肉小説
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投稿時刻 : 2017.01.15 17:16
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食神
ゆきな(根木珠)


 リタは今年、13歳になる。そのためこのムラではある儀式を行う。〈恵みを運ぶ者〉を見かけたらそれを捕まえ、その首を供犠として神にささげ、肉は食す。ムラのにんげんが踊りくるい、その年の収穫に感謝し、翌年の豊作を願うのであるが、13歳になる男は通過儀礼として、この「旅行者を捕まえる」ということを課せられる。ヤカはリタのもとへ行くと、緊張しているか、と尋ねる。するとリタは首を振る。そしてじと前を見据える。そこは麦などの穀物を栽培している畑であた。ヤカはリタより少し背の小さい女の子だた。見守るよりほかはない。
 しばらくして、旅行者が通りかかた。ムラでいうところの〈恵みを運ぶ者〉である。この遠方から来た旅行者はムラの習慣を知らない。そこへ来て、植物の陰から襲われるのでひとたまりもない。リタはすばやく〈恵みを運ぶ者〉を捕らえると、息の根を止め、獲物をイエに持ち帰るとさそく首を狩た。供犠にするための準備だ。体をばらし、肉をある程度の大きさに切る。ばらしかたは幼い頃から、小動物を使て教えられる。少しずつ大きい動物になれていく。それを見ていたリタの父が「上手だ」と褒めた。リタは喜ぶ。その日の夜、儀式が行われた。ムラの酋長を含む全員が集た。ヤカはその儀式で神の依り代となた。はじめは感謝の意を表明する言葉を述べる。太鼓の音が響く。みなが踊る。夜の闇に松明だけが明るい。その灯りのもとでヤカは次に祈りの言葉を述べる。太鼓の音。踊る声。松明の灯り。すると神が、神の御霊がヤカに憑依する。ヤカの表情が豹変し、声音も変わる。ささげられた供犠、ひとの首と肉を喰らう。それを見て、つまり神が食うのを見てはじめてムラのにんげんは肉を食うのだた。神とともに食べ、祝う。酒を飲む。そうしてこの儀式は終わた。
 数年後、リタとヤカは男の子を授かた。ヘカチと名付けた。ヤカがヘカチを見て「ほぺた、やわらかい」というとリタは「うまそうだ」と言う。そして冗談だよ、とすぐにつけたす。じあ、と言てリタは狩りに出かける。猪や鹿、牛や兎を手製の弓矢で射る。それを持て帰ろうとしたとき、ふと振り返ると、見たことのないにんげんがいた。ムラの者ではない。そしてなにかを持てこちらに向けているのを見て、リタは相手に敵意のあるのを感じた。すぐに応援を呼ぼうとし、大きな声を出そうとしたその時、パン、という聞きなれない音がした。

 私が首狩り族に興味を持たというので、友人がこんな話を聞かせてくれた。その部族はもう存在しないが、あのとき、あのムラの勇者を銃で撃たのは、友人の曽祖父だたという。ムラのにんげんに襲われた旅行者というのは、曽祖父の同僚だた。曽祖父はその仇討ちを生きがいにしていたのだ。そう友人は語た。友人の曽祖父は、首狩り族という野蛮な部族がいるということを知り合いに言てまわていた。衝撃的なこの噂はたちまち広がた。曽祖父はしかし、仇討ちをしたのち、部族のものに襲われ命を落とすことになたらしい、と友人はしめくくた。私はすぐには言葉が出てこなかた。私はそして、このメモ書きを、したためることにした。
「それでも」
 と友人が口を開いた。
「彼らは私の曽祖父を殺した。それでも、彼らの習慣を尊重しろと言えるの」
 私はなにも言い返せなかた。

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