てきすとぽい
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第37回 てきすとぽい杯〈てきすとぽい始動5周年記念〉
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昔話を見ましょう
(
犬子蓮木
)
投稿時刻 : 2017.02.18 23:29
字数 : 1395
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昔話を見ましょう
犬子蓮木
昔、昔、ヒトはみんな死んでしま
っ
た。
植物が廃墟を覆いはじめ、動物と残されたロボ
ッ
トたちの世界ができた。
雄のライオンが、ストリー
トを走る。その先にはシマウマが。これは、もう追いつけないだろう。今回の狩りは残念ながら失敗だ。ライオンは徐々にスピー
ドを落とし、偶然歩いていたロボ
ッ
トをわずかに追い抜いたところで止ま
っ
た。振り返
っ
てロボ
ッ
トの顔を伺う。
「やあ、こんにちは」
ロボ
ッ
トはライオンに挨拶をした。返事はガウ
ッ
というものだ
っ
た。動物たちはロボ
ッ
トが食べられないものだと知
っ
ている。ロボ
ッ
トたちは動物に危害を加えない。ゆえに、争いが発生しない。
どうしてヒトが死んでしま
っ
たのか、それを知ろうとするものはもうこの世界にはいない。ただ、事象としての結果があるだけだ
っ
た。悲しんだペ
ッ
トたちもいただろうが、そうい
っ
たものたちももう寿命を迎えて死んでしま
っ
た。
ヒトが生きていたのはず
っ
と昔のこと。
「臨時ニ
ュ
ー
スをお伝えします! 臨時ニ
ュ
ー
スをお伝えします! 臨時ニ
ュ
ー
スをお伝えします!」
九官鳥が叫びながら低空を飛んできた。ロボ
ッ
トの肩に止まる。ライオンは一瞬、狩ることを考えるがすぐに無駄だろう、と諦める。
「なにかあ
っ
たのかな?」ロボ
ッ
トが問いかける。
「フ
ォ
ー
スを信じるのだ」九官鳥は答えた。
会話にならない。それはまあ、当然のことだ。九官鳥がなにかニ
ュ
ー
スを持
っ
ているわけではないし、考えているわけでもない。人間の言葉をそのまま話しているだけだ。ず
っ
と昔、どこかの九官鳥かなにかがヒトに言葉だけを教わ
っ
た。そして、その言葉を別の鳥が覚え、ず
っ
と受け継がれてきただけなのだ。
ライオンは振り返り、ビルの影へと消えてい
っ
た。
九官鳥は「ねー
こー
なー
の!」と言
っ
てから飛び去
っ
た。
ロボ
ッ
トは、また歩きだす。
意味を持
っ
ているわけではない。ただそう作られているから歩いている。このロボ
ッ
トは人間が作
っ
たものではなか
っ
た。ロボ
ッ
トが作
っ
たロボ
ッ
トだ
っ
た。九官鳥と同じく、考えがあるわけではない。
与えられた命令に従
っ
ている。
与えたものも与える意味を考えていなか
っ
ただろう命令に。
「旅に出よう」
街角のスピー
カが言
っ
た。どこかのロボ
ッ
トがメンテナンスをしているのだろう。だからまだ壊れかけで、動いている。
地球は回
っ
ている。
月も動いている。
ロボ
ッ
トは歩いている。
九官鳥は飛んで、ライオンは走
っ
て、シマウマは逃げて、ヒトは動かない。
太陽が沈んだ。
街に灯りが灯る。
火ではない。温度の低い灯り。その三文字の名前を呼ぶものはいない。
作
っ
たものはなんだ
っ
たのか。
ロボ
ッ
トたちは知
っ
ている。
知識だけ、記憶媒体に持
っ
ている。
ネ
ッ
トワー
クからも引き出せる。
でも誰もそれをしようとはしない。
ロボ
ッ
トは転んでしま
っ
た。ゆ
っ
くりと起き上が
っ
た。夜の街を歩いて行く。桜が咲いていた。満開だ。これもロボ
ッ
トのメンテナンスのおかげだ。けれど、見ているヒトはいない。
子猫が追いかけ
っ
こをしているのが見えた。
すぐ影に消えてしま
っ
た。
僕はどこへ向か
っ
ているのか。
なにを映しているのか。
なんのために映しているのか。
誰か教えてほしいという叫び声を出すための機能を持
っ
ていない無人撮影機である僕はただ世界を映し続けていつか誰かに見てほしいと願
っ
ているのだけれどこれを見てくれるヒトはもうどこにもいなくて悲しくてさみしくて地面に墜落した僕は子猫のおもち
ゃ
にな
っ
た。 <了>
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