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第5回 てきすとぽい杯〈平日開催〉
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僕の宝箱
 投稿時刻 : 2013.05.17 23:42
 字数 : 1418
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僕の宝箱
永坂暖日


 大切なものを箱にしまう子供だた。一つの箱に、一つの大切なもの。そうすると、お菓子の空き箱でもそれが宝箱となたんだ。
 ジスの王冠、道端で拾たパチンコ玉、校庭の砂の中に紛れるきらきらした透明な粒、表面がつるりとした黒い石、綺麗な赤色の葉ぱ等々……他愛もない、今にして思えばどうして大切だたのかも分からないようなものばかりだたけど、押し入れの奥深くに隠した宝箱が一つ増えるたびに数をかぞえて一人で喜んでいたよ。
 小学校の高学年になるまでその習慣は続いた。きと小学校を卒業して中学生になり、高校生になり、大学生になて大人になても、大切なものを箱に入れ続けると思てた。
 でも、大切なものをいつでも箱に入れられるわけではないと気付いたのは、小学五年生の三月。クラスメイトの美都姫ちんが、六年生になると同時に転校すると聞いた時だ。
 彼女のことが大好きで、学校や塾にいるどの女の子より大切で、どこにも行てほしくなかたけど、美都姫ちんを箱に入れられるわけがない。だから仕方なく、美都姫ちんとの思い出を――実際には空だけど――百円シプで買た鍵付きの箱に入れて、押し入れの奥にしかりとしまいこんだんだ。そうすれば、ずと美都姫ちんのことを忘れないと思てね。
 思い出も箱にしまうようになたのは、それからだね。どうしても忘れたくない、いつまでもその時と同じように覚えていたい思い出を鍵付きの箱に入れて、押し入れの奥に積み重ねていた。
 高校の一年生の頃までは、思い出の詰また箱もどんどん増えていたよ。急に増えなくなたのは、二年生になたくらいから。まあ、忘れたくない思い出ができるような出来事がほとんどなくなたんだ。その理由は、想像に任せるよ。
 大学に入てもしばらくは変わらない状態だた。大学入学と同時に一人暮らしを始めて、小さなワンルームには狭い押し入れが一つしかなかたから、むしろそれでよかたと思たよ。
 でも、やがて狭い押し入れじ事足りなくなるほど、また大切なものや思い出が増えていたんだ。
 ――美都姫に再会したから。
 嘘みたいな話だけど、大学で、勧誘されてなんとなく入たサークルに、彼女がいたんだ。
 美都姫は最初、僕のことを覚えていなかた。でも僕は、忘れてなんかいなかた。箱に、彼女の思い出を大切にしまていたから。
 美都姫もすぐに僕のことを思い出して、それがきかけで昔みたいに、いや昔以上に親密になた。僕の部屋の押し入れは、美都姫との新しい思い出や彼女からもらたものの入た箱でいぱいになたよ。
 もうこれ以上は入らないかな、そう思ていた頃だた。美都姫が別れ話を切り出したのは。小学生の時みたく親の都合で遠くに行くわけでもないのに、僕から離れたいと言たんだ。
 彼女はそう言たけど、僕にとて相変わらず美都姫は大切な人だた。それに、何もできない小学生じないからね。
 僕は、大切なものを箱にしまう子供だた。今も、大切なものは箱にしまている。ただ子供の頃と違うのは、箱はお菓子の空き箱なんかじなくて、もと頑丈で鍵もかけられるものだけどね。さすがに、大切なものが増えすぎてこの押し入れには入らなくなてしまた。
 僕の一番大切なものが入ている箱はどこにあるかて?
 それは教えられないよ。僕にとて、大切なものが入ている箱は宝箱だからね。自分の宝箱のありかを、他人に教えるわけないだろう。
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