第5回 てきすとぽい杯〈平日開催〉
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地球は丸くなかった!
投稿時刻 : 2013.05.17 23:44
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地球は丸くなかった!
工藤伸一@ワサラー団


「地球は丸かた!」と言た宇宙飛行士の名前を調べようと思てネトで検索してみたら、実は「地球は青かた!」という宇宙飛行士ユーリイ・アレクセーエヴチ・ガガーリンの台詞を間違えて覚えていただけだた。とはいえ僕の他にも「地球は丸かた!」だと思い込んでいた人の書き込みを見つけたので、もしかすると本当に誰か有名人が使た言葉なのかもしれない。

 今の所それが誰なのか判明していないけれど、地球を中心にして他の天体が動いているとカトリク教会が信じていた「天動説」に逆らい、地球も他の星と等しく動いている天体のひとつに過ぎないとする「地動説」を唱えた天文学者ガリレオ・ガリレイが、教会によて裁かれた際に言い残したとされる「それでも地球は動いている!」と混同したのではないか、という回答が「Yahoo!知恵袋」にてなされている。

「言い残したとされる」という曖昧な書き方をしたのは、本当にガリレイがそういたのか議論があるらしいからだ。しかしこのセリフに関しても僕は記憶違いをしていて「それでも地球は回ている!」だと思い込んでいた。しかもネト上にはそのような記述も見られることから、そうするとこれもやはり影響力の強い誰かが使たフレーズなのではなかろうかと考えている。

 いずれにせよその言葉が発せられたという逸話からして疑われてしまているとなれば、どちの言葉が正確なのかと考えてみても無駄ということになる。それは冒頭の「地球は青かた!」にしても同じで、正しく訳すなら「青みがかていた」程度の表現だたとウキペデアには書かれている。のみならず「円光」なる言い方をされていたとする記述もあり、それが真実なのであれば「地球は丸かた!」と言ているも同然ということになるが、しかし残念ながらそこには「要出典」のツコミがなされているため、実際の所は分からない。

 そのような次第で「地球」がどのようなものであるかについて僕の記憶は当てにならないのだけれど、どうやらそれは僕だけではないことだけは確かであり、そのようにして考えてみると、そもそもガリレオやガガーリンが用いたとされる印象的な名言というのも、果たして本当に実在していたのか怪しんでみることもできるだろう。つまり当人や周囲の人間の記憶も信頼性に欠けるかもしれないということだ。

 そして何故そのような事態が引き起こされてしまうのかという段に至て奇妙に感じられるのは、われわれ人間もまた自分という個体を中心にして世界の方が勝手に動いているとする「他動説」とでも呼ぶべき感覚と、そうではなく自分自身もまた他の物質同様に動き続けるとする「自動説」の対立構造があるのではなかろうかという疑惑を拭えない事実である。本当にそのようなものがあるのか分からないのだから、それを事実と呼ぶのもおこがましいが、少なくとも僕自身はそれを事実であるかのように信じてしまているのだから、とりあえずそう表記するほかないのである。

 ここまでこうして編み出された文章の軌跡は、そんな覚束ない現実認識に寄て描かれているに過ぎないものだから、幾らどんなに「事実だ!」と主張してみたところで、あくまでもそれは僕の脳内にしか存在しない主観的な構想に過ぎない。などと自己分析できているからには、いちおう客観的な見方も出来ている可能性は否定できないが、このように観念的な発想は、深く広く思索の限りを尽くした哲学者でもない限り、強い説得力を持ちうることはできないため、早々に諦めた方が得策だろう。

 それでも地球は回ているのだから丸くて当然に思えるけれど、さきほど言たように人間もまた地球と同じようにして運動しているのであれば丸くなくてはいけなくなりそうにも思えてくるものの、やはりこれまた何の根拠もない空想であり、人体が総じて球体であるなんてことはありえない。しかしそれは動いていない状態を想定しているからそう言えるのであて、素早く動き続ける人体ならば、傍目から見てそれが球体に見えても何ら不思議ではない。

 そのようにしてまた振り出しに戻てみると、実は誰も言ていなかたかもしれない「地球は丸かた!」という言葉にもそうではない疑惑が浮上してくるのをどうしても禁じ得ないのだから困たことである。すなわち地球は高速で回転している限り球状に見えるものだけれど、もしそれを止めることが出来たなら、実際には四角いと考えることもできるのだ。ならば「地球は丸くなかた!」そして「地球は四角かた!」と言う者がいたとして、それを否定することは難しいのではなかろうかというような戯言を信じてみたくもなてくる。

 地球が四角いのなら人間が移動する際にその角の部分で落下してしまうような気もするけれど、地球には大きな重力があるから形状がどうであろうとそのようなことは起こらない。なおかつそれはルークキブのようにして複雑に絡み合う立方体が、地球を動かすのと同じ力の作用によてあらゆる現象を組み換えながら、正しい組み合わせを求めんとする強い意志に導かれて、万物を四角たらしめる行程の最中を漂う我ら人類もまた、四角いロボトのような無意識を併せ持つ地球の子供にすぎないのだた。なんて夢想をしながら今夜も、四角い朝に向けて、四角いベドで眠るのだた。(了)
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