神様たちのコンフュージョン
お空の上の天国では、神様たちが会議を開いていました。
「今日のアジ
ェンダは、人間たちの減少についてです」
ときは2100年、人間たちは大きく数を減らし、あと100年もすれば絶滅するのではないかという危機に瀕していた。これには神様たちもいくらか困り、こうして緊急会議が開かれることになったのである。
「理由はなにかな? 少し前にもいくらかの国であったよね」
「過去の事例でいえば、社会問題として、子供を育てにくい社会になりつつあったというものでした。そのときは神のテコ入れを使用し、社会の方針をかえて、結果として出生率を増やすことに成功しました」
「ふむ。今回は違うのかね?」
「今回の問題はエロです」
「エロ?」
いくらかの神様が不思議な表情を浮かべながらつぶやいた。
「人類とは稀に見るレアな生態を持っており、性行為から生殖と楽しみを切り離すことに成功しました」
神様の一人が、せいこういにせいこうと小声でつぶやいたがみんな無視しました。
「それは避妊ということですか?」
「それもありますが一人でするということです」
「ああ……」
神様たちからためいきとも感嘆ともつかないような言葉もれる。
「想像、本、動画、人形、はてはセクサロイドなど、人類は生殖から切り離した性的快感だけを得る方向に進化を進めてきたのです。そして現代では、科学技術を全力で使用したハイリアライズドバーチャリィによって、現実を超えた快感をシステムから容易に得ることができるようになり、人間たちの多くは恋愛をやめ、生殖行為を行わなくなっていったのです」
「まったく理解できないな。そんなフェイクでなにがたのしいのか」
「人間は、我々、神に似せてつくったはずなのに、どこでそんなベクトルで混乱してしまうことになったのか」
「生殖を進めるために、快感を得られるようにするという仕組みがプリミティブ過ぎたのでは?」
「しかし、それは生物のアーキタイプとしてスタンダードなものだろう?」
神様たちは意見をぶつけあいますが、解決には至りません。
「ある程度のものはいいと思いますよ。本とか動画ぐらいまでは」神様が咳払いをする。「私もいくつか見ましたが、あれらはアートです」
「じゃあそこまで進化を戻すようにしますか?」
神様たちは、神のテコ入れというシステムで、世界をいくらか方針転換させることができるのでした。
「いや、どこまでを芸術とするかがむずかしいだろう。ロボットだって優れたものは美しい。彫刻の裸婦像とロボット、なにが違うのか説明できるかね?」
神様たちは黙ってしまいました。
「ときにさっきのハイリアなんとかというのは……」
「ハイリアライズドバーチャリィ」
「そう、それはどんなものなのだね?」
「説明するのはむずかしいのですが、まずは体験してみるのがいいのではないかと思い、端末を用意させて頂きました。今、お配りします」
「ここでかね?」
「ええ、端末は小さいもので、頭に直接投影するのです」
「しかし……。こうみんなでというのは」
「学生の頃を思い出しますな」
「いいではないですか。我々、神の頭をそれほどどうこうというものではないのでしょう」
「しかし、人間というのはあなどりがたく……」
「だからこそ興味深いのでは?」
端末が神様たちに渡されていきました。
「それではみさなまに行き渡りましたでしょうか。操作は簡単です。端末のボタンを押すとあとはイメージの中でチュートリアルや操作説明がはじまります」
神様たちがおそるおそるという様子でボタンを押していきました。
「まさか……」
「そんな……」
「これはひどい……」
「…………」
「なんという……。なんという……」
そうして、100年後、神様たちは絶滅しました。 <了>