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第37回 てきすとぽい杯〈てきすとぽい始動5周年記念〉
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魔女の弟
 投稿時刻 : 2017.02.18 23:46 最終更新 : 2017.02.18 23:50
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- 2017.02.18 23:50:03
- 2017.02.18 23:46:06
魔女の弟
永坂暖日


 その島は巨大な河の真ん中にあた。島の外に出るには、船を使うしかない。異界から迷い込んだ魔獣をも倒す魔女達でさえ、島と対岸に橋を渡すことはできないのだ。河はあまりに大きく、対岸は遠すぎた。
 島の外へ行く唯一の手段。そんな船上では、いかなるもめ事も起こしてはならない。それが絶対の決まりであた。
 たとえ、同じ船に、逃亡者とその追跡者が乗り合わせても。
 船尾に座るユノトークは、剣を抱きかかえたまま、船首にいる男から一時も目を離さなかた。島の逃げだそうとするあの男に追いついたのは、船が出港した直後だた。岸壁を離れた船に飛び乗り、ユノトークは船内にいた男を見つけ、剣の柄に手をかけた。
 乗客や船員に取り押さえられたのは、ユノトークの方だた。男がどんな罪を犯したのか告げ、ユノトークは自分が追跡者であることを告げた。しかし、ここは船上。どんなもめ事も起こしてはならない場所だ。昔からの慣習通り、男は船首に移され、ユノトークは船尾に陣取た。
 船が対岸に着くと、男が先に降ろされる。ユノトークはその後だ。船を下りれば、再び逃亡者と追跡者の関係に戻る。本当は島にいる間に捕まえたかたが、仕方がない。船を下りたらすぐに男を捕まえてやる。ユノトークは、そのため片時も男から目を離さなかた。

    ●

 その島に住む魔女達は年に一度、島の奥深くにある魔女達の集会場に集うのが習わしだた。はるか昔、島の主が巨大な水竜であた頃は、魔女は竜と人の間を取り持つ役目を担い、水竜と交渉するために集ていた。水竜が人間に倒されてからは、水竜がいなくなたことにより生じた歪みを修復しながら島の崩壊をくい止め、一年に一度の集いの場で、互いの近況を報告し合うようになた。
 魔女達の懸命な修復にも関わらず、歪みは少しずつ島を浸蝕し、崩壊した部分から異界の風が吹き込んで、歪みをさらに大きくしていた。
 水竜のような強大な魔力を持つ存在が再び島の主とならねば、近い将来の消滅は避けられない。そう覚悟していた魔女達は、ある年の集いで、新たな主になり得る存在が生まれたことを知らされた。
 それは、島でもとも長生きした魔女の娘だた。魔女の力は、血縁の女に引き継がれ、引き継がれた女の中で育ていく。最長老の魔女の娘は、母親の死と共にその力を受け継ぎ、魔女の力は娘の中で急激に成長していた。数年後の集いで、娘は、島中の魔女にもとも主にふさわしい魔女と認められ、密かに、島の主となた。島の主を名乗る人間はいたが、歪みを修復し崩壊を食い止めることのできる真の主と言えるのは、その娘だけであた。
 歪みは消え島の崩壊は止まり、異界から吹き込む風はやんだ。水竜が生きていたとき以来の平穏な時代が再び訪れたのである。どうしてそんな時代が訪れたのか、知るのは魔女達のみであた。人に知られれば、きとまた水竜のように倒されると思たから。
 それから十年後の集いで、魔女達は島の主となた魔女が懐妊したことを知た。生まれるのが女であれば、それは新たな島の主となる可能性があり、島の平穏が続くことを意味する。魔女達は祝福した。
 しかしその一年後の集いの場に、島の主である魔女は現れなかた。子供が生まれ、それは女であたという知らせは魔女達に届いていたが、集いを欠席するという知らせは届かなかた。
 子供が生まれたばかりで無理ができないのであろうと魔女達が言い合ていたところに、使い魔の鳥がやてきて、臨時の知らせをお伝えする、と言た。使い魔は、欠席した魔女のものではなく、その弟のものだた。
 島の主である魔女は殺され、生まれたばかりの娘がさらわれた。下手人は魔女の娘の父親で、魔女の弟は今それを追ているということだた。

    ●

 対岸が見えてきた。もうすぐ、男が――一時は義兄と呼んだあの男が、先に船を下りる。男の腕の中には、生まれたばかりの姪がいた。
 男がなぜ姉を殺したのか、生まれたばかりの娘を連れてなぜ島の外へ向かうのか、その理由を、すべて吐かせてやる。死ねばよかた、と思うほどの苦痛を与えながら。
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