Aさんと僕
7月20日
先生から言われて、夏休みの日記をかくことになりました。本当は僕、日記
ってきらい。書くことないんだもん。今年は暑い夏だってニュースで言ってたとか? それに最後の31日、何て書けばいいのか分からないから夏休みの日記は嫌なんだ。でも今年はお姉さんが最後の一日だけかわりにかいてくれるんだって、だからがんばる。
7月31日
やっぱり日記に書くことなんてない。毎日僕の目に入るのはナースとかヨボヨボの人とか点滴だけ。事件なんて何もない。でも綺麗なお姉さん(Aさんって呼ぶことにする。名前聞いたけど忘れちゃったから)が毎日来てくれるから最近は楽しいんだ。この日記もAさんのことばかり書いてる。Aさんは僕の手を握って話を聞いてくれる。だから僕ははりきって話を一杯したよ。特にクラスの担任が失敗した話なんて、Aさんに大ウケだ。
8月5日
Aさんの指に古い指輪が付いてることに今日、気がついた。ショック。結婚してるのかな。
悲しいから今日はこれでおしまい。今年はすごく寒い夏だから気持ちまで凹んじゃうよ。
日記もがんばって続けてみるけど、でも期待しないで。
8月15日
Aさんが泣いてた。
俺の担当が泣かしたんだ。俺、それをたまたま見てた。だから怒って暴れてやった。
いつもそうなんだ。急にかーっと頭が熱くなるともう何も分からなくなって暴れてしまう。薬を打たれてぼうっとする僕の手を握ってAさんはまた泣いていた。
「病気だから仕方ない」って泣いてた。僕は悲しくなりました。
8月16日
僕の病気は毎日少しずつ悪くなっているんだって。だからお薬を変えようって先生が言った。うまくいけば回復する。Aさんが手を握ってくれるから、俺も頑張れるよ。ただしばらく眠っちゃうらしいから、日記の続きをかけなくなります。Aさんにこの日記読まれたら恥ずかしいかも!
8月26日
思ったよりも長い眠りだった。
どれだけ眠っていたんだろう。一ヶ月? 三ヶ月? もっと?
眠る前、私は日記を付けていたらしい。
まだ読めるほど回復していないので、せめて目覚めた記念に一行だけ記す。今年の夏はひどく暑い。
8月28日
日記の最後の一日だけ、書けなくなるのは私の子供の頃からの癖だ。
夏休みが終わるのが寂しくて何も書けなくなったのだろう。
しかし今年……長い、数年にも及ぶ夏休みの日記だったが、今回は安心だ。
最後の一日は私の愛おしい妻、亜弓が代わりに書いてくれる。
8月31日
お帰り、あなた。