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【BNSK】2016年11月品評会 
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とお く のものがたり
茶屋
 投稿時刻 : 2016.11.17 21:05
 字数 : 2389
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とお く のものがたり
茶屋


 車内では雪が深々と降りつもており、座席に整然と並んだ地蔵たちが柔和な表情を浮かべたまま凍てついている。
 電車にたまたま乗り合わせた行商に笠をねだる風でもなく、むしろこれがあるべき姿なのだといわんばかりであり地蔵の恩返しなど望むべくもない。
 これは何かのアート作品か、それともヤナギダイベントと見るべきだろうか。かつての観光産業か何かの記念事業の遺物と見るならば前者の可能性もないわけではないが、ここが外区であることを鑑みれば後者の可能性のほうが圧倒的に高いだろう。そもそも私を含む数名の呪禁官たちは観測データから予測された大規模ヤナギダイベントに関する調査のために朝廷から派遣されたのである。仲間の呪禁官たちが大なり小なりのヤナギダイベントに遭遇したことは報告を受けているし、そのうち一人は「河童」という言葉を最後に連絡が途絶えている。これらはあくまで想定された範囲内である。
 が、今回の観測対象に関連するものではなさそうである。深入りすれば命の危険も伴う可能性のある事象だ。
 私はそとドア横のボタンを押して降車した。
 痛いような日差しが肌を刺し、山全体が震えているような蝉達の鳴動が耳を突いた。
 夏である。

 かつて東北と呼ばれた地域が外区と呼ばれるようになてから十数年の時が流れた。原因はいわゆるヤナギダイベントの拡大によるものである。かつてそのイベントの存在を蒐集した学者にちなんで名づけられた事象ではあるものの必ずしも土着染みた一貫性があるわけではない。文化的要因に作用を受ける事象であり、ある種の歴史と現代を反映するものだとの学説もあるが定かならない。必ずしもこれがヤナギダイベントであり、これはあくまでも確率が低いだけの物理現象であるとは判然と区別できるわけでもない。強いて言えばある種の観測が疎外され、因果関係を辿れない事象がヤナギダイベントであるという簡単な説明がなされることがある。もちろん実際はそんなに口で言うほど簡単ではないのだが、ここでは深く立ち入らないことにしよう。
 ヤナギダイベントは遠野を中心にして拡大し、数年のうちに東北全域を包み込んだ。人の生存が不可能な地域ではないのだが、不可解な事象に慣れることのできぬものが多く、それ以前にも減り始めていた人口は加速度的に下降していき、現在では野生動物よりも人のほうが珍しいような状況である。そんな状況から、特に境界線が設けられたわけでもないのに関わらず東北は外区と呼ばれるようになた。

 先ほどからすれ違う老人が本物の人間かわからない。何度も何度も同じ人物とすれ違ているからヤナギダイベントに巻き込まれていると見るのが筋なのだろうが、老人のほうもいささか戸惑いの表情を浮かべているので老人のほうでもヤナギダイベントに巻き込まれて困ているといた風なのかもしれない。一応道を堂々巡りしているわけでもないので今日の計画に支障を来すようなものではないのが幸いだ。
 リン、と風鈴のような清々しい音が聞こえたかと思うと、あたりは夕暮れの情景に変わている。
「ばんかだからまつりでもやんだがの」
 確かにどこからともなく祭囃子が聞こえてきているようだ。
 私は呆けたように同じく呆けたような老人と肩を並べて道端に腰を掛けていた。
「銀河鉄道は、来ますかね?」
 その言葉に老人はいささか動じた様子であたが、彼の動きは私が呪符を取り出す所作よりも早かた。
 老人の持たこけしについた赤色は、私の血の色だろうか。

 我々呪禁官がヤナギダイベントに対抗できる所以は、ヤナギダイベントが超常的なものでありそれは古代より連綿と続く呪術の類と深いかかわりにあるという説、もしくはヤナギダイベントはあくまで人の脳に関係する産物でありある種のプラセボ的側面の強い呪術や催眠とは深いかかわりがあるという二説がある。しかしながら私にはその理由がどちらであり実用的効果にはあまり影響がないように感じられるので、あまり気にかけてはいない。しかしながら、広報官や他部署との会議での資料作成などに追われる中でそれなりに詳しくなてはいるのはこの世のしがなさである。
 今回予測された大規模ヤナギダイベントでは一定数の拝み屋崩れの存在が指摘されている。拝み屋崩れは過去にもいくらかの厄介なヤナギダイベントを引き起こしてきたが今回は観測から大規模と予測されることと相当数の拝み屋崩れの関与が疑われているため朝廷の警戒も一段と高い。対抗できるだけに感応レベルも高く死の危険も高い呪禁官たちをわざわざ東北に派遣するという消耗戦に近いやり方をしているのもそのためである。

「ワラシ様はまもなく」
「左様、まもなく」
「空より幸福をもたらす」
「星より富をもたらす」
「銀河より」
「鉄道に乗て」
「参られる」
「おいでになる」

 猿と蟹が入り混じたような生き物が祝詞をあげている。彼らは自らの事をカムパネルラと名乗た。ヤナギダエフクトの効果が濃くなているのかイベントは徐々に現実を侵食しはじめ、境界の曖昧性が高まている。拝み屋崩れたちがどうやてヤナギダイベントを制御しているかはわからないがその目論見は今のところ成功しているらしかた。
 拝み屋崩れたちの狙い。
 それは銀河鉄道というヤナギダエフクトを利用して、星のワラシ様という宇宙存在を外区に呼び出すというものらしかた。ワラシ様は富と幸福をその地域にもたらす。外区の復権、それが拝み屋崩れの狙いだとされているがそれだけだとは思えない。おそらくは
「ためすてみたがただげだ」
 先ほどの老人が横で笑ている。

「ワラシ様にお菓子を差し上げねば」
「ワラシ様におもちを差し上げねば」
「なにがよろしいか」
「なにがよろしいか」

 汽笛の音が遠くで聞こえたような気がした。
「こごさジバンニがおぞ」という声にカムパネルラ達が一斉に振り向く。
 嫌な予感がした。
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