てきすとぽい
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第42回 てきすとぽい杯〈紅白小説合戦・白〉
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熱の間合い
(
小伏史央
)
投稿時刻 : 2017.12.09 23:59
字数 : 1315
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熱の間合い
小伏史央
濁
っ
た水たまりの底が透けて見えた。炎に照らされた地面がゆらゆらと揺れている。いまだ曇天ではあれど既に雨はやんでいた。雲に覆われた大地はまるで蒸し饅頭でも作
っ
ているかのように熱気に閉じ込められていた。
熱源はひとえに彼女だ
っ
た。
炎の魔女
――
。僕と対峙する、赤い髪の兵器。先の戦争で量産された魔女の生き残りだ
っ
た。
魔女の背中から大きく陽炎が見える。迂闊に近づくのは危険だ
っ
た。槍を向け腰を落とす。人の身長より長い槍であ
っ
ても、あと三歩は寄らないと届かない距離。縮まらない間合いのまま僕は魔女と向かい合
っ
ていた。
彼女にはまだ思考力が残
っ
ているらしい。いままで倒してきた魔女に比べ冷静に見えた。思考しない魔女なら見境なく攻撃をしかけてくる。しかし彼女は微動だにしないまま槍の切
っ
先を見つめていた。
熱せられた空気。汗が首筋を這う。このままでは埒が明かない。しかし緊張を解けばすかさず炎の毒牙にかかるだろう。
集中を切らせてはいけない。しかし足の筋肉を無理に強張らせてもいけない。いつでも動けるよう腰を低く保つ。
ふいに魔女の視線が動いた。槍の先端にあ
っ
たそれは、静かに僕の顔へと移動していく。今だ。
足を一歩押し出す。さらに一歩。一気に間合いを詰める。意外と熱気は変わらない。途端に目の前が真
っ
赤に染ま
っ
た。魔女の指先が光を集めている。足を踏み込んだち
ょ
うどその一瞬間だけは体勢を変えることができない。視線移動は僕に踏み込ませるためだ
っ
たのか。まんまと引
っ
かか
っ
てしま
っ
た。
ぬかるんだ地面に槍を突き刺し強引に突く。体重が肩に乗
っ
た。反動でそのまま転がり落ちるように地面に横になる。直後頭上を圧縮された炎の弾が通り過ぎてい
っ
た。ほどなくして後方で爆風が起こる。もろに受けていたら丸焦げになるところだ
っ
た。
第二弾が撃たれる前に立ち上がり彼女に駆け寄る。槍を拾う暇はない。懐から短剣を抜き出す。
魔女は他の魔女がそうするように僕から距離を取
っ
た。後退しながらも炎を放つ。跳ぶように横に避けた。即座の追撃はない。あの炎は連射が利かないのだ。
炎の魔女は接近戦に弱い。魔女討伐者の常識だ
っ
た。魔女は周囲に強い熱気を出し、敵が近づけないようにしている。裏を返せばその熱にさえ耐えることができれば魔女に防御する手段はない。普段のように安全な範囲から槍で立ち回りたいところだが、槍を拾う隙を見せるわけにはいかない。それに、先ほど間合いを詰めてもさほど熱気の強さが変わらなか
っ
た事実が、僕の気持ちを急かすのだ
っ
た。
魔女は再び指先に熱を集めている。今度こそ今だ。一気に駆け寄
っ
た。彼女が踏むたびに地面はからりと乾いていく。三度目の一射。ぎりぎりまで方向を見極め。斜め前へとかわし。短剣を魔女の首元へと差し向けた。
目の前がまた真
っ
赤にな
っ
た。
その後視界は冷えたマグマのように暗くな
っ
ていく。
目が干からびたのだと気付くまで時間がかか
っ
た。
魔女は僕にとどめを刺さなか
っ
た。間合いを詰めたとき彼女はわざと熱気を弱めたのだろうか。わざと近づけさせるために後退したのだろうか。真相はもう分からない。分からないが、もう少し頭脳的に立ち回れば良か
っ
たと冷めていく暗闇のなかで思うのだ
っ
た。
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