ひまわり
二人は眠りのなかにいて、母はこどもの夢を見る。我が子が笑顔で駆け寄
って、小さくやわらかな手を伸ばして母を呼ぶ。
――おかあさん、おかあさん。
その声に彼女はほころびる。太陽の下、草原の上を元気に走る躍動、まるで夏のひまわりのようなまぶしい笑顔。日射しの下で輝く姿を見て、母の心にもしあわせが訪れる。
雲間に射した月明かりで彼女はふと目覚め、それから夢を思い出して腹部へ手を当てる。
――私が夢を見ているとき、この子も夢を見るかしら?
こどもの夢がどんなものか、彼女は目を閉じて思い浮かべる。きっと光のなかに、ふわふわと浮かんでいる夢だろう。そう、もしかしたら、私たちの夢を見ているのかも。
けれど彼女はふと、気づく。そこに映る自分の姿には、顔は描かれない。父の顔も浮かんでこない。
――そうか、あなたはまだ何も知らないんだね。
彼女は少し寂しく思う。窓から射し込んでいた光はいささか陰る。
この世界を何も知らない子。いったいどんな夢を見るのだろう? 本当に光のなか? もしかしたら闇のなかに夢を見ている? それでも我が子に安らかな眠りを与えたい。私たちの大切なこどもだから。いったい他の誰がこの子を守るというの?
自分のなかに育つ命があたたかい夢に守られて、大きくなって、いつか元気にひまわりのように目覚め、花咲いて欲しい。日射しに負けないほど輝く、力強いひまわりのように……。
母はいつしか、取り戻された月明かりの下に眠っていく。
しあわせな夢を二つ、身体に宿して。