てきすとぽい
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第39回 てきすとぽい杯
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エモーション
(
うらべぇすけ
)
投稿時刻 : 2017.06.17 16:04
字数 : 1137
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エモーション
うらべぇすけ
僕は人間じ
ゃ
ない。
そう思
っ
たのはいつの頃だろう。小学生の頃? 中学生の頃? それとも社会人にな
っ
てから
いや、もしかしすると、生まれてからず
っ
とそうだ
っ
たのかもしれない。
僕は時折、自分を自分で動かせないことがあるのを知
っ
ていた。
それは怒
っ
ているとき。
それは悲しんでいるとき。
それは喜んでいるとき。
僕はいつでも、自分を見失
っ
て、しなければいいことをしてしまうんだ。
これ
っ
て、僕が本当は人間じ
ゃ
ない
っ
て証拠だろ?
だから、僕は僕を捨てることにした。
僕の捨て方は簡単だ。
ここに厚手の業務用の輪ゴムがある。それを、頸動脈をしめるように、頸に何重にも巻きつける。痛いよりも苦しい方がよ
っ
ぱどましだから、僕は刃物を選ばない。
鈍重な耳鳴りと頭の奥にちらつく“内なる重さ”が鳴り響いて、ぐわんぐわん僕を攻撃する。
そうして気づけば、僕は自分を失
っ
ているはずなんだ。
だけど、そうはならなか
っ
た。
気絶するわけでもなく、窒息の苦しみで悶えることもなく、僕はただ布団の上に横にな
っ
て、その“死”の訪れる甘美な誘いを楽しんでいるだけだ
っ
たことに、今更気づく。
そして、もうひとつ気づいたこと。
それは。
僕は、“自分を捨て去る”という心に操られて、こうな
っ
てしま
っ
たということ。
結局、僕は僕を捨てられないでいるんだ。
人間というものは、感情の擬人化だ。
自分の猛烈な感情の前に、僕らは僕らを見失
っ
て、そうして感情に人格をもたせてしまう。知らず識らずのうちに。
僕らは、感情に乗
っ
取られて自制のきかない魔物を心に宿している。そして、その魔物はいつでも口を開いて、僕らを見ているんだ。
“お前の心を蝕んでやる”、と。
僕らには、その魔物が見えない。だけど、見えたときには、僕らは僕らではなくな
っ
ている。ただの醜い生き物。
化け物。
こうもいうことができるんじ
ゃ
ないだろうか。
僕らは、化け物が本当の僕らであ
っ
て、今こうや
っ
て理知的に話している“つもり”にな
っ
ている僕らは、ただの皮。いつでも使い捨てられる洋服だ。
そう。
僕らは、化け物が洋服を着て、破り捨てる瞬間を心待ちにしている。洋服だから、いくらでも“僕ら”は再形成可能だ。
なんだ
っ
たら、いくらだ
っ
て別人になり済ませる。
豪華絢爛なシ
ョ
ー
ドレス。
質素で勤勉なくすんだスー
ツ。
華やかに美しいワンピー
ス。
ほら、今の君だ
っ
てそうだろ? 今、君はなんの洋服を身にまと
っ
ているんだい?
僕は、人間を信じない。
簡単に脱ぎ捨てられる“擬人化”の洋服は、僕にだ
っ
て着ることができるのだから。
だけど、同時に化け物のいうことは信じるだろう。
どんな悪態だろうと、どんなに汚らしく罵られようと。
なぜなら。
僕は、人間じ
ゃ
ないんだから。
僕は化け物。
化け物の子。
化け物同士、仲良く生きよう。この腐りき
っ
た化け物の世界で。
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