てきすとぽい
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第39回 てきすとぽい杯
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夢みるくらげ
(
おかゆまくらげ
)
投稿時刻 : 2017.06.17 16:00
字数 : 1690
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夢みるくらげ
おかゆまくらげ
ふよふよ、くらげさんが真
っ
暗に馴染んできた目に飛び込んでくる。
あたしはそれを、ついに自分はおかしくな
っ
たんだ
っ
て思
っ
た。
だ
っ
てそうでし
ょ
?
この間まで、まるで砂漠に埋もれた世界で灼熱の炎に身を灼かれていたのだから、とうとう自分もそんなことにな
っ
てしま
っ
たか、などと、あたしは目の前のに
っ
こり顔のくらげさんに手を振る。
くらげさんは、私の手の動きに答えるかのように、細長い足を持ち上げて、やあ。
あたしも手をあげて、やあ。
そんなやりとりが何度か続いた後、あたしは沈黙して壊れかけた身体をベ
ッ
ドから放り投げて、気づけば宙にぼんやり浮かんで、くらげさんとダンス。
もうひとりのあたしと、本当のあたしが、交互に出入りして、気づいたらあたしはあたしじ
ゃ
ない感じ。
くらげさんは記憶のどこかにいたのかもしれない。
だけど、今まで見ないふりをしてきたのだ
っ
て、よくわか
っ
た。
だ
っ
て、今何本もの足であたしたちと手をつなぐ
っ
て。
それ
っ
て、バラバラにな
っ
たあたしたちをひとつなぎにするカケラ。
忘れてしま
っ
た昔の思い出。
怖か
っ
たこと。
嫌だ
っ
たこと。
悲しか
っ
たこと。
辛か
っ
たこと。
あたしのあたしは全部忘れてしま
っ
た。あたしのあたしのあたしは、怖い気持ちだけ残
っ
ている。あたしのあたしのあたしのあたしは、悲しい気持ち。あたしのあたしのあたしのあたしのあたしは、辛い気持ち。
じ
ゃ
あ、とうのあたしは?
き
っ
と都合のいいことだけ覚えているんだ
っ
て。
くらげさんと手をつないだときによくわか
っ
たの。
手と粘着質でし
っ
とりと湿
っ
た足が合わさ
っ
たとき、あたしの頭の中にいろんな景色が浮かび上が
っ
てきた。
それは、昔知
っ
ていて、だけど今は覚えてなくて、明日にはまた思い出せなくな
っ
ている。
そんな灰色とノイズの入れ混じ
っ
た世界。
くらげさんの足の数と、あたしたちの両手の数を一緒だ
っ
た。
あたしがあたしであるための真ん中の”記憶”。
それをつないでいるのがくらげさんなんだ
っ
て、よくわか
っ
た。
だけど、よくわか
っ
たけど、じ
ゃ
ああたしたちはどうしたらいいの?
記憶を取り戻して、あたしたちはあたしたちになればいいの?
だけど。
くらげさんは、あたしが思い出そうとしているのに気づいて、そ
っ
と手を離すんだ。
もうち
ょ
っ
とだ
っ
たのに。
あたしは唇をとがらせる。
くらげさんは、やんわりと胴体を振
っ
て、そうじ
ゃ
ないと笑う。
僕は、君たちが自分たちを失わないでいるための、ク
ッ
シ
ョ
ンなんだよ
っ
て。
あたしは、その言葉の意味がわからなくて、首をかしげち
ゃ
っ
た。
だ
っ
て、あたしたちはあたしたちで生きている。それがバラバラにな
っ
ち
ゃ
うなんて、考えもしなか
っ
たもの。
だけど、くらげさんはそ
っ
と他のあたしたちを引き寄せて、こう言うんだ。
こうや
っ
て引き寄せると優しくなるだろう
っ
て。
だけど、あたしだけ仲間はずれ。
嬉しそうにくらげさんに抱かれているあたしたちを眺めて、あたしはち
ょ
っ
と寂しそうな顔をしたかも。
その代わりに。
あたしのあたしがそ
っ
とあたしの手をつないでくれる。
それじ
ゃ
、あたしも
っ
て。
あたしのあたしのあたしがあたしの手を握
っ
てくれる。
ぎ
ゅ
っ
てしてあげる。
あたしのあたしのあたしのあたしのあたしがあたしの胸の中に顔を埋める。
じ
ゃ
あ、くらげさんは?
くらげさんはに
っ
こり笑
っ
て言うの。
こんなにたくさんのぬくもりがあるのに、君は僕が欲しいのかい
っ
て。
少しだけあたしは考えて、それから同じようにに
っ
こり笑う。
いらない。
そうだろう? 君に僕がいなくた
っ
て、みんながいる。怖がる必要はないんだよ。さあ、みんなで踊ろう。君が君であるために。
あたしは、は
っ
と目を覚まして周囲を見回す。
空に浮かんでいたくらげさんも、あたしのあたしも、あたしのあたしのあたしも、あたしのあたしのあたしのあたしも、あたしのあたしのあたしのあたしのあたしも。
みんないなくな
っ
ち
ゃ
っ
た。
だけどね。
あたしはさみしくなか
っ
た。
あたしじ
ゃ
ない誰かがあたしを抱きしめてくれる。
そう思
っ
たら、くらげさんも、あたしのあたしたちも今はどうだ
っ
ていい気持ちにな
っ
た。
そうや
っ
て、あたしはまた眠りに落ちる。
夢みるくらげはあたしたちの中にある。
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