第48回 てきすとぽい杯〈紅白小説合戦・紅〉
 1 «〔 作品2 〕» 3  14 
茶屋
投稿時刻 : 2018.12.15 22:46
字数 : 1386
5
投票しない
茶屋


 突然、矢に刺された。
 深紅のハートをかたどた矢羽は白く無垢な毛皮で覆われている。心臓はそれたようだが、肺は貫いているようだ。
 死ぬのかな。こんな訳も分からない凶器によて。
 そんな漠然とした呆然に襲われるが、死が俺を覆いつくす気配は一向にやてこない。
 唐突に、脳に奇妙な声が聞こえてくる。
「恋の気配が感じられない」
 脳に直接響く声とともに、天上よりさした日の光があたりを強く照らし出す。純白の羽の天使の羽とともに地上に舞い降りたのは、奇妙な生物。
 それを生物と言てしまていいのかはなかなかに疑問だが、無機物というよりは有機物に見えるし、全体が小刻みに震えたり、脈動しているしている点からして生物と仮定することはそれなりに順当な事であるように思える。
「僕は恋のキド。君に恋の矢を刺したはずなんだけど」
 キドとは、あのキドの事だろうか。あの幼く愛くるしい天使として描かれるキド。だが、目の前の生物はあの図像からはあまりにもかけ離れている。羽こそ天使のそれだが、本体は人間の形すらしておらず蛞蝓と蚯蚓と海牛と雑多な生ごみを適当に寄せ集めたような代物だ。体は粘液で覆われているし、時折、麺をすするかのような不快な音を鳴らしている。
「驚いているね。人間よ。でも、これは幻でも何でもない。さきから聞いている声も君に刺さた矢から伸びた菌糸が脳に直接伝達している情報なんだ」
 俺は慌てて矢を引き抜こうとする。
「ああ、待て。素人が抜こうとすると最悪脳が壊れてしまう」
「じあ、どうすればいいんだ」
「そり君、恋をすればいいのさ。というか、その矢が心臓に刺さてしまえば自然と恋をするはずなんだが」
「心臓は逸れたぞ」
……
……
「大丈夫、その矢は君しか見えないし、今後の人生君の視界に奇妙な物体が浮かぶということや奇妙な超常存在が見えるようになるというだけで社会生活に大きな影響は出ないよ」
「いや、今後ずとこれが見え続けるのはかなり困るんだが」
……
……
「ふむ、ならば」
 そういうとキドは体表から鋭利な矢じり状の物体を突出させた。
「うわ、やめろやめろ何する気だ」
「大丈夫だ今度は心臓を外さないし君はもうこの男根のメタフをすでに一度突込まれているわけで童貞ではないし二回目はきとスムーズだと思うし少し脳に菌糸が多めに食い込む危険性はあるけどちと脳みそが軽くなて」
「駄目だ駄目だ」
「駄目かい?」
「駄目だろ」
 キドは残念そうに溜息らしき気体と飛沫を吐き出した。
「じあ、やぱり恋に落ちてもらうしかないね。そこら辺の道端の花とか古タイヤでいいから恋に落ちてみてよ」
「そういう性嗜好はない。というかこの矢はそんな雑な作用を?」
 キドの舌打ちが聞こえた。今回ばかりは明らかに耳で聞こえた。

 とま、そんなこんなで俺はキドとの奇妙な日々は幕を開ける。キドの雑なチイスで恋に挑戦させられる奇天烈な生活とか自由恋愛主義者との戦いや陰陽師との異能バトルとかいろいろあるのだが、それはまた別のお話。
 因みにキドは恋という概念を主食とする異次元生命体で、恋を捕食するために人間に矢を突き刺し続けるという真相もそのうち明かされるのであるが、その時の俺はまだ何も知らないけど、薄々そち系の予感はしていたのであた。
← 前の作品へ
次の作品へ →
5 投票しない