てきすとぽい
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第44回 てきすとぽい杯
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かいだんでみあげる
(
茶屋
)
投稿時刻 : 2018.04.14 23:43
字数 : 1932
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かいだんでみあげる
茶屋
「お
っ
、見えそう」
夏場なのにダブルライダー
スを着込んだ男がガラの悪そうな男がつぶやく。
「何? いたの?」
そう問うたのは、横に座る草食系眼鏡だ。スマー
トフ
ォ
ンの画面から視線をあげもせず、興味もなさそうである。
あくまでその問いに意味はなく、条件反射的な相づちのようなものだろう。
「いた
……
かも
……
」
「え、どこ?」
予想外の答えが返
っ
てきて、思わずライダー
スの男の視線を先を追う。
ライダー
スの男、三好が熱心に見上げているのは正面にある急な階段だ。
「階段とこ?」
「そう、あ、見えそう、お
っ
いけるか、いけるか」
日頃気だるげに煙草を煙にかえる作業に従事している男とは思えない熱意と集中力が感じられた。
三好がこれほど集中するということは、危険な存在かもしれない。
眼鏡こと忌部は、三好とは対照的な性格の人間である。
インドア趣味で、休日は読書とアプリ制作。太陽の下に出るのが嫌出るというよりは、その発想がない。
それにも関わず、三好は彼を引き連れて街に繰り出していくのである。
「依頼と依頼の間が開いちま
っ
た。間は魔を呼ぶが、これがあまりよくない日取りでね。間を埋めに行く」
「それ
っ
て魔を呼んじ
ゃ
うだけじ
ゃ
ないの?」
「うるせー
、暇なんだよ」
反論と抗議もむなしく、忌部は三好に引き連れられ、街へ繰り出すことになるのである。
「あー
、駄目だ
っ
た。見えんか
っ
た」
「もう少し近づくか?」
「お? 乗
っ
てきたかい忌部ち
ゃ
ん」
「そういうわけじ
ゃ
ないが」
「だが、もう無理だ。JKは階段を登り切
っ
た」
その瞬間、三好が追
っ
ていたものの正体に気付いた。
パンチラだ。
「見えそうだ
っ
たんだけどな
ぁ
。な、残念残念」
そうや
っ
て背中をバンバン叩いてくる三好がう
っ
とうしい。
「しかしお前も、意外とム
ッ
ツリだ
っ
たんだな」
「そんなわけあるか」
忌部が三好と出会
っ
たのはまだ小学生の頃だ
っ
た。
忌部にはそれが見えぎていた。見えすぎていたから、そいつらも引き寄せられてくることがあ
っ
た。
視線を合わせないようにする。
それが基本だ。
だが、強大な存在にはそれだけじ
ゃ
足りない。視線を外そうとしても、どうしても見てしまう。
目をそらすことができず、じ
っ
と見るしかない。
かつて眼球が収められていたはずの、虚ろな穴を。
忌部は強大な存在に完全に魅入られ、憑かれてしま
っ
た。近所の拝み屋では太刀打ちできず、それどころか挑んだ拝み屋たちは残りの生活を五体満足では過ごせなくな
っ
た。強大な呪いの渦。弱い人間ならば近づくだけでも気がふれたり、魔が差してしまう。同時に不幸な出来事も、呼び寄せてくる。
そんな渦に飛び込んできたのが三好だ
っ
た。
縁戚の男で、業界ではそこそこ名が通
っ
ていたらしい。
かなりの実力者だ
っ
たが、それの力はあまりにも強か
っ
た。三好もその渦に飲まれそうにな
っ
たが、ギリギリのところでそれを祓うことに成功した。
だから、忌部にと
っ
て三好はヒー
ロー
だ
っ
た。
三好にもら
っ
た視力を抑える眼鏡を忌部は今も大切にしま
っ
てある。
「見えそうで見えない少しだけ見えたパンチラ」
「ラー
油かよ
っ
て、見えたの?」
「いや、全然だ。これはもう風俗言
っ
て発散するしかね
ぇ
な
ぁ
」
「帰
っ
ていい?」
「お前もいくんだよ!」
「やだよ」
三好は忌部を救
っ
た戦いで、視力をかなり低下させた。その視力は現実の視力ではなく、それらを見るための視力である。
かつては名の知れた男だ
っ
たが、今ではだいぶ落ちぶれて、小さな仕事をこなして糊口をしのいでいる状態だ。
それを知
っ
たのは、三好に弟子入りしてからの事である。
そのことに関して触れることはないが、責任を感じていないといえば嘘になる。三好の能力は自分が補わなければならない。
杖となるのだ。
それが救
っ
てくれた恩を返すことであり、そして。
三好の視力ではそれをぼんやりとしたものとしか見ることができない。それは足が消えているような描写をされることもあるが、それに対する視力が足りていないことからくる場合が多い。
ぼんやりとするというのは焦点が合わないということであ
っ
て、いるのは分か
っ
ているが、それがどういうものなのかわからないだという。
つまり見えそうで見えない。そんなもどかしい状態なのだ。
だけど、それは常ではないように思えることがある。
おそらく三好の視力は回復しつつある、もしくは一時的に回復することがあるような気がする。
そんなことを考えながら、忌部は階段のほうを振り返る。JKが再び階段を上
っ
てゆく。繰り返し繰り返し。
その繰り返しはず
っ
と続くことになるだろう。
忌部たちのような人間以外からは気づかれることもなく。
忌部は、なんだか何もかもが自分と似ているような気がした。
見えそうで、見えない。
階段を上り終えそうで、終えられない。
あの背中には届きそうで、届かない。
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