てきすとぽい
X
(Twitter)
で
ログイン
X
で
シェア
第37回 てきすとぽい杯〈てきすとぽい始動5周年記念〉
〔
1
〕
…
〔
13
〕
〔
14
〕
«
〔 作品15 〕
帰還型発振回路を覗く
(
ポキール尻ピッタン
)
投稿時刻 : 2017.02.19 00:30
字数 : 1400
〔集計対象外〕
1
2
3
4
5
投票しない
感想:1
ログインして投票
帰還型発振回路を覗く
ポキール尻ピッタン
ヘリコプター
からカメラマンが興奮気味に駆け下りてきた。デジカメを掲げ液晶を指差し、集ま
っ
ていた研究チー
ムに差し出すと、ほどなくしてキ
ャ
ンプ地は歓声に包まれた。
液晶の中で、ある者は弓を構え、ある者は呆然と立ち尽くしていた。それはアマゾン川流域でのおよそ10年ぶりになる、新たな未接触部族の発見だ
っ
た。
チー
ムの代表者であるモー
ガン教授は武装したセキ
ュ
ルテ
ィ
ー
会社の3名のほかチー
ムから選りすぐ
っ
た7名の、計10名で5日後に接触を試みることを決断した。
これまで他の部族に遭遇したことなど一度もなか
っ
た。酋長は子供の頃に会
っ
たことがあると話していたが、哨戒に出ていたメムが連れてきた男たちの格好はその話とは異なり顔が白く奇妙な布を纏
っ
ていた。
まだ若いメムは顔を強張らせて俺に意見を求めた。
白い男たちは敵意がないと主張しているつもりなのか、両手を挙げて歯を見せていた。弓や槍を持
っ
ていないことは明らかだ
っ
たので、取り急ぎ酋長の元へ案内することにした。
言葉が通じない白い男たちは大袈裟な身振り手振りで対話していた。そして景色を切り取る石や声を大きくする石を見せた。酋長や俺も彼らの意図よりも持
っ
ている不可思議な石に興味があ
っ
た。袋に入
っ
た食べものだけは動物が腐敗したもののようで受け付けられなか
っ
たが。
友好的に進んだ会談は女たちが水を汲みに戻
っ
てくる時間ぐらいで終わ
っ
た。
白い顔の男たちは最後に酋長へ声を大きくする石を渡した。どうやら貢物だ
っ
たらしく、使い方を教わ
っ
ている酋長は威厳を作り続けることを諦め笑顔を見せていた。
その日を境に部族の習慣は著しく変化した。狩りの指示は人伝に行われていたのに酋長は声を大きくする石を使い始めた。
樹木だ
っ
て幹から枝へと順々と栄養を届けるのに、酋長は思いついたら指示を送り始めた。聞き漏らした住民も多く、生活は次第に混乱し始めた。
いままでの方法に戻して欲しい、せめて決ま
っ
た時間に指示をくれと住民の不満は溜ま
っ
てい
っ
た。しかし白い顔の男たちへの劣等感か、我々もあいつらに追いつかなくてはならないと酋長は住民の懇願を他所に、変わらず石を使い続けた。
『
……
では、次のニ
ュ
ー
スをお伝えします。ジ
ェ
ー
ムスタウンの居留地では、イギリスの
……
』
テレビから流れるチ
ャ
ンネル8のニ
ュ
ー
スは、庭に入
っ
てきたエンジン音で掻き消された。
「あなた、ジ
ョ
ンが迎えに来たみたいですよ」
コー
ヒー
を皿に戻しモー
ガンは静かに頷いた。
研究所を辞めて3年。何度も同じ話をしているのに不思議と依頼が続き、こうしてときどき講演へ向かう。まるで思い出したように古いレコー
ドを聴きたくなる自分みたいだなと苦笑した。
「今日はどちらなんですか?」
「スミソニアンの自然史博物館だよ。恐竜に囲まれて人類学の講演さ」
息子からの控えめなクラクシ
ョ
ンに出発を促され、モー
ガンは上着を羽織
っ
た。
「じ
ゃ
あ、行
っ
てくる」
「行
っ
てら
っ
し
ゃ
い」
車が街道へ入るまで眺めていた妻は、窓を閉め流行曲をハミングしながらトレイに食器を重ねた。
『臨時ニ
ュ
ー
スをお伝えします。アマゾンの未接触部族を調査していたスミソニアン博物館の研究チー
ムは、15年前に発見された部族が全滅していると発表しました。遺骨に損傷が多数あることから、内部紛争の果てに分裂し、生き残
っ
た住民は他の部族と合流したと思われます』
どこかで発信されたニ
ュ
ー
スは今日も誰かに伝わるのを待
っ
ている。
←
前の作品へ
次の作品へ →
1
2
3
4
5
投票しない
感想:1
ログインして投票