てきすとぽい
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第48回 てきすとぽい杯〈紅白小説合戦・紅〉
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矢
(
茶屋
)
投稿時刻 : 2018.12.15 22:46
字数 : 1386
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矢
茶屋
突然、矢に刺された。
深紅のハー
トをかたど
っ
た矢羽は白く無垢な毛皮で覆われている。心臓はそれたようだが、肺は貫いているようだ。
死ぬのかな。こんな訳も分からない凶器によ
っ
て。
そんな漠然とした呆然に襲われるが、死が俺を覆いつくす気配は一向にや
っ
てこない。
唐突に、脳に奇妙な声が聞こえてくる。
「恋の気配が感じられない」
脳に直接響く声とともに、天上よりさした日の光があたりを強く照らし出す。純白の羽の天使の羽とともに地上に舞い降りたのは、奇妙な生物。
それを生物と言
っ
てしま
っ
ていいのかはなかなかに疑問だが、無機物というよりは有機物に見えるし、全体が小刻みに震えたり、脈動しているしている点からして生物と仮定することはそれなりに順当な事であるように思える。
「僕は恋のキ
ュ
ー
ピ
ッ
ド。君に恋の矢を刺したはずなんだけど」
キ
ュ
ー
ピ
ッ
ドとは、あのキ
ュ
ー
ピ
ッ
ドの事だろうか。あの幼く愛くるしい天使として描かれるキ
ュ
ー
ピ
ッ
ド。だが、目の前の生物はあの図像からはあまりにもかけ離れている。羽こそ天使のそれだが、本体は人間の形すらしておらず蛞蝓と蚯蚓と海牛と雑多な生ごみを適当に寄せ集めたような代物だ。体は粘液で覆われているし、時折、麺をすするかのような不快な音を鳴らしている。
「驚いているね。人間よ。でも、これは幻でも何でもない。さ
っ
きから聞いている声も君に刺さ
っ
た矢から伸びた菌糸が脳に直接伝達している情報なんだ」
俺は慌てて矢を引き抜こうとする。
「ああ、待
っ
て。素人が抜こうとすると最悪脳が壊れてしまう」
「じ
ゃ
あ、どうすればいいんだ」
「そり
ゃ
君、恋をすればいいのさ。というか、その矢が心臓に刺さ
っ
てしまえば自然と恋をするはずなんだが」
「心臓は逸れたぞ」
「
……
」
「
……
」
「大丈夫、その矢は君しか見えないし、今後の人生君の視界に奇妙な物体が浮かぶということや奇妙な超常存在が見えるようになるというだけで社会生活に大きな影響は出ないよ」
「いや、今後ず
っ
とこれが見え続けるのはかなり困るんだが」
「
……
」
「
……
」
「ふむ、ならば」
そういうとキ
ュ
ー
ピ
ッ
ドは体表から鋭利な矢じり状の物体を突出させた。
「うわ
っ
、やめろやめろ何する気だ」
「大丈夫だ今度は心臓を外さないし君はもうこの男根のメタフ
ァ
ー
をすでに一度突
っ
込まれているわけで童貞ではないし二回目はき
っ
とスムー
ズだと思うし少し脳に菌糸が多めに食い込む危険性はあるけどち
ょ
っ
と脳みそが軽くな
っ
た
っ
て」
「駄目だ駄目だ」
「駄目かい?」
「駄目だろ」
キ
ュ
ー
ピ
ッ
ドは残念そうに溜息らしき気体と飛沫を吐き出した。
「じ
ゃ
あ、や
っ
ぱり恋に落ちてもらうしかないね。そこら辺の道端の花とか古タイヤでいいから恋に落ちてみてよ」
「そういう性嗜好はない。というかこの矢はそんな雑な作用を?」
キ
ュ
ー
ピ
ッ
ドの舌打ちが聞こえた。今回ばかりは明らかに耳で聞こえた。
とま
ぁ
、そんなこんなで俺はキ
ュ
ー
ピ
ッ
ドとの奇妙な日々は幕を開ける。キ
ュ
ー
ピ
ッ
ドの雑なチ
ョ
イスで恋に挑戦させられる奇天烈な生活とか自由恋愛主義者との戦いや陰陽師との異能バトルとかいろいろあるのだが、それはまた別のお話。
因みにキ
ュ
ー
ピ
ッ
ドは恋という概念を主食とする異次元生命体で、恋を捕食するために人間に矢を突き刺し続けるという真相もそのうち明かされるのであるが、その時の俺はまだ何も知らないけど、薄々そ
っ
ち系の予感はしていたのであ
っ
た。
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