第44回 てきすとぽい杯
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花束を君に、腐れ縁リリィズ、愛だよ愛
投稿時刻 : 2018.04.14 23:24
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花束を君に、腐れ縁リリィズ、愛だよ愛
犬子蓮木


 花屋を営んでいる。
 生まれた街に小さな花屋を開いて暮らしている。
 小さな女の子だた頃からの夢を叶えたのだ。
「わたしが大きくなたらお花屋さんになる!」と言たとき、幼馴染の女の子は「わたしもお花屋さんになる!」と言た。その子がいま隣にいるか、というとそういうことはない。世の中はそういうものだ。
 一緒に夢を語り合たからといて、いつまでも一緒にいるなんてあるわけない。
「あのー」お客さんがやてきた。
「いらいませ。どのような花をお探しでしうか」
「近くの花屋さんからこちらを紹介されたのですが……
 またか、私は思う。
 あのとき夢を語り合た女の子は、同じくこの街で暮らしている。そうして、近所で花屋を開いた。そう、お互いに夢を叶えたのだ。ただ、認識に齟齬があたのは、私は一緒に花屋を開こうとしていて、彼女は自分だけの店を持とうと考えていたということ。
 さらには、お客が向こうから流れてくるのも、売上を考えればいいことなのだけど、どうしてどうして複雑な気持ちになるのだ。
 ああ、ほんとうに、世の中は上手くいかない。

「ちと、またお客さんこちに寄越したでし
 店を閉め終えてから彼女のお店に出向いた。
 彼女のお店は開けるのが遅いので閉めるのも遅い。だからまだお店が空いていた。お店の奥に進んでカウンターの裏に座る。彼女は作業台で、花束を作ていた。
「だて、花言葉とか聞かれるんだよ? 知らないよそんなの。病院で入院してる恩師に花を送るからそれに合うような素敵な花言葉の花をくださいとか知るかて感じじない?」
 お前は本当に花屋か。花言葉ぐらい勉強しろ、と思う。
 だが、彼女のおかしいところはそれだけではない。こいつは花の名前すらもほとんど知らないのだ。かろうじて商売とするために値段だけ覚えている。だがそれも仕入れるときに覚えて、売たら忘れる。だから、高価な花は? と尋ねても名前はでてこない。店内にあるそのとき一番仕入れ値がかかた花を指差すだけだろう。
 そんな彼女がなぜ花屋をやていけるのかと言えば、ひとえにセンスがあるからだ。店内は綺麗に飾られた花で溢れている。同じ花屋としてみて、デスプレイで彼女に勝てるとはまたく思えない。なにが違うのか、説明はできないが、結果として彼女は優れていることだけがわかる。
 だからお客さんは彼女のお店に吸い寄せられるように入り、しかし名前や花言葉から花を探す人には、この店主では役に立たないため、彼女自身もそれはもう諦めてうちの店を紹介するのだ。
「少しは覚えればいいでし。そうすれば売りやすくなるんだから」
「いいじん、いいじん」彼女が言た。「そちのお店が儲かるでし。私達、ひとつのお店やていてるみたいなものじん」
 私が一緒のお店をやろうとお持ちかけたときに断たくせに、そういうことを言うのだ。
「私、花言葉とか嫌いなのー。花は見た目が命だよ。生物として、反映のために作られたシステマテクなデザイン。そして本来対象者ではないのに、そんなところに興味を感じてしまう人間のアートとしての関わり。それが花でし? 違う?」
 私はこのバカに勝てないとわかたので必死に勉強した。
 花の名前も、花言葉も、経営も、学んだことや知識で言えば彼女に負けることはない。テストだたら絶対に勝てるだろう。それでも、私は花屋として彼女に勝つことはできないのだ。
 それがとてもくやしい。

「そろそろお店、閉めようかな。手伝てくれる?」
 彼女がまとめていた花束を私に差し出してきた。私はいつも通りそれを受け取て微笑む。
「花、ありがとう。お店に飾てくるから片付けがんばて」
「えー、手伝てくれないのー。お客さんあげたじん」
「がんばてね。またあとで夕飯もてくるから」
 私は彼女の店を出て、自分の店へと向かう。
 彼女は、花の名前も花言葉も知らない。ただ、自分が一番いいと思う形に花束を作た。
 私は、花の名前も花言葉も知ている。けれど彼女からのプレゼントではそんなことを考えても意味がない。素直に受け取て喜ぶことしかできない。
 小さい頃から一緒にお花屋さんを開きたいと思てきた。
 けれど大きくなて、一緒にはできないことになた。
 それでも私と彼女は、この街で花屋を営んでいる。
 別々のお店だけど。
 私はもらた花束を見る。
 思わず笑みがこぼれる。
「きれいだな」
 いや、ほんとなんでこんなすごい花束をあのバカが作れるんだ。むかつくな。まじで。
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