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「超ドベタ恋愛ストーリー」
窓からくる暖かい日の中に、君がいたという事だけ覚えている。
ピ
ッ、ピッ、ピッ。
時計のアラーム音とよくわからない夢が、まだ頭の中を駆け巡っている。それも、次の電車を知らせる車掌の名に甲高いサインと、それを待つ乗客達の声によってかき消された。
眠い。
スマートフォンのロックを解除すれば現れし、「月曜日」の表記。
目にすることはできないけれど、確実にメガネのフレームと同化している目のくま。
暇つぶしに開いた動画サイトの広告。
全てにイライラが存在する。
若干の意識の剥離を感じつつ鑑賞を続けていると、linoアプリが鳴った。その「ひょこん」という音すら、今の僕は憎悪の対象として受け取ってしまう。
なんだ?
「後ろを向け」
仕方ない。要望通り後ろを向こうではないか。まあ、これが友達でもない奴なら華麗にスルーを決めていただろうが……
って思ってたら、僕は唇を奪われたわけだ。2 / 4
「おはよ」
「おはよ、じゃねえよ。なんなのいきなり。皆見てるし。腕を絡めるな」
「いいじゃーん恋人なんだから」
「親しい中にも礼儀ありってことわざ……ああ、お前なら知らんわな」
「ひどくない? 泣くよ?」
まあ、恋人はスルーできないよな。
取りあえず身体と身体を引き剥がしたら、スマホの電源を切った。
「昨日も散々言ったけどさ、その、家でならいくらでもするから、外ではするな。ほら、電車乗るぞ」
「ちぇー」
手を握りしめて、彼女を席へ連れた。バッグを膝に置いたら、僕も隣へ腰かけた。
「……手は握ってくれるんだ」
「そりゃ、な」
彼女がじろじろ僕の顔を見ている。可愛い。けどまあ、恥ずかしくて言えない。それにしてもずっと見続けてくる。
「やっぱりさ、眼鏡。無い方がいいよ。」
また、キスをされた。
「……伊達ならな」
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「おはよう」
机と机の間を縫って自席にたどり着く前に、僕よりも前の席にいる友達が話しかけてきた。
「なあなあ」
僕は取りあえずカバンをかけ、椅子に座って友達と対話を始めた。
「なにさ」
「今日さ、噂の転校生来るらしいぜ」
随分と話が早すぎてついていけない所はあるが、細かく事情を聞くことにした。
「この前学校やめた奴いたじゃん、入れ代わりとして、なんと」
なんと?
「女の子が来ることになりました!」
突如として周りからザッと音が鳴る。見ると、男子共が立ち上がっていた。不細工な顔には少しの涙が窺える。
「元々男子校のここに、少しでも多くの女子がやってくることこれすなわち、神の祝福成り!」
「可愛い子だったら、俺付き合いたいな!」
「可愛い子ならいっしょにお話しできるだけでも最高だ!」
「可愛い子がいいなァ!」
限定要素強すぎるだろ。
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男子どもが騒いでいると、丸時計が八時を指して鳴る。それと同時に教師も入ってきて、男は着席を余儀なくされた。
教師が教壇に書類等を置くと、早速例の話題について触れた。
「もう聞いている奴もいると思うけれど、今日転校生が来ます」
クラスがざわつく。もちろんその中の一割が女子九割が男子だ。
「先生ッ! その子は……女の子ですか!?」
「そだよー」
「よっしゃあああ!」
男子は興奮と歓声が混ざり合って、もう収拾は着かなさそうだ。
「んじゃー、もう会ってもらうのが早いから、どうぞ」
シューズの音に、ちょっとずつフェードがかかる。いよいよその音が消えたとき、目の前にいたのはどこか見覚えのある女の子だった。
「始めまして。転校してきました、よろしくお願いします」
さらっさらの髪の毛、いい感じのボディライン、そして可愛い。男子にとってはこれ以上ないほどの完成度。
だけれど、やっぱりどこかで……
「あ」
すると女の子は、僕ににこっと笑い小さく手を振った。やっぱり何処かで会った……も、し、や。
瞬時に記憶が脳内に流れ込んでくる。
ああそうだ。
幼い頃、僕が、その、前住んでた所の、近所の、僕が、好きだった、好きだった、好きだった。
好きだった!?
あーどうしよう。もう男子共に顔向けできない。いや、それ以前に、クラスにいる彼女に顔向けできない。朝キスもしたのに。
だけど、目の前の幼馴染に動機が収まらない。どうしよう。
朝の夢の内容と、時計の音が頭の中に鳴る。
ピッ、ピッ、ピッ。
鳴る時計と僕の彼女と、僕の眼前に映る彼女が互い違いに映し出され、僕の脳はゲシュタルト崩壊した。
若干のワクワクで。なんか恋愛バトル起きそうじゃん! 男共悪い、俺は一足先に恋を楽しむよ!
アデュー!