てきすとぽい
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第46回 てきすとぽい杯〈夏の24時間耐久〉
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日常カンフル剤
(
ぱぴこ
)
投稿時刻 : 2018.08.19 01:24
字数 : 1000
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日常カンフル剤
ぱぴこ
あれは暑い夏のことだ
っ
た。
鍵のかか
っ
た病棟に入院していたわたしは、母から一冊の本を受け取
っ
た。
知らない作家。あらすじをまず読んでみたけれど、いまいちまだ惹かれる要素はない。
「今のあんたにはいい本よ、き
っ
と」
面会室で手渡されながら、母はそう言
っ
た。
母が帰
っ
たあと、病室のベ
ッ
ドに戻ると、仰向けに寝転んで表紙をながめた。
「日常カンフル剤
……
」
女性が苦悩しているような、そんなイラストが描かれた横に、好みのフ
ォ
ントで書かれたタイトルがあ
っ
た。
カンフル剤とは、だめにな
っ
た物事を蘇生させる比喩にな
っ
ている。
自由の利かないこの場所にわたしがいることは必然なのだけど、すでにこの先の人生すべてを諦めてしま
っ
ていたわたしには、なかなか皮肉が効いている。母も面白いことを考えたものだな、とひとりで笑
っ
た。
カバー
の折り込み部分には作者の略歴が載
っ
ていた。名前だけでは判別がつかなか
っ
たけれど、どうやら女性作家らしい。
少しずつ読み進めていくと、心を病んだ女性の物語らしか
っ
た。それも、複雑な。
そしてあまりに自分と酷似する描写が出てくるので、わたしは次第にのめり込んでい
っ
た。
あんなに本の虫だ
っ
たわたしなのに、今では集中力も続かなくなり、夜を明かしてでも一息に読み切るなんてことはできなくな
っ
てしま
っ
ていた。
それでも、毎日ち
ょ
っ
とずつ時間をかけて読んでいると、ある一文が目に留ま
っ
た。
「過去は踏み台、今は未来
……
」
過去のすべては今の自分の糧にな
っ
ていて、無駄なことなんてひとつもない。生きてることに無駄なことなんてひとつもないのだ、と。
ああ。そうだ
っ
た。
わたしは忘れてしま
っ
ていたのだ。たしかに病気のせいで失
っ
たものも多いけれど、得たものだ
っ
てあ
っ
た。
昔のわたしなら絶対にピンとくることなんてなか
っ
ただろう。
た
っ
たひとりの親友に依存し続けて関係を破綻させてしま
っ
たとき、わたしはまだ相手の心情を読み解く力に欠けていて、なぜそうな
っ
たのかがまるで理解ができなか
っ
た。
でもわたしは病んでから初めて、自分の得たものの大きさを知
っ
た。
それは相手のつらさを理解してあげようという適切な距離感、そして自分を素直に表現する「弱さ」だ
っ
た。
なぜこんなに大切なことを忘れていたのだろう。
なぜわたしは大事なあの子に同じことをしてしま
っ
たのだろう。
日常カンフル剤。
はやく続刊を読まないと、とベ
ッ
ドにうつぶせになると、すこしだけ枕を濡らしていた。
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