第39回 てきすとぽい杯
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詩人は北にいる
投稿時刻 : 2017.06.17 16:13
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詩人は北にいる
ポキール尻ピッタン


 確か5000年くらい前だたと思う。
 おれの身体に住み着いている細菌どもが詩と呼ばれる表現を生み出した。
 あいつらは長い間、自分と他者の区別がつかなかた。当たり前のように共存し、集団は自分の意識の延長上に存在していた。
 ところがある日、あいつらの身体に変化が現れた。種を存続させていくために集団の中から自分以外の個体を選択しなければならない構造となた。それはあいつらにとて、自分と他者の違いを意識する初めての感覚だた。
 違いに違和感を覚え、争いを始めた。誰かが記号を生み出すまで、意思の疎通は困難を極めた。
 あいつらが生み出した詩とはとどのつまり治療の記録だ。違いをかたちにして、後に続く者へ違和感を持たせないよう処方されたものだ。だからあいつらが違いに快楽を感じ始めたとき、おれは本当に驚いた。

 おれの身体は生まれたときからバランスが崩れている。真直ぐに立つことができず、常にフラフラしている。
 そのせいで季節と呼ばれる違いがあいつらに認識された。
 冬から春への変化は生命のサイクルの始まりと終わりを連想させたらしい。
 あいつらの誰かが言た。
「詩人は北にいる」
 違いを表す様々な記号は冬の終わりから生まれたらしい。そんな感情をもたらした存在は、あいつらにとて北からやてくるらしい。

 おれの崩れたバランスは徐々に治てきている。1万2千年後には赤道傾斜角は22度に減る。それはいつか季節がなくなるということだ。
 遙か先の未来、あいつらがまだ存在しているか分からないが、違いを楽しんでくれるのだろうか。
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