐ろしいところだ、坊、今からでも、思い直すだあ」
「何が恐ろしい
っ
てんで
ぇ
」
「東京では、もう、銭は使わねえ
っ
て言うだあ。乗り物に乗るのも、もう銭は使わねえだあ」
「知
っ
てらあ、スイカのことだろ」
「そうだあ、スイカだあ。乗り物に乗るのにスイカを一々食べなき
ゃ
いけないなんて、東京は恐ろしいところだあ。移動する度にお腹がたぷんたぷんにな
っ
ちまうだあ。坊には無理だあ、頼むけ、諦めて村にず
っ
といるだあ」
「てやんでい、スイカを使う
っ
てのは、スイカを食べることじ
ゃ
ねえんで
ぇ
」
「そうなのけえ」
「こうするんでい」
彼は、自作の船の乗り口に設置した、自作の機械に、ポケ
ッ
トから取り出した巾着を当てた。「ぺ
っ
」という音が鳴り、で
ぃ
すぷれいに「残額」という文字が表示された。
「坊、坊、これは一体、何なのけ」
「あいしいかあどりー
だー
っ
てやつでい。文献を読み漁
っ
て、俺が自作したんでい」
そう言うと、小さい巾着に入
っ
ていた中身を取り出した。黒い粒が太陽の光を受けて輝いた。
「これは、スイカの種けえ」
「おうよ、これをあいし
ぃ
かー
どりー
だー
に当てると、ばすやでんし
ゃ
に乗れるんでえ」
「そんな、そんな、不思議なことが、あるわけねえだあ、坊、今からでも考え直すだあ」
「うるせいやい!」
彼は、尚も袖にすがろうとする母に背を向け、船に乗り、あいし
ぃ
か
ぁ
どりー
だー
にスイカの種を当てて、漕ぎだした。山間を走る川の急な流れに乗
っ
て、船はあ
っ
という間に村から遠ざか
っ
た。
「坊、坊や
……
!」
彼は耳を塞いだが、大きな母の泣き声は長い間彼の耳について離れなか
っ
た。
船の中も外も、実に静かだ
っ
た。川の音と、時折木々のそよぐ音と、軽やかな小鳥の泣き声が聞こえるだけだ
っ
た。
だがそれからさらに小一時間経つと、徐々に、船外から聞き慣れぬ音が聞こえてきた。
大勢の人々の騒ぐ声。足音。乗り物が地面を擦れる音
――
都会だ、都会が近づいている。
初めて聞く「喧騒」というものに、彼の胸は途端に高鳴り、船底から跳ね起きた。
赤い漆のぬられた船の壁は綺麗に輝いている。それを、よじ登
っ
た。いつの間にやら、川べりには大勢の人間がひしめき合う町が見えていた。
「てやんでい、一寸法師さまのお通りでい!」
彼は船上で高らかにそう名乗りを上げると、スイカの種を巾着に入れたままあいし
ぃ
かあどりー
だー
に当てて、川岸に飛び降りた。
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